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■第1話 突拍子もない告白

 

 

”突拍子もない”というのはこういう事を言うのだと、

その時ヤスムラ ショウタはまるで他人事のように頭の片隅で思っていた。

 

 

それは勿論、だいぶ人のそれより足りない残念な寝癖が付いた己の頭で

必死に考えて、今、目の前に佇む、立っても座っても歩いても

芍薬より牡丹より百合の花よりも美麗な彼女に伝えようと心に決めて、

その結果、口から飛び出した言葉なのだけれど。

 

 

彼女、ホヅミ シオリは何かの聞き間違いかと思っている風で、

暫し瞬きもせず一旦停止、何か言い掛ようと、

その艶々の荒れひとつないぷるんとした唇を小さく動かし、

しかし噤んで再びの、間。


そしてやっと開いた口から出た言葉は、

ショウタの ”突拍子もない ”告白に対して再び訊き返す、慎重なそれだった。

 

 

 

もう一度、先程シオリに言った言葉をゆっくり繰り返す。

 

 

 

 『あの・・・ だからさ・・・


  今朝・・・夢で、見たんだよね・・・

 

 

  ホヅミさんと俺・・・ クリスマスに、付き合い始めて・・・


  お互い、27の春に・・・ケッコン、する事になるみたいなんだ・・・。』

 

 

 

 

口が半開きで呆然とかたまるシオリには、

”学年イチの美人 ”という枕詞が付いていた。

 

 

水がたゆたうような艶がある黒髪ロングヘアは背中にしっとりと垂れ、

几帳面な性格が伺えるその前髪は、目元ギリギリで1ミリの狂いなく

一直線に揃えられている。


色白でスレンダーで、成績優秀はもちろん運動神経も良し

というまさかの文武両道。

 

風の噂に、父親は病院長だと聞いた。

もうひとつ聞きたくは無かったが小耳に挟んでしまった情報によると、

医学部に通う大学生のカレシがいるとかいないとか・・・

 

 

そんなシオリは、美人特有のおのずと醸し出される気品の為か、家柄のそれか、

正直なところ ”親しみやすさ ”はあまり無かった。


本人はその恵まれた容姿を鼻にかけている様子など全く無いのだけれど、

どうしてもそう周りが感じてしまう要因に、”あまり笑わない ”という

最大の特徴があった。

 

 

 

 『ぁ、あの・・・


  そうゆう・・・ ”力 ”みたいなのが、あるの・・・?


  ・・・ほら、予知夢?とか、の・・・。』

 

 

 

シオリはまだ呆けたような顔のまま、ショウタへしずしずと問う。

 

 

すると、明るく元気な八百屋の冴えない長男は大きな口を開け豪快に

笑いながら首を大きくぶんぶんと横に数回振り、

大きなゴツい手の平も左右に振り、正々堂々と胸を張って言い放った。

 

 

 

 『ない。 ぜっんぜん、そんなのは無いっ!』

 

 

 

すると、そのドラマを固唾を呑んで遠巻きに眺めていたオーディエンスと

いう名のクラスメイトの面々が、一斉に声を揃えて言った。

 

 

 

 『無いのかよっ!!』 『ないのかよっ!!』 『ナイのかよっ!!』

 

 

 

 

シオリがあからさまに怪訝に、美麗な顔を引き攣らせて目を眇める。

 

 

 

 

  (なんっなの・・・ もう、最っ悪・・・。)

 

 

 

 

ショウタの口から飛び出した ”突拍子もない ”告白は、

放課後ふたりきりの教室でもなく、日陰のひっそりした体育館裏でもなく、

ひと気ない静かな階段踊り場でもなく、朝のホームルームが今まさに

始まろうとしているシオリの2-Cの教室で、殆どのクラスメイトが

見ている中で、堂々と、考えなしに為されたのだった。

 

 

 

 『・・・意味がまったく分からないし。 取り敢えず、ごめんなさい。』

 

 

 

シオリは、いまだ朗らかに笑っているその呑気な顔に向けて

ひと言吐き捨てると粛然とした様で自席についてカバンから文庫本を

取り出し開いて目を落とした。

 

 

 

冷静なはずのシオリもさすがに動揺して

活字なんか一切頭には入らなかった、その朝のこと。

 

 

 


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