■第59話 朗らかな誰かに似た・・・
いくらクリスマスと言えども、高校生のふたりは高級レストランでディナーを
するほどのお小遣いは持っていない。
クリスマスプレゼントを買う分にも避けておかなければならなかった為、
どこで夕飯を食べようかふたりは事前に相談し合っていた。
仲良く手をつないでやって来たのはリーズナブルなイタリアンレストランだった。
チェーン店のそこは普段から学生の姿も多く、ドリンクバーもあるため長い時間
居座っていられる。 きちんと事前に予約もして席を確保していた。
通された窓際のテーブル席は、丁度イルミネーションが煌めく大通りに面して
いて大きな窓からそれが一望できる。
『いい席で良かったね!』 嬉しそうに目を細め眺めているシオリの横顔を
ショウタは満足気に見つめていた。
互いにはじめて異性に渡すクリスマスプレゼント。 自分の座る長椅子の隣に
紙袋をちょこんと置くも、どのタイミングで渡すべきなのかが分からず相手の
様子を盗み見る。
ほんの少しの無言の時間が訪れる度にチラチラとそれに目線を向けるも、
食事の前がいいのか後がいいのか、はたまた最中がいいのか、互いに全く
分からなかった。
しかしテーブルにピザやパスタが並び、愉しそうにしゃべって笑って食べて
いるうちに小さいことなんかどうでも良くなっていた。
食後に注文したデザートプレートはクリスマス仕様になっていて、カットされた
ブッシュドノエルに苺やミントの葉が鮮やかで、粉砂糖は雪のようだ。
デザートが出て来てからも更に長い時間ふたりはしゃべって笑い、さすがに
そろそろ店に迷惑かと慌ててそこを後にした。
ふたり手をつないで目映いクリスマスカラーの街を歩く。
更にどんどん低くなってゆく気温に吐く息は顔の前を白く流れるも、
寄り添い歩くふたりには寒さなど感じなかった。
イルミネーションが眩しい公園を進み、装飾された大きなモミの木の前で
立ち止まったショウタ。
つないでいた手をそっと離しシオリと向き合うと、ずっと握りしめていた紙袋を
照れくさそうに差し出した。
『コレ・・・ 気に入るか、分かんないんだけど・・・。』
そうどこか不安気な目を向けるショウタに、シオリは少し呆れた顔を向ける。
大好きな人から貰うプレゼントが嬉しくないはずないのに、そんな当たり前の
ことすら不安そうに、ショウタはどこか心細げに佇んでいる。
『・・・見てもいい?』
嬉しくて仕方ない顔を向け、シオリはそっと紙袋の中を覗いた。
するとそこには、もふもふのくまのぬいぐるみが。
袋から取り出しよくその顔を見ると、なんだか下がり眉の情けない顔をして
いて朗らかな誰かさんによく似ている。
『なんかさ~・・・
ホヅミさん、情けない顔が好きだってゆってたから・・・。』
自分が一番情けない顔をしていることに、いまだ気付いていないショウタが
くまよりも情けない顔でえへへと照れくさそうに笑う。
クククと肩をすくめ笑うとシオリは思いっきりそのくまをぎゅっと抱きしめた。
目を閉じて深呼吸をして、大切そうに愛しそうに更に力を込めて抱きしめる。
『ベッドに置いて、毎晩一緒に寝るね・・・。』
照れくさそうに嬉しそうに頬を染めるシオリに、ショウタが急に真顔で
ぽつり一言呟いた。
『ぇ。 ・・・いいなぁ・・・。』
正直すぎる心の声が、うっかり漏れてしまった。
シオリが恥ずかしそうに目を眇めると、ショウタの胸にグーパンチした。




