■第7話 明るく元気なストーカー
『お前、最近ナンて呼ばれてるか知ってっか~?』
2-Aの教室の、2時間目と3時間目の短い休み時間のこと。
ショウタの前の席に勝手に座り、ツカサがペンケースから15cm定規を
取り出すと一方を掴み、一方を指で反らせてバチン。
ショウタの額にヒットさせる。
『痛っ! なんだよ。』少し赤くなった額をさすりながら目を眇めるショウタに
『 ”明るく元気なストーカー ”』
ツカサはゲラゲラ笑いながら言った。
『はぁ~?』 ショウタは身に覚えがない風で、眉間にシワを寄せ謂われの
無い呼称に不満気に下唇を突き出す。
『 ”はぁ ”、じゃねーだろ、お前・・・
ホヅミんことだよ、ホヅミー・・・
お前、アレ完っ全にストーキングだろが。』
『あああ???』 目をパチクリとせわしなくしばたかせると、全く以って
不本意なそれにショウタは斜め上を見眇めて考え込んだ。
『なにが? なんで?? え??? どこが、どこら辺が???』
ツカサが呆れて大笑いしながらショウタの顔を盗み見るも、その顔は本当に
腑に落ちない様子。
『お前ってさ・・・ すげえよな・・・。』 仕舞には感心してしまった。
『だってさー・・・
ホヅミって、医学生のオトコいるって噂じゃん?
付き合ってる奴いんだから、フツウはさー・・・』
すると、『そっか・・・。』 ショウタが思い詰めたような顔を見せた。
『それについて、話し合ってなかったか・・・。』
ショウタが口をぎゅっとつぐむ。
慌てて机に手を置いて勢いよく立ち上がった瞬間、始業のチャイムが教室に
鳴り響いた。
(次の休み時間にホヅミさんトコ行こう・・・。)
本当は始業チャイムなんか無視して、今すぐシオリの元に駆け出したい
気持ちを堪えショウタは再び椅子に腰を下ろした。
『カレシ、かぁ・・・・・・・・・・。』
深く深く溜息のように口から洩れたその ”カレシ ”という3文字。
ショウタの善人顔の代名詞とも言えるその垂れ目は眇め、情けなく下がった眉も
しかめてもう一度ひとりごちた。
『カレシって・・・・・・・・・・・。』
駆け出したくて堪らない足が、カタカタと落ち着きなく貧乏揺すりを
繰り返していた。