■第20話 再び現れたㇵの字の情けない困り眉
『変なガマンとかしないでさ~
可笑しいと思ったら、ガンガン笑ってけばいーんだって~
それで全てカイケツだってば!!!』
いつも通り全く根拠のない自信満々なショウタの発言に、シオリは口を尖らせ
どこか困ったような顔をして情けなく笑った。
ほんの少しだけ緩んだ口許がどうしようもなく恥ずかしくなり、足元に目を
落としローファーのつま先を見つめる。
髪が下げた頭と一緒に揺れてサラリと胸元に流れる。
すると、ショウタが一瞬の隙をついて片手を伸ばしシオリの前髪をぐっと上げる。
その奥に、ㇵの字の情けない困り眉が現れた。
『ちょっと!!!』 慌ててショウタの手を払い両手で前髪をガードしたシオリ。
鼻にシワまで寄せて、再び強引にウィークポイントを覗かれたことに不快感を
あらわにする。
『その、情けないまゆ毛見えてたほうがゼッタイかわいいってのー!』
かたや、呑気に微笑むショウタ。
ショウタの周りだけほのぼのとした空気が漂っている。
『もぉおおお!!!』 嫌だとあれほど言ってるのにまたしても眉を見られて、
遂に本気で怒ったシオリがサブバッグでショウタのお尻を殴った。
両手で持ち手を握ると、ボコボコとバッグをぶつけ続けるシオリ。
後ろ足に重心を乗せ放物線を描くような豪快なフォームは、メジャーリーガー
顔負け。
そんなパワープレイでボコボコと殴られて、可笑しくて可笑しくて笑いが
止まらないショウタ。
仕舞いにはシオリもつられて、ケラケラ笑ってしまっていた。
その華奢な手からはすっかり力が抜けてしまい、体を屈めるように大笑いしている。
『あのさ・・・
カバンになに硬いモン入れてんの? ケッコー痛てぇわ・・・。』
笑いながらも殴られ続けたお尻を押さえ、しかめ面をするショウタに
『あ! 青りんごの容器・・・。』 シオリはその場にしゃがみ込んで
バッグ内の青りんごが無事か確認をした。
『良かった・・・ ダイジョウブそう・・・。』 ホッとした顔をしたシオリへ
『ぜんぜん良くねぇーわ。』 ショウタが尚もお尻をさすって笑う。
そして、顔を見合わせてケラケラ笑い合った。
いつまでもふたり、頬を赤くして笑い合っていた。
自宅に帰り、自室でバッグから青りんごが入ったプラスチック容器を
取り出したシオリ。
今日は母親にはそれは渡さずに、そのまま持って部屋へ上がった。
玄関先で母親の『おかえり』 という声が聴こえたが、”青りんご ”という
ワードがその口から出る前に慌てて自室に駆け込んでいた。
プラスチック容器を掴んだままベッドに腰掛ける。
そして、そっとフタを開けて萌葱色にツヤツヤ輝くそれを手の平に乗せ、
じっと見つめた。
シャク・・・
両手で大切そうに包んで、ひとくち齧り付いてみる。
爽やかに薫り、酸っぱさが口の中に広がった。
その後、ほのかに感じたやさしい甘味に、照れくさそうにシオリは目を伏せる。
胸がきゅっと、ほの痒く熱を帯びていた。




