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■第52話 はじめて繋いだ、その手と手


 

 

 

ホテルのロビーを抜けて正面玄関から外へ出ると、そこはもう風が肌寒い

北の秋の夜だった。

 

 

キレイな月が出ていて無数の小さな星が煌めいている。 秋の夜空は明るい星が

少なく少し寂しい。双眼鏡でもあれば、ぼんやりと光る雲のようなアンドロメダ

銀河を見ることが出来るのだけれど。

 

 

ショウタ達の高校では、修学旅行時は基本制服着用でホテルでは学校ジャージ

しか認められていなかった。


ジャージ姿で夜道の散歩に出た、ふたり。

やはり北海道の風は冷たくて、地元の夜のそれとは全く違い同じ国とは

思えなかった。

 

 

ショウタがそっと手を伸ばしてシオリのまとめ髪に微かに触れる。


すると、まだしっとりと濡れた感触をゴツい指先に感じた。

その瞬間に目に入ったシオリの真っ白いうなじに、慌てて目を逸らす。

急激に心臓がドキドキ高鳴りだして、ふんわりかすめる石鹸のにおいに

眩暈がしそうだ。

 

 

『ま、まだ乾いてないじゃん!』 眉根をひそめ、風邪でもひいたら大変だとショウタが慌てる。


どさくさに紛れてもう一度髪の毛に触れてみた。 同じ人間のそれとは思えない

ほどまっすぐでツヤツヤで、そしていい匂いがする。 なんでこんなにいい匂い

なんだろう。

 

 

『別にダイジョーブだよぉ~』 シオリが過保護なショウタを見て頬を緩めた。

髪の毛に触れられた感触に、シオリも内心ドキドキしていた。

 

 

すると、部屋から持ってきた制服のブレザーをシオリの肩にそっと掛けた

ショウタ。 『つっても、やっぱ寒いでしょ~?』 えへへと照れくさそうに

頬を緩める。


ちょっとキザだったかもしれないと、どこか落ち着かなそうにシオリを見るも

『・・・ありがと。』 シオリは目を伏せ、その大きなブレザーに嬉しそうに

包まれた。

 

 

 

 

今日一日の出来事を話しながら、ふたりはゆっくり歩いていた。


ふたりの笑い声と落ち葉をゆっくり踏みしめ進む乾いた音が、秋の高い夜空に

響き吸い込まれて消えてゆく。

 

 

近くに小さな公園があるのを見付けて、足を踏み入れた。


夜なだけあって誰もいず、大きな木々で囲まれるそこはまるで閉鎖された

空間のようだ。

ベンチに並んで座り、更に尽きることない話を続け笑い合う。

ベンチ脇にある街灯が後方からやさしく照らし、ふたりの影がクッキリと

地面に伸びていた。

 

 

一瞬、互いに言葉を紡がない時間ができ、ただ黙って並んで座っていた。

 

 

ふとシオリが隣のショウタに目を遣ると、なにやら強張った顔をしてまっすぐ

前を見ている。 しかしその目はどこを見るでもなく、落ち着きがなくて

定まっていない。


目の前になにかあるのかシオリも目を凝らすと、地面にしっとり伸びる影が

不審な動きをしているのが目に入った。

ショウタの左手がなにか掴もうと、落ち着きなく伸びたりやはり諦めて膝上に

戻ったり。

 

 

 

 

  (・・・手? つなごうとしてる・・・?)

 

 

 

 

影が見えてしまっている事に、全く余裕がないショウタは気付いていない。

シオリは可笑しくて可笑しくて肩をすくめてこっそり笑う。

 

 

 

 

  (つなぐなら、早くつないでくれればいいのに・・・。)

 

 

 

 

シオリの手まであと少しの所で断念して、また戻ってゆく大きな手。


あまりのじれったさに、シオリはつなぎ易いようショウタと並んで座る

ベンチの座面上にさり気なく手を置いて横目で様子を伺った。

 

 

すると、チャンスとばかりショウタはその横に同じように手を置く。

指1本分の隙間を開けて置かれた、ふたりの手と手。


その位置に置いたまま、また動かなくなった不器用な影。

 

 

 

 

  (もう・・・。)

 

 

 

 

シオリが少しだけ手を動かし、自分の右手小指とショウタの左手小指を

わずかに触れさせる。

一瞬驚いてビクっと跳ねたショウタの手。大きくて不器用でやさしい、その手。

 

 

ショウタは、ゆっくりゆっくりシオリの華奢な手に触れてみる。


ひんやり冷たいその細い指。 あまりにすべすべのそれに、自分の緊張して

汗ばんだ手を嫌がられて振りほどかれないか不安気に、横目でシオリを盗み

見ながら。

 

 

シオリは掴まれた手にぎゅっと力を入れた。 そっと俯くその顔は眩しそうに

目を細める。


すると、一拍置いてショウタのそれも負けじと握り返す。

そして、ゆっくり指を絡めしっかり繋ぎ合った。

 

 

 

 

 

   はじめて繋いだ、その手と手。


   あったかくて。


   恥ずかしくて。


   胸がじんわり熱くなる。

 

 

 

 

ただ黙ってふたり、手を繋いだまままっすぐ前を向いてベンチに座っていた。



肌寒いはずの夜の公園でその頬は真っ赤に染まって、

そして嬉しそうに緩んでいた。

 

 

 


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