第94話:キミノヅカ=セイ=ダークマター
噴水広場での騒動から数時間後。リリィ達は裏路地に逃げるように隠れ、アスカを中心にそれぞれが階段などに腰掛ける。
リリィは真剣な表情で、地面に座って俯いたままのアスカに質問した。
「それで……アスカ。一体どうしたというんだ? 何故暗黒卿……いや、ダークマターに切りかかった?」
リリィは俯いたまま沈黙を守り続けるアスカへ、質問をぶつける。
アスカはゆっくりと顔を上げると、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「あいつの今の名前は……キミノズカ=セイ=ダークマター。元々あたしやお姉ちゃんと同じ極東の国の出身で、あたしやお姉ちゃんとも、知り合いだったんだ」
「キミノズカ=セイ……? 確かに響きが、アスカの名前に似ているな」
リリィは腕を組み、アスカに向かって言葉を返す。
アスカは自身の腕をぎゅっと握りしめると、さらに言葉を続けた。
「でも、あいつは……お姉ちゃんを殺した犯人なんだ。“暗黒卿”なんて呼ばれてるのは、今日初めて知ったけどね」
「!? カレンを、殺した……? 一体、どういうことなんだ? 同郷の仲間、だったのだろう?」
リリィは少し困惑した様子ながらも、アスカへと質問を続ける。
アスカは体育座りをして、腕に顔を埋めながら言葉を続けた。
「言った通りだよ。あいつは、自分の魔術の実験のために、お姉ちゃんが騎士をしていた国を丸ごと滅ぼしたんだ。お姉ちゃんも、罪も無い人たちも大勢、撒き沿いにして」
「国ごと……だと!? 馬鹿な。そんなことが人間に可能なのか!?」
リリィは動転し、アスカへと言葉を発する。
アスカは暗い表情のまま、返事を返した。
「本当だよ。お姉ちゃんから直接聞いたんだから、間違いない。あいつはそれくらい、強大なチカラを持ってるんだ」
「そんな……馬鹿な。いや、しかし、本人の証言だ。疑いようもないか……」
リリィは曲げた人差し指を顎に当て、何かを考えるように俯く。
その間にアニキが口を開いて、アスカへと質問した。
「しかしよ。国を滅ぼすなんざ、普通の神経で出来ることじゃねえぜ。何千、何万の命を奪うことになる。野郎は一体なんだって、そんなことしたんだ?」
「そんなこと……あたしにもわかんないよ。ただあいつは、お姉ちゃんの仇なんだ。それだけは、間違いない」
アスカは腕に顔を埋めたまま、アニキへと返事を返す。
アニキはどこか腑に落ちない様子で頭を搔きながら、「そうか。まあそりゃ、切りかかりたくもなるわな」と、小さく息を落とした。
アスカはそんなアニキの言葉を受けると、ゆっくりと顔を上げ、口を開く。
「とにかく、あたしは―――ん? お姉ちゃん。どうしたの?」
話をしようとしたアスカの意思と裏腹に、カレンは懐のお札から姿を現し、アスカの肩に手を置いた。
「…………」
「っ!? お姉ちゃん、あいつが国を滅ぼした理由を知ってるの!?」
アスカは両目を見開き、カレンの方向に顔を向ける。
カレンはこくりと頷き、さらにアスカへと意思を伝えた。
「え……お姉ちゃんが、話してくれるの? あいつの過去に、一体何があったのか」
「……っ」
カレンはアスカの言葉にこくこくと頷き、その言葉を肯定する。
リリィは真剣な表情で、カレンへと言葉を発した。
「……わかった、カレン。話してくれ。これから何をするにせよ、奴の過去は知っていた方がいい」
「……っ」
カレンはリリィの言葉に反応し、意を決したように表情を引き締めると、こくりと大きく頷く。
そうして今度は、アスカへとその意志を伝えた。
「ん……そっか。お姉ちゃんの言葉は、あたしがみんなに伝えればいいんだね?」
「……っ」
カレンはアスカに向かってこくこくと頷き、その言葉を肯定する。
こうしてカレンは一行に向かって、自身とダークマターの過去を、語り始めた。