■第51話 修学旅行がやってきた
3泊4日の修学旅行がやってきた。
ショウタ達は北海道へ向かい、アイヌ民族学習や自然体験学習など大自然に触れ
仲間同士の絆を深める事を目的とした修学旅行となっていた。
各クラス毎に移動する際も、隙あらばショウタは2-Cの列までやって来ては
シオリの隣にちょこんと並び、まるでC組の生徒かのような顔をして進む。
その度に見つかり注意されるも、そんな事ぐらいで ”シオリの傍にいる ”と
いう権利を手放すショウタではない。
たかが教師にちょっと注意されたぐらいでめそめそ戻って行きはしなかった。
少し背を屈めて長身の体を低くし、まわりの女子と同化する姿にシオリが
肩を震わせて呆れて笑う。
3回目のそれの時、C組担任に ”C組に近付くな! ”とこっぴどく叱られた。
ショウタのA組担任が、平謝りしながらショウタの首根っこを掴んで連れ帰る。
『あああ・・・ ホヅミさぁぁああん・・・。』
ジタバタと手足をバタつかせ暴れる2-Aのロミオに、困った顔で呆れ果てて
2-Cのジュリエットは笑った。 愛おしそうに見つめて笑っていた。
ホテルに戻ってからの自由時間。
もう全体での夕食を済ませ、各自風呂に入ったり部屋で騒いだり修学旅行らしい
風景が広がる。
賑やかな6人部屋の片隅。ショウタは背中を丸めケータイをポチポチ打っていた。
同室の級友は、ジュースを賭けたトランプで馬鹿みたいに盛り上がっている。
From:明るく元気なストーカー
T o:ホヅミ シオリ
S u b:
本 文:なにしてんの?
今ってヒマ??
ヤスムラ
すると5分後。
ケータイを握り締めいまかいまかと凝視しているショウタへ、
シオリから返信があった。
From:ホヅミ シオリ
T o:明るく元気なストーカー
S u b:Re:
本 文:今、お風呂あがったとこ。
髪の毛だけ乾かしたら、暇だよ。
ホヅミ
From:明るく元気なストーカー
T o:ホヅミ シオリ
S u b:Re:Re:
本 文:じゃ、それ終わったら1階のロビーで会えない?
ヤスムラ
From:ホヅミ シオリ
T o:明るく元気なストーカー
S u b:Re:Re:Re:
本 文:わかった。
乾かしたら行くね。
ホヅミ
ケータイ画面を見つめ、『おっしゃっ!!!』 大声で叫びガッツポーズを
したショウタ。 トランプ組が突然のその雄叫びに驚き、一斉にカードから
ショウタに目線を向ける。
髪の毛を乾かしてからだというのに、ショウタはもう部屋を飛び出して行こうと
ドアまで駆け出す。 ロングヘアの女子が髪の毛を乾かす時間がどれくらい
かかるのかなんかショウタに分かるはずもないが、例えそれを知っていたと
しても逸る気持ちは抑えられる訳がなかった。
しかし、一旦足を止めて振り返る。
そして、再び室内へ戻り制服のブレザーを掴んで大きな音を立てドアを開けると
ホテル1階ロビーへ向けて大慌てで駆けて行った。
その頃シオリもまた、大慌てで髪の毛を乾かしていた。
ロングヘアのシオリの髪の毛は、そうそう早くは乾かない。
いつも時間を掛けて丁寧にブラッシングしながら乾かしているのだが、
早くロビーに向かいたくてそんな時間は掛けたくなどない。
翌日の髪の毛の状態など無視して雑に乾かし、それをまとめて引っ掴みぐっと
上にあげバナナクリップで留めて、シオリもまた駆け出していた。
エレベーターの目の前でショウタがシオリを待つ。
扉が開く度に満面の笑みを向け、シオリではない人に怪訝な顔を向けられ
上機嫌に上がった頬筋を慌てて戻す。
そして、その笑顔は5回目に日の目を見た。
まとめ髪のシオリが、照れくさそうにエレベーターから降りて来る。
ふたり、見つめ合って微笑み合う。
照れくさくて、恥ずかしくて、嬉しくて。
『ちょっと、散歩でもしない?』ショウタが腰をボリボリ掻きながら顎で指す。
コクリ。頷いたシオリも、照れくさそうにツヤツヤの頬を指先で掻いた。




