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■第31話 ほんの少し近付いた距離



 

 

 

 『いや、あのさ・・・


  アレ、あの、干してあったあのアメコミのパンツ・・・


  アレ父ちゃんのだから! ・・・俺んじゃないから!!!』

 

 

 

商店街を抜けたあたりで、ショウタがなにやら大慌てで真っ赤な顔をして

まくし立てる。


『え?』 言われている意味が全く分からず、キョトンと見返すシオリ。

しかし尚もショウタは必死に動く右手を上げたり下げたり落ち着きなく続ける。

 

 

 

 『あ!!!違うわ・・・ あの、白ブリが父ちゃんの、だから・・・


  アメコミの、が・・・ ほんとは・・・ 俺ん、なんだ、けど・・・。』

 

 

 

店舗兼自宅になっているショウタの八百屋。 2階のベランダに洗濯物が

干してあるのを見付けたショウタがシオリに見られまいと足早に通り過ぎ

たかった所、母親に見つかって足止めを食らい、ショウタのド派手な

”アメコミ・トランクス ”を見られたのではないかとひとりアタフタ弁解を

していたようで。

 

シオリの目には洗濯物など見えていなかった為、なにを言われているのか全く

分からず結局ショウタが一から十まで恥ずかしい説明をし、説明し終わって

増々恥ずかしいという地獄のような状況だった。

 

 

もう笑い過ぎて立っていられずその場にしゃがみ込んだシオリ。

 

 

『アメコミじゃないのもあるんだけど・・・。』 とボソボソ言い訳めいて

いるショウタへ『どうでもいいわ!』 と、尚もケラケラ笑った。 

目尻から涙が伝って、両手で顔を覆うようにしてそれを拭う。

 

すっかり前髪も乱れてしまって困り眉がコンニチハしているけれど、

シオリ本人はそれに気付いていないようだった。

 

 

笑われ過ぎて照れくさそうにコメカミをぽりぽりと人差し指で掻き、

でもどこか嬉しそうにショウタがシオリを見つめる。


前髪の件は言わないでおいた。 せっかく可愛いんだから、そのままに。

 

 

 

商店街をまっすぐ行った先に、シオリの塾があった。


まだ開始の時間には少し早かった。 他の誰もまだ来てはいない時間だ。 

そっと俯くように腕時計に目を落とすシオリ。

 

 

 

 

  (まだ早いって言ったら、付き合わせちゃうよね・・・。)

 

 

 

 

どこで時間をつぶそうか考えていたシオリへ、『何時から?』ショウタは訊く。

少し間を置きポツリ、『6時・・・。』 どこか遠慮がちに呟いた。

 

 

 

 『まだ1時間近くあんじゃん! どうすんの??』

 

 

 『ぁ、うん・・・ テキトーに時間、つぶそう・・・かな・・・。』

 

 

 

なんだか引け目を感じてるように小さく言うシオリにショウタはケラケラ笑う。

 

 

 

 『なぁ~んだよ・・・ 付き合うよ~。』

 

 

 

至極当たり前のような顔を向けショウタが言うも、尚も申し訳なさそうに

俯くシオり。


ショウタは目を細め微笑む。

シオリの仕草ひとつひとつに、胸の奥がきゅんと歯がゆい音がする。

 

 

 

 『違った! はじまる時間までしつこく付きまとうわ!


  俺、なんだっけ・・・?


  えーぇと・・・ ”明るく元気なストーカー ”だからさっ!』

 

 

 

ぷっと吹き出して笑ったシオリ。

そっと目を上げてショウタを見つめる。 そして素直に嬉しそうに笑った。

 

 


塾から少し離れたところにある丁度いい高さの植え込みにふたり並んで腰掛ける。


シオリは腰掛けるその狭いブロック部分に、ちょこんと浅く座り足を投げ出す。

豪快に深く腰掛けたショウタは豪快に背中の植え込みを押し退け葉が数枚落ちた。


ふたりの距離は自転車を押して歩いていた時より、ほんの少し近い。

 

 

ショウタのこども時代のエピソードを聞いて腹を抱えて笑っていたら時間なんて

あっという間に過ぎてしまった。

 

 

 

 

  (もう時間だ・・・


   まだ・・・ ヤスムラ君と話してたいのに・・・。)

 

 

 

 

名残惜しそうにショウタが手を振って元来た道を戻ってゆく。

何度も何度も振り返って、その度にシオリへと大きく手を振って。

 

 

 

シオリはその背中をじっと見ていた。


じんわり熱を帯びた心臓が、どきん どきんと高鳴っていた。

 

 

 


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