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第86話:R02のおつかい

「とにかく、うっかりは別に良いことじゃねえ。わかったな?」


 アニキは片手で頭を抱えながら、イクサへと言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたイクサは、こくこくと頷きながら返事を返した。


「了解しました。マスター」

「本当にわかってんのかよ……」


 アニキはボリボリと頭を搔きながら「ま、いいかめんどくせえ」と、イクサへの説明を終える。

 その会話を聞いていたR02は、機械的な音声で言葉を発した。


「デハソロソロ、オツカイニモドッテヨロシイデショウカ?」

「あ? ああ。悪いな。変な事につき合わせて」


 アニキは頭の後ろで手を組みながら、R02へと返事を返す。

 R02は壊れそうな音を鳴らしながら、ぶんぶんと頭を横に振った。


「イイエ、トンデモナイ。タノシイジカンデシタ」


 R02はその無機質な瞳を心なしか輝かせながら、機械的な音声を響かせる。

 しかしその瞳の奥には、確かに感情が宿っているような気がして、アニキは感心しながら言葉を紡いだ。


「……ほんと、よくできた機構兵士だなおめえは」

「???」


 R02はアニキの言葉の意味が理解できず、ぎこちなく首を傾げる。

 アニキの言葉を聞いたイクサは、えっへんと胸を張りながら言葉を返した。


「その通りです、マスター。R02様はとても良い機構兵士です」

「そう思うけどよ……なんでお前が威張ってんだ?」


 アニキは頭に大粒の汗を流しながら、ふんすと鼻息を荒くするイクサへとツッコミを入れる。

 そんなアニキ達の会話を無言で聞いていたR02だったが、やがて本来の目的を思い出し、慌てた様子で言葉を発した。


「アッ、イケナイ。オツカイニイカナクテハ」

「おう、悪いな邪魔しちまって。じゃあさっさと行こうぜ」


 こうしてアニキ達一行は、おつかいの品を買うため御用達の店へと歩みを進める。

 その後R02は見事ガイムの言いつけ通り、リーム社製の魔術回路を入手したのだった。






 言いつけられた回路を買ってきた一行は、ガイムのラボへと戻ってくる。

 R02はZ04にへばりつくようにして作業をしているガイムに向かって声をかけた。


「ゴシュジンサマ。イイツケノモノヲカッテマイリマシタ」


 R02は紙袋に入った回路を両手で持ち上げ、ガイムに向かって言葉を発する。

 ガイムは不機嫌そうに振り向くと、R02の頭に工具をぶつけた。


「遅い! 買い物もろくにできないのかこのポンコツ!」


 ガイムは興奮した様子でR02へと言葉をぶつける。

 イクサはR02とガイムの間に入ると、R02を守るように両手を広げた。


「ガイム様。おつかいが遅れたのは私と話をしていたせいです、R02様は悪くありません」


 イクサは眉間に皺を寄せ、ガイムに向かって言葉をぶつける。

 ガイムはその言葉を聞くと、噴き出しながら返事を返した。


「ぷっ……はぁ? その馬鹿と会話? 人生の無駄使いだな」


 ガイムはやれやれといった様子で頭を横に振り、肩を竦める。

 その様子にイクサはさらに言葉を続けようと口を開くが、その瞬間R02の手がイクサの口を塞ぎ、イクサは思わず閉口する。

 R02はぶんぶんと顔を横に振りながら、言葉を紡いだ。


「イイノデス、イクササマ。ワルイノハワタシデス」

「……いいえ、R02様は何も悪くありません。全ては私が―――」

「イイノデス」


 R02はじっとイクサの瞳を見つめ、最初より強い口調で言葉を紡ぐ。

 まるで意思が宿っているかのようなR02の瞳に、思わずイクサは閉口し、その顔をじっと見つめた。

 ガイムはそんな二人を見ると、苛立った様子で言葉をぶつけた。


「まあいい、R02! さっさと回路を渡せこの馬鹿! Z04を待たせてしまうだろうが!」

「ハイ。ゴシュジンサマ」


 R02は回路の入った袋をガイムに手渡し、ガイムは「フン……」と呟きながらその袋を受け取る。

 その様子を見たイクサはアニキの隣に戻り、言葉を紡いだ。


「理解できません、マスター。なぜR02様は、弁明の機会を放棄したのでしょうか。非は明らかに私にあります」


 イクサは感情の灯っていない瞳で、しかし声色は若干焦りを帯びながら、アニキへと質問する。

 アニキはボリボリと頭を搔くと、イクサへ返事を返した。


「さぁな、わかんねえ。ただ少なくともあいつにとって、“主人の命令”はそれくらいの価値を持つものだったんじゃねえの?」

「命令の、価値……」


 イクサはぺこぺことガイムに向かって頭を下げるR02の姿を見つめ、小さく言葉を落とす。

 イクサの瞳に光はない。しかし困惑したその内情を表すように、その眉間には皺が寄せられていた。


「おめえも人からの命令が欲しいみたいだから言っとくけどよ、自分に下された命令が正しいのか、価値があるのかどうか、判断できるようになるこったな。それができなきゃ、いつかきっと後悔するぜ」


 アニキはぽんっとイクサの頭に手を乗せ、出来るだけ穏やかな声で言葉を紡ぐ。

 イクサはそんなアニキの顔を見ると、しばらく何かを考えるように瞳を伏せ、やがてこくんと小さく頷いた。


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