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第91話:アスカとカレン

 機構都市カラクティアから数十キロ離れた山の中で一行は休息を取り、リリィは昼食の準備のため焚き火の横の調理台で材料を切る。

 慣れた手つきで料理をするリリィに対して、アスカはぴょこぴょこと近づいて声をかけた。


「ねーねーリリィっち。お料理手伝わせてー?」

「えっ!? あ、いや、それはちょっと……わ、私には皆の命を守る義務があるというか、なんというか……」

「ぶー。リリィっち、なんかひどく失礼な勘違いしてない? 手伝いたいってのは私のお姉ちゃんだよぉ」


 アスカは口を3の形にしながら、ぶーぶーと言葉を返す。

 リリィはほっとした様子で、アスカへと返事を返した。


「あっ、そ、そうか。それならまあ、お願いするとしよう」

「なんか釈然としないんすけど……まあいいや。お姉ちゃん! 出てきて!」


 アスカは懐からお札を一枚取り出すと、それを突き出しながら言葉を発する。

 その声に呼応するように、お札からカレンが出現した。

 カレンは手甲を外して腰元に付けると、水筒で手を洗ってリリィの横に並んだ。


「ふむ。ではカレンには、この野菜をきざんでもらおう。私は火で肉を焼いてくる」

「……っ」


 カレンはリリィの言葉に反応し、こくこくと頷く。

 その後調理台に置かれていた包丁を手に取ると、慣れた手つきで野菜をきざみ始めた。

 そしてそんなカレンの下に、今度はイクサがひょっこりと顔を出す。


「お見事な手つきです、カレン様。是非私にもご教授頂けませんでしょうか」

「……っ!」


 突然のイクサからの申し出に、顔を赤くしながらぶんぶんと顔を横に振るカレン。

 アスカはそんなカレンの顔色を見ると、ふむふむと頷き、言葉を紡いだ。


「お姉ちゃんがね、“私なんてまだまだです。人様に教えるなんてとても……”だってさ」

「そうですか。これが謙遜というものなのですね。興味深いです」


 イクサはその真っ白な瞳をじーっとカレンへと近付け、その表情を見つめる。

 カレンはイクサが近づくほどその顔を赤くし、ついには野菜を切る包丁も止まってしまった。


「あー、イクサっち。近い近い。お姉ちゃん湯だってるから」


 いつのまにかカレンの頭頂部からは湯気が立ち、その頬は真っ赤に染まる。

 イクサはアスカに言われた通りカレンと距離を取りながらも、不思議そうに首を傾げた。


「人の頭から湯気が出ているのを、初めて見ました。ますます興味深いです」

「あー、まあ、お姉ちゃんはもう死んでるから。“人”かっていうと微妙なんだけどね?」

「っ!?」


 妹のあんまりな言い草に、ガーンという効果音と共に両目を見開くカレン。

 その後カレンは地面へと近づき、人差し指で地面に“の”の字を書き始めた。


「あ、あー、ごめんごめん。お姉ちゃんは私の大事なお姉ちゃんだよぉ」


 アスカは慌てて膝を折り、カレンの頭をよしよしと撫でる。

 しばらく膨れていたカレンだったが、やがて機嫌を直し、再び調理台へと戻った。


「ふう。肉が焼けたぞ。……ん? なんだこの状況は」


 肉を焼いて戻ってきたリリィの目に飛び込んできたのは、調理台で野菜をきざむカレンと、その頭を撫でるアスカ。そしてそれをうんうんと頷きながら見つめるイクサの姿だった。

 リリィは不思議そうに首を傾げながらも、調理台の上の野菜を見て感嘆の声を上げる。


「おおっ。良く切れているな。さすがはカレンだ」

「……っ!」


 カレンはリリィに褒められたのが嬉しかったのか、くすぐったそうに微笑みながら野菜を刻む。

 その様子を見たアスカは「ふう。やっと機嫌直ったよー」と、疲れたように言葉を落とした。


「???」


 リリィは疲れた様子のアスカに疑問符を浮かべ、首を傾げる。

 その後アニキの「腹減ったー! メシまだかぁ!?」という声に振り向くまで、リリィは不思議そうにアスカを見つめていた。

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