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■第57話 眠り続けるショウタに


 

 

その日の放課後。 

 

 

ショウタがシオリを迎えに2-Cまで出向くと、黒板前でなにやら担任と

話しているその姿が目に入った。

 

 

『分かりました。』 担任にそう言って振り返ったシオリが教室戸口に

ショウタを見付けるとパタパタと小走りで駆け寄る。

 

 

『なにヤラかして怒られてたの~?』 ニヤリ笑ってショウタがからかうと、

『ヤスムラ君じゃないんだからっ!』 シオリも笑って目を眇める。

 

 

 

 『ちょっと担任に呼ばれちゃったから、先に帰ってていいよ。』

 

 

 

今日は部活がない日で、シオリはこの後6時からいつも通り塾があった。


毎日仲良く一緒に帰っていたふたり。 のっぴきならない事情が無い限り、

そう言われた所でショウタにはシオリをおいてひとりで帰る気など更々ない。

 

 

『待ってるよ。』 至極当たり前といった顔でさらりと告げると、嬉しそうに

シオリは小さく微笑む。 内心、そう言ってくれると思ってはいた。 

シオリだって出来れば一緒に帰りたいという気持ちは変わらないのだ。

 

 

 

 『どこで待っててくれるの・・・?』 

 

 

 

『ん~・・・ 自分トコにいるわ。』 そう言って、にこやかに口角をあげると

ショウタは軽く手をあげて『じゃ、あとで。』 と、また教室に戻って行った。

 

 

 

 

30分ほど担任と進路に関する話をして、シオリが慌ててショウタの2-Aを

覗くと教室にはショウタ以外誰もいなかった。


色褪せた窓辺のカーテンがだらしなく垂れている。 

陽が暮れるのが早くなった晩秋の教室にはしっとりと夕陽が翳りはじめ、

磨かれた床に机の4本脚の伸びた影を落とす。


そんな中、ショウタは相変わらず机に突っ伏して寝ているようだった。

 

 

 

 

  (まーた、寝てる・・・。)

 

 

 

 

起こさぬようそっと静かに近付いて、ショウタの前の席に座るシオリ。


すると突っ伏す机の上に、今日シオリが借りた数学の教科書が広がっている。

パラパラ漫画に気付いた様子で、何度も何度もめくったのかページの右下隅が

折れ曲がりめくり跡がしっかり付いていた。

 

 

 

 

  (あ・・・ もう、気付いたんだ・・・?)

 

 

 

 

クスリ。笑ってシオリはその教科書を静かに引き抜くと、なんとなくパラパラと

めくってみた。


シオリが描き込んだ情けない下がり眉のショウタが朗らかに笑い、青りんごを

差し出すその絵。 すると、描いた覚えのないものがカタカタと動き出した。

 

 

それは、

青りんごを差し出すショウタの横に佇む、前髪が乱れハの字の困り眉のシオリ。


ふと机に突っ伏し眠るショウタに目線を戻すと、その右手にシャープペンシルが

握られているのが目に入った。 シオリを待つ間ショウタが描き足したようだ。

 

 

尚もパラパラとめくると、呆れたように頬を緩めて肩をすくめ笑ったシオリ。

 

 

カタカタと動くそれは、青りんごを差し出すショウタの頬に、困り眉のシオリが

キスをするというお話だった。

 

 

『まったく・・・。』 小さく呟いて微笑むと、シオリはシャープペンシルを

握ったままのショウタの右手からそれを静かにはずした。


そして、その大きくてやさしい手を白い両手でそっと包む。

あたたかくて、不器用で、まっすぐな、ショウタのその手。 

 

 

 

 

  (大好きだよ・・・。)

 

 

 

 

シオリは座っていたイスから腰を上げ少し前屈みになると、いまだ眠り続ける

ショウタにそっと近付いた。


そして、眠り続けるその顔をやさしく見つめると、

その頬に小さく小さくキスをした。

 

 

 

すると、ガバっと突然起き上がったショウタ。


頬をぽりぽりと痒そうに掻くと、少し寝ぼけた感じで、

『あれ・・・ 寝ちゃってた。』 とぼんやり呟く。

 

 

『終わったの~?』 欠伸しながら朗らかに微笑まれ、シオリは赤い顔で

高速で首を縦に振る。


一瞬キスをしたことに気付かれたかと慌てたけれど、ショウタは全く気付いて

いないようだった。 それが可笑しくて肩をすくめてクククと笑う。

 

 

ショウタは腕時計に目を落とすと、『ほら、塾があるから帰るぞ~!』 と

自転車の鍵が付いたキーホルダーを指先でクルクルと廻した。

 

 

 

ふたりお揃いの、情けない顔の生き物のキーホルダーがやさしく揺れていた。

 

 

 


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