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■第27話 とびきり情けない顔

 

 

 

その朝の ”放課後にね ”以来、ショウタは心臓がバクバクと超特急で打ち付け

何をするにも集中出来ずにいた。

 

 

自席のイスに浅く腰掛け首を反らせて、口は半開き。


左腕を吊り上げたまま延々ボ~っと天井を見ているその姿に、クラスメイトも

担任教師もケガの影響かと誰も指摘せずに黙って放置していた。

 

 

 

   ”じゃ、放課後にね! ”

 

 

 

シオリの口から出たその言葉を、何度も何度も頭の中で反芻する。


まるで当り前のように、あの薄くて形のいい艶々の唇はそう言った。

ショウタに向かって、そう言ったのだ。

 

 

『放課後・・・に、ね・・・。』 まだ呆けた状態のまま、ひとりごちてみる。 

 

 

おまけに、今までは心の中で思っていても口には決して出さず、不機嫌な顔を

するだけだったシオリがハッキリと『怒ってるの!』 とショウタに向かって

表現した。


少し口を尖らして、華奢な白魚のような手はグーに握って。 

それがまた可愛らしくて。

 

 

 

考えれば考えるほど、どんどん頬は熱くなる。


手の平で風を送ってはみるが、微風しか作れないそれ。

ふと、机の中にうちわがあった事を思い出して取り出し、顔を仰いだ。


扇ぎながら、シオリの前髪に風を送って怒られたことを思い出しにやけ笑いをする。

なにをしてもシオリを思い出してしまって、結局ショウタはガバっと机に突っ伏

し机の下に幅いっぱいに存在感を示す脚は、落ち着きなく高速で貧乏揺すりする。

 

 

結局シオリを頭の中から追い出すのは、諦めた。

 

 

 

 

放課後にいつもの西棟で話をする約束はしたのだが、放課後まで待てなくて

昼休みにもシオリの2-Cをこっそり覗いてみたショウタ。

 

 

 

 

  (うざいって嫌な顔されるか、さすがに・・・。)

 

 

 

 

戸口で目だけ出して教室内をそろり覗き込むと、シオリはクラスの女子と

話をしているようで、なんだか愉しそうなその様子に邪魔をしては悪いかと

踵を返してきた道を戻ろうとした。

 

 

その時、一瞬教室戸口にショウタの背中が見えた気がしたシオリ。


席を立ちあがってパタパタと小走りで扉まで行き、顔を出して廊下を眺めると

やはり戻ってゆくショウタの背中が見える。 

背中にもまわした腕のリーダーの白色がやけに目立って目に付くその後ろ姿。

 

 

 

 『ヤスムラく~ん・・・?』

 

 

 

扉から更に身を乗り出して呼び掛けると、ショウタがその声にもの凄い勢いで

振り返った。


呼び掛けられたことに驚き過ぎてその場でかたまり、棒立ちしている。

その様子に小首を傾げるシオリ。 

なにかあったのか、ほんの少し心配になっていた。

 

 

すると、大慌てでショウタが走ってやって来た。

左腕が振れないため早くは走れず、走りづらそうなそのフォーム。

 

 

『用事あった?ウチのクラス来てたでしょ・・・。』 そう言ってまっすぐ

シオリに見つめられショウタは思わず泣きそうになってしまった。


いつもの情けない顔を、更に情けなく歪めている様子に慌てるシオリ。

覗き込むように小首を傾げ、頭ひとつは背の高いショウタを見上げる。

 

 

 

 『あ、もしかして・・・ 痛いの??


  ・・・痛み止めちゃんと飲んだ? 飲まなきゃダメだよ!』

 

 

 

すると、口をぎゅっとつぐみ首をぶんぶんと横に大きく振るショウタ。

いまだ、とびきり情けない顔を向けたまま。

 

 

そして、やっと絞り出した『ダイジョーブ・・・。』 という一言を喉の奥から

発すると暫くシオリの顔を穴が開くほどじっと見つめた。

 

 

『放課後に。』 そう小さく呟いて、そのガタイのいい体はシオリに背を向けて

自分の教室へ戻って行った。

 

 

 

なんだか頼りなく見える猫背の大きな背中を、シオリはぼんやりと見ていた。

 

 

 

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