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■第4話 思い込んだらまっしぐら



 

 

 

 『謝りたい・・・ 謝りたい・・・ 謝りたい・・・。』

 

 

その午後、ショウタはそればかりブツブツと繰り返していた。


言った言葉に関しては、嘘いつわりは無かった。

しかし、あんな人前で言うのは、どう考えても無しだ。 あれはマズかった。


例えば同じクラスなら、彼女がからかわれていたら、それをかばう事だって

出来るがなんせ彼女は別のクラスで、どんな風にクラスメイトから見られている

のか分からない状態。

 

 

 

 『謝りに行かなきゃ・・・。』

 

 

 

とにかく思い込んだらまっしぐらのショウタ。


終業を報せるチャイムが教室に、廊下に、昇降口に鳴り響いた途端に思い切り

椅子から立ち上がり、その勢いで後方に引っくり返ったそれをそのままに

ダッシュでシオリのクラスへ向かった。

 

 

 

その日は一日、クラスメイトから好奇な目で見られ散々だったシオリ。


シオリのキャラクターによるものか、面と向かってからかったり囃し立てたり

する声はなかったものの、教室の至る所から洩れ聴こえるヒソヒソと話す声や

クスクス笑う声に心から辟易していた。

 

 

それならば、堂々とからかわれた方がまだ反論の仕様もあるというものだ。


しかし、”大人しい ” ”話しづらい ” ”笑わない ”という3大イメージを

すっかり植え付けられてしまった今、それが急に翻るとも思えず、ただ流れに

身を任せて1秒でも早くクラスメイトの脳裏から、今朝の悪夢のような出来事が

忘れ去られるのを待つだけだった。

 

 

昼休みに、敢えて彼に冷酷な対応も示した。


もし逆の立場だったとしたら、もう二度と話し掛けられないだろうと

シオリは推測する。

まずその前に、シオリだったらあんな意味不明な告白なぞする訳も

ないのだけれど。

 

 

『人の噂も七十五日・・・。』 ぽつり小さく呟いて七十五日を耐え抜く覚悟を

決めつつカバンに教科書をつめ、帰る支度をはじめたシオリに・・・

 

 

 

 

  『ホヅミさぁぁぁあああああん!!!』

 

 

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

耳に聴こえたその声が、別人であってくれとシオリは願う。

または ”ホヅミ ”姓が他にもう一人いてくれることを切に願う。

 

 

 

  顔を上げられない。


  否、上げたくない。

 

 

 

昼休みは遠慮がちに教室後方の出入口に隠れるようにして佇んでいたはずの

その姿はなぜか今、前方出入口から堂々と、大きく、滑舌よく、元気いっぱいに

シオリの苗字を呼び掛けている。 というか叫んでいる。

 

 

 

 

  (な、なんなの・・・。)

 

 

 

 

すると、段々その声は近寄って来た。


放課後の清掃をはじめた教室の騒々しさに紛れて教室内を乱雑に進み、

俯き聴こえないフリをしているシオリの目の前までやって来て歩みを止めた。

 

 

まだ頑なに顔を上げないシオリ。


机を凝視するその顔は、前髪に隠れた眉根を思い切りひそめて、

口はぎゅっとつぐんでいる。

 

 

 

 『ホヅミさん・・・ ちょ、話したいこと、あんだけど・・・。』

 

 

 

そのやたらと良く透るガサツな声と、クラスメイトの忍び声が教室内に

響き渡るのを耳にシオリは観念してしずしずと顔を上げた。


そして、『わかった。』 と抑揚なく一言呟くと、無意識のうちに大きく大きく

溜息が漏れていた。

 

 

 

『わりぃな!』 屈託なく笑うその顔が、憎たらしいほどだった。

 

 

 


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