第92話:能力者と魔術士
「ねーねー、そういえばリリィっち。次はどんな街に向かうの?」
食事を終えたアスカは隣に座るリリィに近づき、言葉を発する。
質問を受けたリリィは道具袋から地図を取り出すと、アスカの目の前で広げて見せた。
「ああ。次の街は、“魔術都市ラスカトニア”だな。魔術の研究開発が盛んな大国で、魔術協会の本部が存在していることで有名だ」
アスカはリリィの言葉を受けると、頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。
「まじゅつきょーかい? なにそれ?」
「知らないのか。魔術協会というのは、魔術を研究している研究者や魔術士によって作られた集まりのことで、この世界にいる魔術師の九割以上が登録していると言われている。まあ簡単に言えば、ハンター協会の魔術師版のようなものだ」
リリィはアスカへと身体を向け、魔術協会についてかいつまんで説明する。
アスカはほうほうと頷くと、やがて両手を合わせた。
「なーるほど! つまりラスカトニアは、魔術士さんがいっぱい居るとこってことだね!」
「私が言いたい事とは微妙に違うのだが……まあ、そういうことだ。魔術協会は貴族たちとの繋がりも深く、魔術協会内での地位を利用して貴族になる魔術士もごく稀に存在する。ここがハンター協会との大きな違いだな」
リリィは腕を組み、アスカに向かって言葉を紡ぐ。
アスカはふんふんと頷きながら、「まあ確かに、アニキっちは貴族って感じじゃないもんね~」と、微妙にあさっての方を向いた返答を返していた。
そんな二人の会話を聞いていたリースは、頭に疑問符を浮かべてリリィへと質問する。
「でもリリィさん。アニキさんも炎を操るけど、魔術協会には入ってないよね? 同じ炎を操るでも、魔術士さんとアニキさんって何か違いがあるのかな?」
疑問符を浮かべたリースに対し、今度はそちらの方へと身体を向けるリリィ。
やがて大きく息を吸い込むと、小さく咳払いをして説明を始めた。
「ああ。団長のように生まれつき炎を操るチカラを持って生まれた者は“能力者”として分類されるな。団長の場合は“炎使い”と呼ばれるわけだ。一方魔術師は、研究や修行によって後天的に炎を操る能力を得た者の事を言う。よってこの場合は“炎術士”と呼ばれるわけだな」
リリィは少し早口になりながらも、単語単語を区切り、できるだけわかりやすいようリースに伝える。
リースはうーんと腕を組んで考えると、やがて返事を返した。
「つまり、生まれつき特殊能力を持って生まれた人は“能力者”。生まれた後で頑張って特殊能力を会得した人は“魔術士”って呼ばれるのかな」
リースは腕を組んだまま、首を傾げながらリリィへと言葉を発する。
リリィはその回答に満足そうに頷き、笑顔で返事を返した。
「ふむ。おおまかに言えばその通りだ。正確に言えば団長は炎使いともまた違うのだが……まあ、そこまで正確に知る必要はないだろう」
「そーそー。適当でいーんだよそんなもん」
アニキは頭の後ろで手を組み、退屈そうに空を見上げる。
リリィはそんなアニキの態度にため息を落としながらも、やがて言葉を紡いだ。
「まあ、とにかくおおまかな理解は出来たかな? 後はラスカトニアで、実際に魔術に触れてみれば理解も早いだろう」
リリィはマントについた埃を払いながら、その場を立ち上がる。
アスカはぴょんっと飛び上がるように立ち上がると、そんなリリィへと言葉を発した。
「だね! とりあえず行ってみよーよ! はー、どんな魔術士さんに会えるのかねぇ」
アスカは悪戯な笑顔を浮かべながら、頭の後ろで手を組む。
その様子を見たイクサは同じように立ち上がりながら、ゆっくりとその口を開いた。
「私も魔術というものには、とても興味があります。楽しみですね、マスター」
「あん? 俺ぁ別に……ああ、つえー奴がいるんなら楽しそうだがな」
「結局貴様はそれなのか……」
リリィはアニキの言葉に軽い頭痛を覚え、片手で頭を抱える。
やがてリースは落ち込んでいるリリィの気配を察し、片手を空へと突き上げた。
「ま、まあとにかく、行ってみようよラスカトニア! 僕、楽しみだな!」
リースは太陽のような笑顔を見せ、リリィに向かって笑いかける。
リリィはそんなリースに微笑み返すと、やがて言葉を紡いだ。
「ふふっ……そうだな。案じていても始まらんか」
こうしてリリィ達一行は、ラスカトニアへの一歩を踏み出す。
青空はリリィ達のいる山頂からラスカトニアまで途切れることなく続き、旅路を進むリリィ達を、優しく見守っていた。