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■第46話 ハイタッチ


 

 

1学期が終わり、夏休みに入った。

 

 

相変わらずの、ふたりのもどかしい距離。


結局いまだシオリはショウタに想いを明確に伝えることは出来ず、

それでもふたりは頻繁にメールは送り合い、”友達以上 ”だということは

言わずもがなだった。

 

 

毎日会いたいけれどなんて口実を作ればいいのか分からず、丁度いい理由を

探り合うふたり。

そんな時、ツカサからショウタへ草野球の誘いが舞い込んだ。


『ホヅミでも誘えば~ぁ??』 あからさまにからかう感じの声色を出す

電話向こうのツカサに、ショウタは『それだっ!!!』 寝転がっていた

ベッドから思い切り飛び上がりガッツポーズをする。


勢いよく着地した裸足の小指が、自室の床に散らばってた漫画本の角に

クリーンヒットし、『う。』足の小指を押さえ悶え大きな体を縮こめながらも、

嬉しそうに右手はケータイを握る。


そしてすぐさまシオリにメールした。 

するとケータイを震わせた ”YES ”の返事。

 

 

 

 

 

草野球当日の朝は、どこまでも青い空にもくもくの白く濃い雲が浮かび、

絵に描いたような晴天だった。


グラウンドに集まるメンバーの中に、ユニフォーム姿のショウタ。

皆で顔を突き合わせ真剣に試合前の打合せをしているというのに、ショウタは

キョロキョロと辺りを見渡してばかりいて、全く集中していない。


監督から思い切りパコンと頭をはたかれる。 『聞いてんのか!ショウタっ』

しかし、そんなのお構いなしに尚も ”その姿 ”を必死に探している。

 

 

すると、今か今かと待ちわびるその姿がグラウンド入口に見えた。


シオリもどこか居場所なげにキョロキョロと見渡しショウタを探している様子。

まだ打合せが終わっていないというのに、嬉しくて堪らないといった顔で

ショウタは弾けるようにその方向目掛けて駆け出した。

 

 

息を切らして駆けて来たショウタに、シオリは照れくさそうに佇む。


生成色のナチュラルチュニックにデニムをロールアップし、いつもは背中に

垂れる長い黒髪は頭の天辺で大きなお団子に結わいている。

しかし、前髪だけはいつもの几帳面な一直線のままに。


はじめて見たシオリの私服姿。 

それは目を見張るほどに可愛らしくて、言葉が出ない。

 

 

ショウタは暫し潤んだ目で穴が開くほどシオリを見つめると、

ぽっかり開いたままだったその口からやっと声が出た。

 

 

 

 『か、かかかか・・・かか、可愛い・・・。


  すげー・・・ すげぇ可愛い! ええええええ、お団子可愛い!!!』

 

 

 

『あ、ありがとう。 分かった、もういいから・・・。』 あまりに

”可愛い ”を目の前で連呼され、さすがに恥ずかしくてシオリは俯き

手持無沙汰に前髪を引っ張る。

 

 

すると、『ショウタぁぁあああああ!!!』 監督から怒鳴り声が飛んだ。

えへへと悪びれもせず笑い、ショウタがグラウンドに戻って行った。

 

 

 

観覧席のベンチにはマヒロの姿もあった。


シオリとはさほど親しくはなかった為、互いにペコリと小さく会釈だけして

一応その顔に笑顔を作り合う。

マヒロはシオリが来ることを知らなかった為、内心ひどく驚いていた。

そしてモヤモヤが再燃し、落ち着かなくてシオリばかり気にして盗み見ていた。

 

 

 

絶好調で試合を運ぶショウタ達のチーム。 相手と大きな点差を付けて順調に

勝利へのカウントダウンを刻んでいた。

 

 

ショウタがバッターボックスに立つ。


殺気立った相手ピッチャーが真剣な表情で目を眇めているというのに

ショウタはチラチラとシオリの方へ視線を向けその頬に笑みをたたえて

全く集中していない。

 

 

 

 

  (こっち見なくていいから、前向きなさいよ!!)

 

 

 

 

シオリは人差し指で ”前!前! ”と指を差し合図するも、とろんと呆けた表情で

いまだシオリを見つめている。

 

 

 

 

  (見なくていいってば!! 前!! 前向きなさいって!!)

 

 

 

 

シオリの人差し指にも力が入る。 何度も何度も ”ピッチャーを向け ”と

指差ししているというのに、呑気にニヤリ笑ってVサインなんか送ってきた

ショウタ。


すると、シオリが突然立ちあがった。

 

 

そして、


『前、向きなさいよっ!! バカ!!!』 怒鳴った。 というか叫んだ。

 

 

その怒鳴り声はグラウンド中に響き渡り一瞬あたりはフリーズして、

そして笑い声がドっと起こる。味方チームだけでなく相手チームも笑っていた。

思わず叫んでしまった自分にシオリ自身驚き、バツが悪そうに慌ててベンチに座る。

ショウタは、更にえへへと嬉しくて仕方なさそうに笑った。


シオリに活を入れられたショウタが豪快に振ったバットは、快音を響かせ白球は

高い青空に見事な放物線を描いた。 ベンチにいたメンバーと、マヒロそして

シオリが立ちあがり歓喜に沸く。

 

 

意気揚々とベースに戻って来たショウタは、一列に並んだ面々が出す手の平に

自分のそれをパチンと当てて、にこやかに口角を上げた。

最後尾にいるシオリも嬉しそうに笑いながらその白い手の平を出して待っている。

 

 

するとシオリの前まで来て、止まったショウタ。


大きな手の平をシオリの白魚の様な手に当てようとして、なんだか途端に

まごつきモジモジと照れくさそうに頬を緩める。 

ユニフォームのお尻で、泥だらけの手の平をゴシゴシと拭いてキレイにしたは

いいが、再度手の平を見つめ少し首を傾げる。 まるで、まだ汚くてシオリの

美しい手には触れられないのではとでも思っている風で。

 

 

一向にハイタッチしない、その手と手。


互いに手の平は出し合っていて、あと数センチでそれはタッチし合うと

いうのに。

その様子を一列に並んだままじっと見ているチームの面々。 

皆一様に息を呑み、見守る。

 

 

 

 

  (ちょっと・・・ 早くハイタッチしてよ・・・ 恥ずかしい・・・。)

 

 

 

 

すると、ツカサがつかつかと進みショウタの後ろに立って思い切り背中を押した。

体が傾げよろけた瞬間、ショウタの手の平がシオリのそれにぶつかり、

やっと触れる。

 

 

『見てるコッチがハズいわっ!!』 ツカサまで赤くなり、呆れ顔を向けた。

 

 

 

一瞬触れ合ったその手と手。


ショウタはあからさまに嬉しそうな顔をして、いまだ手の平に残る感触に

浸っている。 シオリは照れくさいのを隠そうと、なんでもないといった表情を

必死に作って。

 

 

 

マヒロだけがそれをジロリと見眇めていた。

 

 

 


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