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第93話:噴水広場にて

 魔術の英知と技術の集う国、ラスカトニア。

 魔法陣の描かれた石畳は活気ある城下街を支え、杖や書物を扱う店から、旅人の購買欲を導く声が響く。

 国の中心には、魔術を応用した水のアーチに包まれている白塗りの王城が、ゆったりとその姿を晒している。

 卓越した魔術知識と技術により近隣諸国との戦争を避けてきたこの国の資源は豊かで、旅人を歓迎する声と、魔術に関する暑い議論が街全体を包み込む。

 安全、自由が約束され、そして寝食の安定したこの街だからこそ、魔術師達はのびのびと議論することができる。

 旅人と商人で賑わう商店街は今日も、多くの人々が行き交っていた。


「ここが、ラスカトニア……おっきい街だねぇ」


 リースはキョロキョロと辺りを見回しながら、ぽかんと口を開いて言葉を紡ぐ。

 そんなリースの姿を見たリリィは小さく笑いながら、返事を返した。


「ふむ、確かに大きな街だな。さすがに世界中から魔術士や研究者が集まっているだけのことはある」


 リリィの視線の先では、軒を連ねている魔術関連の露天で、商人と魔術士らしき人々が活発な会話を交わしている。

 アスカはほえーと声を上げながら、遠くに見える王城を見つめた。


「ほんと、おっきぃし綺麗なお城だねぇ。お金持ってるんだなぁ」


 アスカは頭の後ろで手を組み、王城へと言葉を発する。

 イクサはその言葉を聞くと、こくりと頷いた。


「確かに、美麗さならカラクティア以上であると思われます」


 心なしかその白い瞳を輝かせながら、イクサは遠目に見える王城を見つめる。

 こうして一行が会話をしていると、次第に周囲の人々が騒ぎ始めた。


「おい! 聞いたか? 今噴水広場に、暗黒卿が来てるらしいぜ!」

「魔術協会ナンバー2が!? マジかよ!」

「お、俺、見に行ってこよう!」

「俺も俺も!」


 周囲で買い物を楽しんでいた魔術士達が、一斉に王城の方角に向かって歩き始める。

 突然の現象にリリィ達は面食らい、その流れに完全に巻き込まれた。


「おおっ!? お、押される!? リース! はぐれるなよ!」


 リリィは咄嗟に隣にいたリースの手を掴み、はぐれないようにする。

 リースは「う、うん!」と返事を返しながらも、魔術士達の大移動に巻き込まれ、どんどん王城へと引っ張られていった。


「ええい、仕方ない。一旦噴水広場とやらまで移動するぞ! 全員はぐれるなよ!」


 リリィはその高い視点を生かし、一行に向かって言葉を発する。

 その言葉に対し、アニキ、アスカ、イクサはそれぞれ了解の返事を返した。


「おう! おめえこそはぐれんなよ馬鹿剣士!」

「おっけーリリィっち! 噴水広場ね!」

「了解しました」


 こうして一行は魔術士達の大移動に巻き込まれ、ラスカトニアの噴水広場へとその足を進めた。






 ラスカトニアの噴水広場では、多くの魔術士達が集まり、ざわざわと噂話に花を咲かせている。

 それらの話を要約すると、魔術協会でナンバー2の座につき、貴族の位を手に入れた事で有名な“暗黒卿”なる人物が、これからこの噴水広場に現れるとのこと。

 リリィはため息を落としながら、どうにか近くに集合できた一行へと声をかけた。


「皆、はぐれていないな? しかし暗黒卿とは、一体どんな人物なんだ? これほどまで魔術士達の興味を引くとは、ただ者ではあるまい」


 リリィは頬を軽く搔きながら、周囲の魔術士達を見回す。

 そんなリリィに対しアスカは、頭の後ろで手を組みながら返事を返した。


「まーほら。よくわかんないけどさ。もうすぐここに来るんしょ? 会ってみればどんな人かわかるんじゃない?」


 アスカのもっともな言葉にリリィは息を落としながら、「まあ、確かにそうだな」と返事を返す。

 そうして一行が会話をしている間に、噴水広場入り口にいた魔術士達が騒ぎ始めた。


「お、おい! 来たぞ!」

「本物だ、本物! うわ、初めて見た!」


 噴水広場入り口付近の騒ぎは、段々と移動し、リリィ達のいる場所へと近づいてくる。

 どうやら暗黒卿は、こちらに向かって近づいてきているようだ。


「好都合だな……あちらから来てくれるとは」

「うおー! あたし見えないぃー! リリィっちだっこ! だっこして!」

「はぁ!? まったく、いくつだお前は……」


 リリィはため息を吐きながら、アスカの肩の下を持って上へと持ち上げる。

 するとアスカの視点は一気に高くなり、近づいてくる暗黒卿の顔もはっきりと見えるようになった。


「わーい♪ 一体どん、な……」

「……アスカ?」


 持ち上げたアスカの様子がおかしいことに気付き、首を傾げながら頭に疑問符を浮かべるリリィ。

 アスカは俯いた状態で、やがて小さく言葉を落とした。


「―――えは……」

「えっ?」


 リリィはアスカの言葉がよく聞き取れず、目を見開いて反対側に首を傾げる。

 しかし次の瞬間、アスカはリリィを足場にして跳躍して人垣を越え、暗黒卿に向かって一気に近づいた。


「お前はああああああああああああああああああああああああああ!」


 アスカは黒いスーツと、同じく黒いコートを羽織った暗黒卿へと跳躍し、空中で抜刀してそのまま切りかかる。

 その瞬間、少し高い声が広場へと響いた。


「危ない! ダークマター様!」


 アスカが刃を暗黒卿へと届かせようというその刹那、アスカの刀を、横から間に入ってきた男がナイフで受け止める。

 アスカは荒い呼吸を吐きながら、男の後ろにいる暗黒卿……もといダークマターと呼ばれた黒ずくめの男を、睨み付けていた。


「ダークマター様、ここはお引きください!」

「……そうか。ジェイル、ここは任せたぞ」


 ダークマターはコートの裾を風に乗せ、その場から足早に歩き去る。

 その場に残されたアスカは、ダークマターの背中へと言葉をぶつけた。


「待て! ……くっ!?」


 ダークマターを追いかけようとするアスカだったが、その目の前に突如漆黒の壁が現れ、行く手を妨害される。

 アスカはその発生源を断定し、ジェイルと呼ばれた男を睨み付けた。


「その先へは、行かせません。ダークマター様はお忙しいのですよ」


 ジェイルはアスカを睨み返し、両手に黒い闇を纏わせる。

 そしてそのまま、両手を地面へと勢いよく突いた。


「シャドウ・ウォール!」


 ジェイルがそう叫んだ瞬間、アスカの周囲に漆黒の壁が次々と隆起し、アスカの視界を完全に奪う。

 その状況を察したカレンがお札から出現し、剣の一閃によって壁を破壊すると、ダークマターの姿もジェイルの姿も、もうそこにはなかった。


「くそっ……くそおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その状況に悔しそうに叫びながら、アスカは地面に膝を着く。

 呆然とする魔術士達を掻き分け、リリィ達はそんなアスカの下へと到着した。


「アスカ……一体、どうしたというんだ?」


 リリィは地面に四つんばいになって叫ぶアスカを見つめ、眉を顰める。

 周囲の魔術士達はなおも困惑した様子で、一行の動きを見守っていた。

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