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■第15話 君の眉が見たいんだ



 

 

 

翌日から、シオリはサブバッグの中に小さなプラスチック製の密閉容器を

持って登校していた。

 

 

自分の教室に入り自席に向かうと、今朝もそこには萌葱色のツヤツヤに輝く

それがひとつだけ置いてある。


今日のそれも、甘酸っぱそうで爽やかな薫りが今にも匂い立ちそうで。 

思わず顔に近付けてかいでみたい衝動にかられるのを堪えると、

微笑みそうになる口許にぎゅっと力を入れてシオリはそれを容器の中に

大切そうに仕舞った。

 

 

 

 

その日の昼休み、ショウタが教室後方出入口に姿を現した。

 

 

 

 『ホヅミさぁあああん!』

 

 

 

その声の方向へそっと目を向けると、ニヤっとその頬に笑みを作り ”

こっちこっち ”と手首から先を小刻みに振って手招きするショウタ。

ひとつ息をついて席を立ったシオリは、何も言わずショウタの横を通り抜け

いつもの教室から少し離れた階段裏まで進む。

 

 

最近はもっぱら、放課後は理科室がある西棟。休憩時間は階段裏と、

所定の場所が決まってきていた。

それがどこか不本意なシオリと、満足気なショウタのちぐはぐなコントラスト。


シオリは ”なに? ”という顔だけ向ける、もはや言葉にすらしなくなった

休憩時間の光景。

すると、ショウタは後ろ手に隠していたうちわを片手に持ち、のらりくらりと

雑談をはじめた。

 

 

 

 『ぁ、今日ってさー 塾の日だよね~・・・?


  俺んち通り道だから、チャリ乗ってかない? 送るよ、俺~。』

 

 

 

そう言いながら、うちわで扇いで自分の顔に緩い風を送っている。


さほど暑くはないその室温に、シオリは謎の行動をとるショウタを

訝しげに眇める。

すると、その扇ぐうちわはシオリに向けて風をつくった。

 

 

 

 

  (・・・なんなのよ?)

 

 

 

 

 『バスで行くから全然ダイジョーブ。』

 

 

自転車で送るという申し出をきっぱりはっきり断ると、ショウタはそんなの

想定内とばかり『えへへ』 と笑って更に手首のスナップを利かせ強く風を起こす。

 

 

顔面に至近距離で扇がれて、さすがにシオリが嫌な顔を向けた。

 

 

 

 『な、なんなの? 扇がないで、別に暑くないから・・・。』

 

 

 

すると、ショウタはモゴモゴと何か言いたげに言いよどむ。 

手首のスナップはそのままに。


『なによ?』 若干イラついた声色で訊くと、小さく小さく呟いた。

 

 

 

 『ま、眉毛・・・。』

 

 

 

『眉毛っ??』 顔を歪めて、その謎の一言の意味を探るシオリ。

 

 

 

 『ま、眉毛・・・ 見えてたほうが可愛いよ・・・。』

 

 

 

そう言うと、両手でうちわの持ち手を掴み、一気に激しく上下に振って

強風を起こした。


その風に煽られて背中に垂れる長い黒髪も制服シャツの襟も、落ち着いた

グリーン基調のリボンタイも小さく浮き上がる。

そしてシオリの前髪もふわっと浮かび、ハの字の困り眉が一瞬見えた。

 

 

パッと目を輝かせ見開き、嬉しそうな顔をしたショウタ。


シオリはその手からうちわを無理やり奪うと、思いっきりそれを振り下ろし

ショウタの頭を力任せにうちわで殴った。

 

 

そして、片手で前髪を押さえ額を死守すると鼻にシワを寄せ不機嫌そうに唸った。

 

 

 

 『おでこ出すのキライなんだから・・・ 二度としないで!』

 

 

 

怒りが収まらずもう一度ショウタの頭をうちわで殴り、もうひとつおまけに

うちわを90度回転させ縦にしてヘリでヒットさせて、シオリは荒々しい足音を

立て肩で風を切って教室へ戻って行った。

 

 

 

『えへへ』 ショウタは殴られた頭をさすりながら嬉しそうに頬を緩めて、

ぽつりひとりごちた。

 

 

 

   『やっぱ・・・ 可愛いじゃん・・・。』

 

 

 


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