■第25話 慌てふためくその姿
突然、聞いたこともないような雄叫びを上げたシオリにコウは慌てて駆け寄った。
『え?? なに、どうしたの??』
ベッドの上にぺたんこ座りをして頭を抱え込み、オロオロとなんだか酷く
慌てふためくその隣に腰掛けてそっと覗き込む。
そしてシオリの背中に手を置くと、『大丈夫か?』やさしくトントンと叩いた。
すると、すぐさまメール着信のメロディが響いた。
『ヒっ!!!』 喉の奥から今まで出したこともないような呼吸音が出た。
ビクっと飛び上がり後退りすると、思わずケータイを放り出したシオリ。
(へへへへ返信早すぎるじゃない!!!)
真っ赤になってまるで泣き出しそうな困り顔をしているシオリを、
コウは首を傾げて見ていた。
そして、コウの足元に放られたケータイを拾い、ふと画面に目を遣ると
そこには ”エラー ”の表示。
『アドレス不明でエラーで戻ってきてるよ?』
ケータイを掴む手を『ほら。』とシオリへ伸ばすと、うな垂れていたその顔を
ガバっと上げてケータイを引っ掴み、慌ててそれを確認する。
そして、ケータイを胸に抱いて『良かったぁ・・・。』と心の底からホッと
した顔をした。
『ん~?』 笑いながらシオリを見つめたコウ。
いつも冷静沈着なシオリがこんなに取り乱す姿なんて、こどもの頃からの
長い付き合いだがあまり見たことが無かった。
赤く頬を染めてツヤツヤの髪を振り乱しコンパクトに体育座りをして、
ケータイを握りしめながら安堵のような困ったような怒ってるような顔を
している姿に、直感で先程リビングでユズルから話が出た噂の ”青りんご君 ”
が関連しているのだと気付いたコウ。
『 ”青りんご君 ”にメールしたの・・・?』
やさしい声色で、訊く。
ホヅミ家系の色が強いシオリは、コウとはどこか似ているものがあった。
シオリの母親と兄ユズルは、母方のそれが強かった。
からかっているつもりはなかったのだが、クールな血が色濃いはずのシオリは
分かりやすく不機嫌顔を向ける。
思わずクククと笑ってしまう。
なんだかそんなシオリを見ていたら、心の奥底から不思議な感情が湧いてきた。
『毎日シオリが好きな青りんごくれて、
シオリに見惚れてケガしちゃうんだから、
・・・その彼、随分な惚れ込みようだね~?』
もうこの話は続けたくないのに、コウは珍しくそれをやめようとしない。
母親や兄と違い、敏感に ”空気が読める ”人なはずなのに。
『ぁ。付き合ってる、とか・・・?』 更に深く突っ込んで訊いてくる従兄弟の
横顔にシオリは思い切りしかめっ面を向けて言い放った。
『用がないなら、出てってよ!! もう寝るんだからっ!!!』
コウがふと壁にかかる時計に目を遣ると、まだ時刻は9時だった。
肩をすくめてクククと笑うと、『ごめんごめん、おやすみ。』と立ちあがり
背中で言う。
そして、部屋を出てゆく瞬間、小さく振り返りぽつりと呟いた。
それは、どこか冷たい声色で。
『シオリの相手は、医者じゃなきゃ認められないんだよ。』