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第80話:カラクティアへの道

 機構都市カラクティアに向かう街道の横で、リース、アスカ、イクサ、アニキの四人は、カードを扇状に広げてにらみ合う。

 四人はそれぞれの持っているカードから一枚を引き合い、セットになったカードを中央に捨てていく。

 そうして向かえたゲーム終盤。リースはイクサの手元に残った二枚のカードのうちどちらを引くかで頭を悩ませていた。


「ううーっ! イクサさん全然表情が読めない! てか表情がないよぉ!」


 リースはあまりに無表情なイクサに対し、涙ながらに言葉を発する。

 やがて意を決して引いた一枚のカードは、見事にヴぁヴぁのカードだった。


「うっぎゃー!? うぐぐ、でも、まだ大丈夫だ。次で絶対ヴぁヴぁのカードを引かせるんだから!」


 リースはふんすと鼻息を荒くし、自身のカードを持つ手に力を込める。

 イクサはそんなリースの様子に構わず、無言のまま迷わず一枚のカードを引き抜いた。


「ノーマルカードを確認。私の勝利です」

「またぁ!? うう、もう何回負けてるんだろ僕……」


 リースはしゅんと頭を下げ、悲しそうに言葉を紡ぐ。

 反対にイクサは瞳を輝かせながら、せっせとバラバラになったカードを集めていた。


「不可解です、マスター。私は勝ったというのに、もう次の勝負をしたがっています。この感情は一体なんでしょうか」


 イクサはバラバラになったカードを整えると、アニキの方を向いて質問する。

 アニキは頭をボリボリとかきながら、イクサへと返事を返した。


「ああ? おめえそりゃ、“楽しい”って事じゃねーの。多分な」

「楽しい……これが、楽しい……」


 イクサは感慨深そうに胸元に片手を当て、自身の中に渦巻く感情を理解する。

 やがてイクサは瞳を輝かせながら、アニキに向かってずいと体を近づけた。


「マスター。私もっと“楽しい”が欲しいです」

「あ、ああ? もっとゲームしたいってことか? でも、もうすぐ―――」

「お前達、そろそろ食事の時間だ。ゲームはそれくらいにしておけ」


 アニキとイクサの会話を遮るように、料理を持ってきたリリィの声が響く。

 アニキは「やっぱな。ゲームはとりあえず中断だ」とイクサへ言葉を発した。


「中断ですか……私は今、胸の中に重りを置かれたような気持ちになっています。これは何でしょうか?」

「なんでも聞くなてめぇは……。そりゃ多分“悲しい”ってことなんじゃねーの」

「悲しい。これが……悲しい……」


 イクサは自身の中に渦巻く感情を、再び理解する。

 やがてアニキの目を見ると、イクサは再び口を開いた。


「マスター。何故世界には、“悲しい”が存在するのでしょうか。全て“楽しい”ならいいのにと、私は考えます」


 イクサは無表情ながらも、アニキに向かって質問する。

 その質問にアニキは両目を見開くと、やがて遠い目をしながら質問に答えた。


「……さぁな。ただ少なくとも、“楽しい”だけの世界なんてつまんねーと、俺ぁ思うぜ」


 アニキはどこまでも続いていそうな草原の彼方を見つめながら、頭の後ろで手を組み、イクサへと回答する。

 そんなアニキの回答にイクサは頭に疑問符を浮かべ「現状私の持っている情報では、マスターの言葉の意味を理解しかねます」と、小さく言葉を落とした。

 イクサの少し落ち込んだような様子を横目で見たアニキは、ため息を落としながら言葉を発した。


「まあとにかく、今はメシだメシ! 目の前の事に集中してりゃ、つまんねーことなんか全部忘れちまうよ!」


 アニキはパンッと両手を合わせながら、イクサへと言葉を発する。

 その言葉を受けたイクサは「……了解しました」と、返事を返した。


「では全員分、食事は揃っているな? それでは、いただきます」

「「「「いただきます」」」」


 全員で両手を合わせ、一斉に声を出す一同。

 やがてイクサは目の前の食事に手をつけ、リリィの真似をしながら食事を始めた。


「!? マスター。これはとても美味しい。そして“楽しい”です。食事とは、楽しいものなのですか?」

「あ? ああ。人によるだろうけど……まあ基本的には楽しいもんなんじゃねーの。つか食事の邪魔すんなよおめえは」


 アニキは大好きな食事を中断されたせいか、不機嫌そうに返事を返す。

 一方イクサはキラキラと瞳を輝かせながら、目の前の食事をじっと見つめた。


「楽しい……これも、楽しい。そして美味しい。料理とは、実に興味深いものですね」


 イクサは一口ごとにぶつぶつと言葉を落としながら、やがて自身の分の食事を全て空にする。

 この後イクサはリリィに対し「料理を教えて欲しい」とせがみ、リリィを大層困らせることになるのだが、それはまた、別のお話。

 こうして一行はゆっくりと、しかし確実に、機構都市カラクティアへ向かっていた。


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