第96話:プレゼント
「おにいたまー! こっちこっち! きのみがいっぱいあるよぉ!」
「はははっ。アスカは走るのが速いなぁ」
食事を終え、赤く染まった木々の間を走り回るアスカの後ろを、セイは駆け足で追いかける。
アスカは地面に落ちていた木の実を拾い集めると、セイに向かって笑顔で突き出した。
「はい! おにいたまと……かなでたんにあげう!」
「ん、ありがとうアスカ。カナデもきっと喜ぶよ」
セイは自身とカナデ宛に手渡された木の実を、穏やかな笑顔で受け取る。
木の実は茶色でキラキラと輝き、アスカの瞳にはきっと、宝石のように映っていたことだろう。
「セイ様……妹さん。いえ、カナデ様のご容態は、いかがですか?」
セイの後ろから走って来ていたカレンは、心配そうな表情でセイに向かって質問する。
穏やかな笑顔を浮かべながら、セイはカレンへと振り返って返事を返した。
「ん……まあ、ぼちぼちかな。これから寒くなってくるだろうから、体調には気をつけなきゃいけないけどね」
セイは少し困ったように微笑むと、小さく息を落とす。
カレンは心配そうに瞳を伏せ、返事を返した。
「そう……ですか。あっ、そうです。私からもこれ、つまらないものですが……」
カレンはわたわたとした手つきで、懐から一本のかんざしを取り出す。
かんざしには小ぶりの桃色の花がいくつもあしらわれ、可愛らしい印象を受ける。
セイは穏やかに微笑むと、カレンからのプレゼントを両手で優しく受け取った。
「ありがとう、カレン。カナデもきっと喜ぶよ」
「いえ……私にできるのはこれくらいですから。手作りなので作りが荒いかもしれませんが、ご容赦くださいね」
カレンは困ったように笑いながら言葉を紡ぐ。
セイはその言葉に驚き、両目を見開いた。
「へえ……これを、カレンが? 凄いな。本当に器用だ」
セイはまじまじとかんざしを見つめ、細部まで作りこまれた桃色の花を見つめる。
細かいところまで荒さのないその出来は、カレンの心がしっかりと込められているように感じられた。
「いえ、そんな。私なんてまだまだです」
カレンはセイに褒められた事が恥ずかしいのか、困ったように眉を顰めながら頬を赤く染める。
そんな二人の様子を見ていたアスカは、ぴょんぴょんとジャンプしながら言葉を発した。
「おねえたま! あしゅか! あしゅかのはー!?」
「ふふっ。大丈夫よアスカちゃん。ちゃんと用意してあるから」
カレンは膝を折ってアスカと同じ視線の高さになると、小ぶりのかんざしを手渡す。
アスカはかんざしを受け取ると、その大きな瞳をキラキラと輝かせながら「きれぇー!」と言葉を発した。
「ん……もう日が落ちるな。二人とも、家まで送っていくよ」
セイは貰ったプレゼントを大切に懐に仕舞うと、二人に対して言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたアスカは、とててと二人の間に走ると、セイとカレンそれぞれの手を握った。
「えへへ……じゃあじゃあ、おうちまでいっしょ! ね!」
アスカはセイとカレンの手を握り、花が咲いたような満面の笑顔を見せる。
そんなアスカの笑顔を見たセイとカレンは互いに目を見合わせ、やがてくすぐったそうに笑った。
「ふふっ……うん。そうだね。家まで一緒だ」
「そうですね。行きましょう」
こうして一つになった三つの影は、陽山家の屋敷に向かって歩いていく。
空は次第に群青色に染まり、やがてやってくるであろう夜の訪れを、予感させていた。