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■第14話 夕風に吹かれた前髪


 

 

  笑った・・・


  ホヅミさんが笑った・・・


  あの、笑わないホヅミさんが大笑いしてた・・・

 

 

 

ショウタはシオリの笑った顔をうっとり目を細めて思い返し、背中を丸めて

ぽ~っと呆けたようにただ自室のベッドに座っていた。


すると突然ベッドに突っ伏し、少しくたびれた自分の枕を羽交い絞めにすると

ジタバタとバタ足をして暴れる。

まるで枕をシオリに見立てているかのように、ぎゅぅううっと、強く、キツく。


しかしふっと我に返り、割れ物を扱うようにやさしく枕を離しそっと撫でると

膝の上に置いた。

 

 

そして再び、ぎゅぅぅぅうううううううううううう・・・

 

 

 

 

  (ヤバい・・・


   ホヅミさん、チョーォォォオオオオオオオ 可愛かった・・・)

 

 

 

 

バス停で体をよじらせ笑っていたシオリは、小さくそよいだ夕風に吹かれ

前髪が乱れていた。


いつもの潔癖にすら感じる一直線前髪の、鉄壁の布陣で隠されているその眉が、

実は、困り眉でハの字に下がり頼りなげなそれだという事に気付いたショウタ。

 

 

 

 

  (勿論ビジンだけど、それよりなにより・・・


   めちゃくちゃ可愛いじゃん・・・ おでこ出しとけばいーのに・・・。)

 

 

 

 

その夜、ショウタは枕は頭の下に敷かず、顔の隣に並べて大切に大切に

抱きしめたまま眠った。

 

 

 

 

 

シオリは自宅に帰宅すると、まっすぐキッチンへ向かいサブバッグから

取り出したそれをどこかきまり悪そうに母親に向けて差し出した。

 

 

 

 『ねぇ、ほんとに毎日毎日なんなの? この青りんご・・・。』

 

 

 

『ん~・・・。』 シオリは、途端に口ごもり要領を得ない。

本当のことを母親に言うのは恥ずかしいし、でも別に出所が怪しいものでもないし。

 

 

『コレ、酸味が丁度良くてすごく美味しいわよ!』 そう言うと、母親は今

渡されたばかりの青りんごをさっと水洗いすると、ペティナイフをサクっと入れた。 

そして6等分にくし切りしたひとつをシオリの口へぐっと押し付ける。 

『シオリ好みの酸っぱさよ』、と。


瞬間、口の中に広がった甘酸っぱさに、シオリは何も言わずシャクシャクと

奥歯で噛んだ。

 

 

 

 

  (美味しい・・・。)

 

 

 

 

すると無言でもうひとつ指先で摘み、更にもうひとつ徐に口に咥えると

シオリは自室へ向かって階段を上がって行った。

背中で母親から『行儀悪いわよ!』 と声が掛かったが、軽く手を上げていなす。

 

 

 

 

  (ほんと、美味しい・・・。)

 

 

 

 

すっかり陽が暮れ薄暗い自室に入ると、机の上にカバンを置きカーテンも閉めず

電気も点けずに暫し立ち竦んでなにか考え、そっと制服ブレザーのポケットに

入っている4つ折り半紙を取り出した。


そして、机の上にそのままポンと放置する。

 

 

机の前で立ったまま、まだ指先で掴んで持っている青りんごを口に放りゆっくり

咀嚼してゴクンと飲み込んだ。


そっと手を伸ばして、再び半紙を手に取る。 指先に付いていた青りんごの水分

でわずかに半紙の隅がしっとり濡れている。

ゆっくり、それを開いてみた。


そこには、どっちが上でどっちが下かも定かではないような汚い毛筆書きの

ショウタの電話番号とアドレス。

 

 

それを少し首を傾げ相変わらず立ったまま、シオリはじっと見つめていた。

 

 

 

ショウタは、シオリに連絡先を交換してくれとは言わなかった。 

教えてくれとは、一言も。

ショウタは、いつも一方的に勝手気ままに感情を押し付ける。


でも、ショウタはなにも求めない。 

与えるばかりで、なにも。 ただの、一度も。

 

 

その時やっと部屋が薄暗いままだと気付いたシオリ。


カーテンを閉め、電気を付けて、カバンからケータイを取り出した。

”新規登録 ”の画面を表示し、両手でポチポチと入力してゆく。


背中を丸めどこかバツが悪そうに、なんとなく照れくさそうに。

 

 

 

  『訊かれてないから、別に教えないけど・・・。』

 

 

 

ぽつりひとりごちて、シオリのケータイにその連絡先が1件追加された。


それは、”あ ”の行に。

 

 

 

 

 

   ”明るく元気なストーカー 090-****-**** ”

 

 

 

 

ショウタの連絡先が、図らずも、シオリのケータイの一番手に登録されていた。

 

 

 


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