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■第23話 青りんごの子

 

 

 

ホヅミ家のリビングで、母親と整形外科医の兄ユズル、そして従兄弟のコウ

3人で夕飯後のお茶をゆったりと楽しんでいる。


コウはホヅミ家近くにある医大に通っていて、頻繁に顔を出していた。

シオリにとってはユズルの他の、もう一人の兄のような存在だった。

 

 

そこへ、塾終わりのシオリが帰宅した。玄関ドアがバタンと開閉する音が響く。


『ただいまぁ~』リビングに軽く声をかけ、そのまま2階自室に上がろうとして

『ぁ、コウちゃんいらっしゃい。』 と一言付け足した。

 

 

 

制服から部屋着に着替えてリビングに下りると、兄ユズルが思い出し笑いを

するように言う。

テーブルに両肘を乗せマグカップを両手に持って、丸める背中は乙女のようなそれ。

 

 

 

 『今日、お前の学校の子が整形に来てたぞ。』

 

 

 

『へぇ。』 さほど興味がない感じを隠しもせず、シオリは付けっ放しの

テレビに目を向ける。


母親が温めてくれた夕飯をリビングテーブルについてひとり食べ始める。

本来はキッチンのテーブルで食べるのだが、塾終わりでシオリひとりの夕飯時は

テレビを見ながら食べるのが常になっていた。

 

 

 

 『なんかさ~・・・


  体育の授業中に、好きな子に見惚れてケガしたとか言っててさぁ~・・・


  青春だなぁー!!! もうそんな甘酸っぱいの、ナイよなぁ~・・・


  なんかそれ聞いて、僕、キュンとしちゃってさぁ・・・』

 

 

 

兄ユズルが遠い目をしてうっとりと話している。


相変わらず両肘ついているそのポーズで、頬を両手で包んで小首を傾げまさに乙女。

母親が頬に笑みをたたえて

『あら!いい話ねぇ・・・。』 と兄ユズルと同じ顔で言う。 

 

 

すると、一緒に笑っている従兄弟コウに目を向け、

 

 

 

 『コウは、大学生だからまだまだ甘酸っぱいのあるだろ~・・・


  いいなぁ~・・・ 若いって、いいよなぁ~・・・』

 

 

 

コウは、苦笑いをして一瞬シオリへ目線を向ける。

シオリは夕飯に目を落とし、その表情はよく見えなかった。

 

 

そして、


 『ユズル君だってまだ20代じゃん? ほら、ナースとかでいないの??』

 

 

 

 『ウチの看護師なんか四半世紀は軽く勤めてるオバチャンばっかなんだよ!!


  父さんに言って、少し若い子入れてもらおうかな・・・。』

 

 

 

そして、ひとりでベラベラよくしゃべる兄ユズルは

『モテ期再来しないかなぁ・・・。』 と心の底からの叫びのように呟いた。 

 

 

 

その時、シオリはひとり俯き眉根を寄せてかたまっていた。

 

 

 

 

  (え・・・・・・?


   ウチの病院に行ったのって、ヤスムラ君・・・??)

 

 

 

 

すると、ショウタの話題はもう終わったかと油断しかけたシオリへ、

兄は思い出したように続ける。

 

 

 

 『シオリ知らないか? 同じ2年生だって言ってたぞ、その子。


  その子はお前のこと知ってるっぽかったけど・・・。』

 

 

 

ギョッとするシオリ。 もうこの話題はやめてほしいのに、兄ユズルは尚も

続け口を閉じない。

余程ショウタの青春話が気に言った様子だ。

 

 

『ぇ、ぁ・・・ どうだろ?生徒いっぱいいるし・・・。』 

適当に誤魔化したシオリ。


十中八九、その青春話の ”好きな子 ”が自分だということはなにがなんでも

家族に知られたくない。

 

 

すると、

 

 

 

 『先生も青りんご好きですか?って訊かれたんだよねぇ・・・


  なんか、八百屋らしいよ。 その子の実家・・・


  なんでピンポイントで ”青りんご ”なのかよく分かんなかったんだけど。』

 

 

 

 

    ガタンッ!!!

 


動揺したシオリが両手に掴んでいたマグカップを倒し、食後用に母親が淹れて

くれたお茶をテーブルの上にこぼした。

 

 

 

 

  (なに余計なこと言ってんのよ・・・ あのバカ・・・。)

 

 

 

 

そして、ソロリ。恐る恐る母親の方を盗み見る。


”青りんご ”というワードに、どうか気付きませんようにと心の中で

神様・仏様・お母様に祈る。

しかし、母親はシオリがこぼしたお茶を拭くために、キッチンに布巾を取りに

立ちリビングに戻るとそれをシオリに渡しただけだった。

 

 

『お茶淹れなおす?』と訊き、例のワードについては引っ掛かっていない気配。

 

 

心の底からホッとしたシオリ。

布巾でこぼしたお茶を拭きながら、このままこの話題はフェイドアウトしようと

していた時

 

 

 

 『シオリも最近、青りんご持って帰って来るわよねぇ~?』

 

 

 

一拍、否。 三拍ぐらい遅れてマイペースな母親が口にした。

 

 

『アレも貰いものなんでしょ~?』全く悪気のない、天然な母親からのその一言。


母親と兄ユズルは、顔もそっくりだが性格もよく似ていた。

ふたりは世に言うところの ”天然 ”で、シオリにとっては謎の言動が多い

ふたりだった。

 

 

 

 

  (お兄ちゃんがどうか気付きませんように!!!)

 

 

 

 

天然な兄のことだ。

どうか気付かずに流してくれる事を祈るも、こうゆう時だけやたらと敏感なもので。

 

 

 

 『え?! 青りんご?? それって・・・・・・・・。』

 

 

 

そして兄ユズルは、キラキラした目で満面の笑みで言った。 

胸を張って言い放った。

 

 

 

 『あの子の好きな子って、もしかして・・・ お前かっ???』

 

 

 

『あら! そうなのっ?!』 母親も身を乗り出す。


そして、『なんか毎日毎日青りんご1つ貰って来るのよねぇ・・・。』

と頬を染める母。

 

 

 

『シオリが青りんご好きだから、って事よね?! 素敵だわぁ~・・・』 

娘の話に自分を投影して、過ぎし日の甘酸っぱい胸の高鳴りを思い出している

様子で。

 

 

『違うから!』 シオリは真っ赤になって席を立ち、自室に戻ろうとした。


恥ずかしすぎて、そのままリビングになんて居られそうになかった。

それでなくとも、多感な年頃で家族、特に兄になど ”そうゆう系 ”の話は

したくないというのに。

 

 

不機嫌そうに乱暴に足音を立てリビングを出て行く背中に、兄ユズルは言った。

 

 

 

 『ただのヒビだけど、アレ結構痛いと思うから声掛けてやったら~?』

 

 

 

その声色は、面白がって分かりやすくからかう感じのそれで。

シオリは無視をして更に苛立つ足音を立て階段を上がった。

 

 

 

コウだけが、そんなシオリの後ろ姿を何も言わず見つめていた。

 

 

 


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