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■第32話 青い春


 

 

 

 『ぁ、ヤスムラー・・・ 包帯とれかかってる・・・。』

 

 

ショウタが左腕をアームリーダーで吊ったまま、スキップでもしそうな面持ちで

放課後の教室を出ていこうとしている所を、マヒロが呼び止めた。


ショウタの片手には、学校カバンとサブバッグと、更には小学生が持つような

お習字セットまで掴んで。 

右手しか使えないため、それは結構な重量になっていそうで。

 

 

『ぁ、ほんとだ・・・。』 机にカバン一式置き、ショウタは右手だけで

包帯を結ぼうとするも出来るはずもなく、シオリに甘えて頼んでみようか

一瞬考えニヤけたところに、


『結んであげるから、ほら、手ぇ出しなよ。』 マヒロが指を伸ばした。

 

 

掃除当番が気怠そうにモップで机の間の床を撫でている中、ショウタは机に浅く

腰掛けその前にマヒロが立って、ショウタのほどけかかった包帯を巻き直す。


マヒロはお習字セットを、どこか納得いかない表情で見眇めていた。

 

 

 

 『ねぇ、ヤスムラー・・・』

 

 

 

左腕を吊っているアームリーダーを一旦はずしたショウタが軽く腕を上下している。

やはりまだ少し痛む。 少し顔を歪めてマヒロに巻かれている包帯に目を向けた。

 

 

 

 『アンタ、書道部入ったって・・・ ホント??』

 

 

 

すると、包帯に落としていた目を上げニヤっと白い歯を見せて

『ホヅミさんが書道部だからなっ!』 と嬉しそうに笑う。


『その左手で習字なんか出来んの~?』 怪訝な顔を向けるマヒロは、

呆れたように頬を歪めているが、『右は動くから問題ないっしょー!』 と

呑気に上機嫌で返した。

 

 

そして、

 

 

 

 『まぁ、そもそも習字したくて入った訳じゃねーしな。』

 

 

 

ショウタはそう言い、マヒロが包帯の端を蝶々結びし終わったのを確認すると、

『さんきゅ。』 と一言、カバンを引っ掴み待ちきれないように廊下を駆けて

行ってしまった。

 

 

 

 

  (ホヅミさんがいればいい、って意味か・・・。)

 

 

 

 

なんとなくモヤモヤしたものが拭い切れなかったマヒロ。

やはりどうしても納得いかない。 胸に引っ掛かるものを無視できない。

 

 

丁度帰り支度をしていたツカサの机へ近寄る。 ツカサはカバンの持ち手を掴み

イスの背に膝を当ててぐっと押し込み机の下に納めると、イス脚の先に付いた

滑り止めのゴムが床に擦れてギギギと耳障りな音を立てている。

 

 

『ねぇ。』 マヒロは声を掛けた。

 

 

 

 『ヤスムラってさ~・・・


  ほんとにホヅミさんのこと、好きなのかな・・・?』

 

 

 

突然話し掛けてきたと思ったらショウタの話がはじまって、ツカサは少し驚いた

顔を向ける。

そして、なにか察したツカサは少しニヤける頬を隠しながら何気なく訊いてみる。

 

 

 

 『・・・じゃ、ねえのぉ~?


  なに? ・・・なんか気になんの??』

 

 

 

『別に・・・ 気になるとかじゃないけどさ・・・』 マヒロはなんだか

要領を得ない。 しかしその顔はあきらかに納得いかない、不満そうなそれで。

 

 

 

 『ねぇ、だってさ!


  ホヅミさんって、医大生のカレシがいるんでしょ?


  なのに、なんでヤスムラのストーキングを許してる訳?


  てか、ヤスムラもヤスムラだよ!


  カレシいる子に、あんなに付きまとうかね? フツウ・・・。』

 

 

 

どんどんヒートアップしてゆくマヒロの不満は、留まることを知らない。


ツカサに掴みかかりそうな勢いで身を乗り出す姿の圧力に気圧され、

机の前に立っていたツカサは数歩後退りすると尻が机のへりにぶつかり、

そのまま腰掛ける。

 

 

 

 『ヤスムラはさ~ ”イイ人 ”だけが取り柄の奴じゃん?


  もしかしたら、都合よく利用されてんじゃないのかな・・・。』

 

 

 

ぷっと笑ってしまったツカサ。


ブツブツ延々呟くマヒロの顔は、まるで欲しいオモチャをショーウインドー

越しに眺めて駄々を捏ねるこどものように不貞腐れている。

 

 

 

 『ん~・・・


  ショウタが言ってたぞ、前に・・・


  ホヅミにオトコいてもいいのか訊いたら、


  ”明日になったらホヅミさんの気持ちは変わるかもしれないから ”って。』

 

 

 

『バカじゃないのっ、アイツ?!』 眉根をひそめて不機嫌そうに罵る。

 

 

 

 『まぁ、本人が好きでやってることだし、


  もしかしたら、ほんとにホヅミの気持ち動かさないとも限らないし、


  別に、外野がとやかく言うことじゃないんじゃね~・・・?』

 

 

 

すると、口を尖らし俯いたマヒロ。


『それはそうだけど・・・。』 足元に目を落とし机の脚を意味も無く

コツンコツンと蹴りながらブツブツとまだ不満気に呟いている。


そんな横顔をチラリ眺め、ククク。笑うとツカサは言った。

 

 

 

 

 『アッチもコッチも青春だなぁ~・・・


  俺にもどっかに転がってねぇかな・・・ 俺の青い春、ドコー??』

 

 

 




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