第90話:定食屋にて
「それにしてもよ、あのレヴォリューションってのは、結局何だったんだ?」
カラクティアの定食屋にて、アニキは肉を齧りながら、イクサに向かって質問する。
イクサは食事する手を止め、アニキへと身体を向けて返事を返した。
「レヴォリューションは、自分自身に“革命”を起こす能力です。今回はR02様の“射撃”のチカラをコピーし、私の右腕に“射撃革命”を起こすことで、射撃の能力を使用しました」
イクサは真っ直ぐにアニキの目を見ながら、淡々と説明する。
アニキは頭に疑問符を浮かべながら、さらに肉を齧った。
「よくわかんねーけど……つまり、人のチカラをコピーできる能力ってことか?」
「端的に申し上げますと、その通りです」
イクサはアニキの言葉に同意し、こくりと頷く。
その会話を聞いていたリリィはある疑問を浮かべ、イクサへと言葉を発した。
「しかしイクサ。何故そんな能力を持っているんだ? 我々と会う以前の記憶は、持っていないのだろう?」
リリィは食事をする手を止めながら、イクサへと質問する。
イクサはこくりと頷くと、リリィに向かって返事を返した。
「おっしゃる通り皆様とお会いする前の記憶を、私は持ち合わせていません。しかしレヴォリューションについては、確かに私は記憶していました。つまり“気付いたときには既に出来るようになっていた”と言い換えることもできます」
イクサはアニキと同様、淡々とした調子でリリィへと返事を返す。
曲げた人差し指を顎に当て、リリィは何かを考えるような仕草をしながら言葉を紡いだ。
「ううむ……そうか。なんだか得体が知れないが、まあイクサが無事ならそれで良い」
「ご心配頂き、ありがとうございます」
イクサは相変わらず感情の灯っていない瞳で、リリィへとお礼の言葉を述べる。
そしてそんな二人の会話に、今度はアスカとリースが割り込んできた。
二人は輝く瞳でイクサを見つめ、言葉を紡ぐ。
「いやーでもでも、格好よかったよねーイクサっち。ビーム撃っちゃうんだもん。たまらんね」
「だよねー。ビームはたまらないよねぇ」
アスカの言葉に合意し、こくこくと頷くリース。
二人のキラキラとした視線に、イクサは疑問符を浮かべながら首を傾げた。
「タマラナイ? ビームはたまらないのでしょうか」
「うん。たまらん」
「たまらんだねぇ」
アスカとリースは同調し、同時にうんうんと頷く。
イクサはそんな二人の反応がよく理解できず、今度は反対方向に首を傾げた。
「まあとにかく、よかったじゃねーか全員無事で。ガイムもちょっと投獄されたら出てこれんだろ?」
アニキは頭の後ろで手を組み、一行に向かって言葉を紡ぐ。
リリィはふむと声を落とすと、やがて返事を返した。
「そうだな。細かい刑期についてはわからないが、街の方に被害が無かった以上、そう長くはないだろう。もっとも彼には、きつい説教と労働の日々が待っているだろうがな」
リリィは腕を組み、アニキに向かって返事を返す。
食事を終えたアニキは「そりゃ何より」と、軽い調子で返事を返した。
「さて、と。じゃあそろそろ行こっか。あんまり一つの街に留まり続けるのも良くないんだよね?」
アスカは定食屋の席を立ち、リリィ達へと言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたリリィ達は、荷物をまとめて席を立った。
「そうだな。では、次の街に行くとしよう」
リリィはアスカへ返事を返し、定食屋の出口に向かって席を立つ。
そして定食屋の出口では、R02が、片手を挙げて一行へと言葉を発した。
「ミナサマ、ホントウニアリガトウゴザイマシタ。ワタシハココデ、ゴシュジンサマヲマッテイマス」
R02は撃ちぬかれた胸の部分を真新しい鉄鋼で覆われた状態で、一行に向かって言葉を紡ぐ。
一行はそれぞれ、R02へと返事を返した。
「ふむ。R02も元気でな。定食屋の案内員の仕事、励むがいい」
「あばよ! 元気でな!」
「まったねーR02ちゃん。またあそぼ!」
「ばいばーい!」
一行はそれぞれ手を振りながら、入り口に設置されているR02へと言葉を紡ぐ。
最後に歩いていたイクサは、R02の前で歩みを止め、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
「R02様。どうかお元気で」
「ハイ。イクササマ。ホントウニ、ホントウニアリガトウゴザイマシタ」
R02は壊れそうな機械音を鳴らしながら、ぺこりと頭を下げる。
イクサはそんなR02の様子に頷くと、やがて背を向けて歩き出した。
「随分あっさりした別れだな……いいのかよ?」
アニキは歩き出したイクサに向かって、言葉を紡ぐ。
イクサはその白い瞳を真っ直ぐ街の外に向け、返事を返した。
「良いのです。R02様にはR02様の“やるべきこと”があります。私にそれを、とやかく言う資格はありません」
「……そーかい」
迷いのないイクサの様子に、少し笑いながら返事を返すアニキ。
そんなアニキにリースが、唐突に声をかけた。
「それにしても、良かったよねR02さん。あの定食屋の親父さんがまさか魔術機構士だとは思わなかったよ」
「ま、考えてみりゃ当然だがな。あんだけの魔術機構を搭載してる店の主人だ。魔術機構を操る腕は確かだろうよ」
アニキはリースに向かって悪戯な笑顔を浮かべながら、返事を返す。
そんな二人の会話を聞いていたリリィは、割り込むように言葉を発した。
「元々あの店は、初来店者にはわかりにくいところがあったからな。R02が案内係として居てくれれば、店にとってもプラスになるだろう」
R02が胸を撃ちぬかれたあの日、リリィ達がR02の修理を王国騎士団に相談すると、初めてR02と出会った定食屋へ運び込むことを提案された。
定食屋の主人は一目でR02を気に入り、あっという間に胸の穴を修理すると、定食屋の案内係として働かないかと提案してきた。
R02は“ご主人様を待つ間だけなら”と主人からの提案を承諾し、結果今では、あの定食屋のちょっとした名物になっている。
リリィの言葉に同意したイクサは、頷きながら言葉を返した。
「リリィ様のおっしゃる通りです。あの店に最初入った時、店の仕組みを説明する張り紙だけでは不親切だと感じていましたので。会話のお上手なR02様にとっては、まさに天職かと思われます」
イクサは言葉を発すると、最後に一度だけ足を止め、カラクティアへと振り返る。
徐々に遠くになるカラクティアを、イクサは感情のない瞳で、じっと見つめていた。
「おーいイクサ! 何してんだ! さっさと行くぞ!」
アニキは片手をメガホンのように使いながら、イクサへと言葉をぶつける。
イクサはそんなアニキの言葉に気付くと、踵を返して歩き始めた。
「了解です、マスター。参りましょう」
イクサはしっかりとした足取りで、アニキ達に向かって近づいていく。
カラクティアの上に広がる青空はどこまでも高く、イクサの行く旅路を、明るく照らしているように思えた。