第83話:ガイムのラボ
カラクティアの定食屋から数分歩いた場所に、ガイムのラボは存在する。
倉庫のような巨大な建造物の中に、無造作にばら撒かれた機構兵士のパーツの数々。
はたから見ればただのゴミの山のように思えるが、恐らくその全てがガイムにとって必要なものなのだろう。
リリィ達はそんなパーツの山を呆然と見つめながら、やがて言葉を落とした。
「これは……凄い量だな」
「うん。もう何がなんだかさっぱりだよ」
「よくこんなに集めたねぇ~」
リリィ、リース、アスカの三人は、口々にパーツの山の感想を述べる。
ガイムはその感想を聞くこともなく、一行へと言葉を発した。
「ようこそ、ボクのラボへ! 存分に見学していってくれたまえ! おいR02、さっさとお茶を出せ! 気が利かない奴だなぁ!」
ガイムは苛立った様子でR02のボディをガンガンと蹴り、R02は「モウシワケアリマセン」と返事を返し、お茶を取りにいく。
リリィは「あ、おかまいなく……」と返事を返したが、当のガイムはその言葉をスルーし、勝手に話を始めた。
「見てくれ、この宝の山を! ボクが集めた大事なパーツ達だ。元はR02もこのパーツの山の一部だったんだが、このボクの天才的頭脳によって機構兵士として造ってやった。まあ、時代遅れのオンボロだがね」
ガイムはまくしたてるように言葉を発し、リリィ達の理解するスピードをゆうに追い越していく。
しかしイクサはそんなガイムの言葉を聞いているのかいないのか、お茶を運んできたR02へと近づいた。
「オキャクサマ、ナニカゴヨウデショウカ?」
R02は不思議そうに首を傾げ、イクサへと言葉を発する。
その言葉を受けたイクサは、やがて口を開いた。
「……あなたは、何のために働いているのですか?」
イクサはR02の電子的な瞳を見つめながら、無表情のまま言葉を発する。
R02は質問の意図を理解しているのかいないのか、電子的な音声で返事を返した。
「ワタシハR02。ゴシュジンサマノモトデハタラクタメ、ツクラレマシタ」
「……そう、ですか」
イクサは少し悲しそうな瞳になりながら、じっとR02の瞳を見つめる。
R02はそんなイクサの感情の起伏を読み取ったのか、慌ててお茶を手に取った。
「アア、イケナイ。カナシイハイケナイ。サア、オチャヲノンデクダサイ」
R02はけたたましい機械音を鳴らしながら、イクサへとお茶を突き出す。
R02に表情というものは存在しないが、何故かその顔は少し焦っているようにも見えた。
「了解しました。お茶を飲みます」
イクサはR02の持ってきたお茶をがっしと掴むと、そのまま一瞬でそれを飲み干す。
その姿を見たR02は「オオ、スバラシイハヤサデス……」と、感嘆の声を上げた。
「おめぇらさっきから何してんだ? コントか?」
アニキは頭をボリボリと搔きながら、乱暴にイクサへと言葉をぶつける。
イクサはそんなアニキの方へと向き直り、返事を返した。
「マスター。不思議です。彼と話をしていると、なんだか落ち着いてくるのです。でも、胸の中にざわざわとした……そう、不安です。私は不安にもなります。これは何故でしょうか?」
イクサは首を傾げながら、アニキに向かって言葉を発する。
その言葉を受けたアニキは怪訝な表情で首を傾げ、腕を組みながら返事を返した。
「そりゃあ…………わからん! てめえで考えろ!」
「了解しました。てめえで考えます」
イクサはアニキの言葉を受けると、こくりと頷きながら返事を返す。
その様子を見ていたリリィは、アニキに向かって声を荒げた。
「いや、ちゃんと答えてやらんか貴様! イクサも困るだろう!」
「ああん? やだよめんどくせー。大体こいつの心なんざ俺が知るわけねえだろが」
「うっ。まあ、それはそうだが……」
アニキから意外ともっともな返事が返って来たことにたじろぎ、数歩後ずさるリリィ。
そんなリリィ達に、甲高い声が響いた。
「あのーみんな。ガイムちゃんの話も聞いてあげたほうがいんでね?」
アスカはポリポリと頬を搔きながら、一行に向かって言葉を発する。
その背後ではガイムが、相変わらず一人で自分の功績を自慢していた。
「あ……そ、そうか。すまない。忘れていた」
リリィはR02からお茶を受け取りながら、ガイムの方へと身体を向ける。
ガイムは話を聞いていなかった一行のことなど欠片も気にしておらず、気持ちよさそうに一人話していたが、やがて結論を話し始めた。
「……つまり、全ての発明は、この後紹介するこのボクの最高傑作のためにあったのだ! 今日は特別に、そいつを少しだけ見せてやろう!」
ガイムは両手を広げ、一行へと言葉を発する。
一行はガイムの言葉を受けると、いまいち府に落ちない様子で首を傾げた。
「わからないか? まあいい。アイツを見ればボクの偉大が嫌でもわかるだろう」
ガイムは白衣を翻し、ラボの奥へと進んでいく。
慌ててその後ろを追うR02を追いかけ、一行は一歩踏み出した。