第85話:カラクティア市場にて
機構都市カラクティアの市場は、特殊である。
普通なら食料品を取り扱う事の多い露天では所狭しと魔術回路が並び、ジャンク品のようなパーツが店頭に溢れている。
そんな市場の中を、アニキ、イクサ、R02が歩いていく。
アニキは頭の後ろで手を組みながら、騒がしい市場を見ながら言葉を落とした。
「へぇ。結構活気あるじゃねーか。扱ってるもんはわけわかんねーけど、気に入ったぜ」
アニキは独特の活気を持つ市場が気に入った様子で、悪戯に笑う。
R02は表情こそないものの、心なしか嬉しそうに返答した。
「コノイチバハ、ゴシュジンサマノオキニイリナノデス。ヨロコンデイタダケテ、ナニヨリデス。ワタシモ、ウレシイデス」
R02は機械的な音声で、主人の好きな市場が褒められた事を喜ぶ。
その様子を見たイクサは、首を傾げながらR02へと質問した。
「マスターのお気に入りのものが褒められると、嬉しいのですか?」
「ハイ。モチロンデス」
R02は今にも壊れそうな音を鳴らしながら、ぎこちなく頷く。
返事を受けたイクサは、アニキの方を向いてさらに言葉を続けた。
「マスター。マスターのお気に入りはなんですか? ごはん?」
「いや俺メシしか頭に無いわけじゃねえよ!? お前から見て俺はどう見えてんだよ!」
素っ頓狂なイクサの言葉に、即座にツッコミを入れるアニキ。
イクサは首を傾げながら、「じゃあ、お肉ですか?」と言葉を続けた。
「猛獣か俺は! メシから離れろや! 普通に、そうだな……この拳が俺のお気に入りだぜ!」
アニキはガッツポーズをとりながら、イクサへと堂々と宣言する。
イクサはほうほうと頷くと、アニキの拳を掴んでR02へと紹介した。
「R02様。こちら、マスターのお気に入りの拳です。いかがでしょうか?」
「トッテモステキデス」
「それは何より」
「いや、お前ら何言ってんだ?」
アニキは妙な会話を始めたイクサとR02に、大粒の汗を流しながらツッコミを入れる。
そしてそのすぐ後に、本来の目的を思い出した。
「つーかよ、ガイムの買い物はいいのか? R02、おめー頼まれてただろ」
「ア、ウッカリシテマシタ」
「機構兵士にうっかりってあんの!?」
アニキは驚愕の表情で、R02の顔を見つめる。
イクサは首を傾げると、そんなアニキへと言葉を紡いだ。
「マスターは何を驚かれているのでしょうか。うっかりくらい誰にでもあります」
「いや、普通機構兵士はうっかりしねーから。R02おめー、実はすげえんじゃねえのか?」
「??? オッシャッテイルイミガワカリマセン。ウッカリハ、スゴイノデショウカ」
R02はまたしても壊れそうな音を立てながら、アニキへと首を傾げる。
アニキは頭をボリボリとかきながら、「いや、うっかりが凄いってわけじゃねえんだけど……なんて言えばいーんだこれ?」と困った様子で言葉を発した。
そしてそんな様子を見ていたイクサは、突然アニキの頭にチョップを入れた。
「いでえ!? なにすんだてめえ!」
「あらーいけない。うっかりしてました」
「超棒読みじゃねーか! 絶対わざとだろお前!」
うっかりが良いものと勘違いしたイクサは、嬉々としてアニキにチョップを入れる。
アニキはそんなイクサに、頭を摩りながらツッコミを入れた。
「オヤ、イケナイ。カイモノニ、イカナケレバ。ウッカリシテマシタ」
R02は機械音を鳴らしながら、市場の奥へと足を踏み出す。
そんなR02の言葉を聞いたイクサは無表情のまま、「ナイスうっかりです、R02様」と瞳を輝かせた。
アニキはそんな意味不明な理解をしてしまったイクサをどう修正しようか悩み、珍しく頭を抱えていた。