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第78話:イクサと挨拶

「あー、もっかい確認してぇんだが、俺が、なんだって?」


 町長の家の二階にある書斎の中で、アニキは頭を搔きながらイクサへと質問する。

 イクサは淡々とした様子で、返事を返した。


「はい。私は“貴方が私のご主人様ですか?”と、質問しています」

「はぁー、なるほどなるほど。何言ってんだお前は」


 アニキは聞き違いであったことを願ったが、どうやらイクサは本当に、アニキが自分の主人かどうか尋ねているようだ。

 がっくりと肩を落としたアニキの様子に、イクサは頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。


「いやー、なるほどにゃあ。アニキっちはイクサっちのご主人様だったのかぁ」

「いやどうしたらそうなんだよ!? そんなわけねーだろが!」


 にこにこしながら言葉を紡ぐアスカに対し、噛み付くように言葉をぶつけるアニキ。

 リースはちょんちょんとイクサをつつくと、イクサの顔を見上げながら質問した。


「あ、あの、イクサさん。アニキさんがイクサさんのご主人様って、どういうこと? そもそもイクサさんは、誰かに仕えてるの?」


 リースは小首を傾げながら、イクサへと質問する。

 頭に疑問符を浮かべるリースに対し、イクサは淡々と答えた。


「その質問には、回答しかねます。今最も優先すべきは、私のご主人様の特定です。ご主人様という呼称が適当でなければ、“マスター”とお呼びしても構いません」

「いや呼び方の問題じゃねえから! お前本当なんなんだよ!?」


 アニキは乱暴に頭を搔きながら、イクサへと言葉をぶつける。

 イクサはアニキが声を荒げる理由がわからないのか、またも不思議そうに首を傾げた。


「まーまー、もういいじゃん。イクサっち、イクサっちの言う通り、“アニキ“が君のマスターだよん♪」

「おいいいいいいい!? 勝手に決めんなゴラァ!」


 勝手にイクサへと回答するアスカに対し、ツッコミを入れるアニキ。

 イクサはアスカの回答を聞くと、こくりと頷いて思考を回転させた。


「了解。マスターの名は“アニキ”で登録しました。よろしくお願いします」

「よろしくお願いすんなぁぁ! 俺じゃなくて、お前を作ったリースにしろよ面倒くせえ!」

「それはできかねます。マスターの情報は最重要事項に該当し、変更は不可能です。マスター」

「マスターって呼ぶんじゃねええええええ!」


 アニキは頭を抱えてぶんぶんと横に振り、イクサへと言葉をぶつける。

 しかしイクサはそんなアニキの様子に欠片も動揺せず、涼しい顔でその言葉を受けていた。


「なんだかよくわからないが……まあ、子分ができたと思えばいいんじゃないか? なあマスター」

「そうだよアニキさん! いやマスター! よかったね!」

「よっ、マスター!」

「うるせえよてめえら! 絶対面白がってんだろ!?」


 アニキはガルルル……と唸りながら、リリィ達へと言葉をぶつける。

 リリィ達は「いやいや、そんなことない」と返事を返しながらも、その口端は緩んでいた。


「それよりもマスター。質問があるのですが」

「ああん? なんだよ。言ってみろ」


 イクサは感情の灯っていない瞳で、アニキへと質問する。

 アニキは面倒くさそうにしながらも、イクサへと返答した。


「先ほどからの話だと、私は“リース様“によって作られたと理解しています。それはつまり、リース様が私の父親である。という事でしょうか」

「あ、ああ? まあ、そうなるんじゃねーの」


 アニキは突拍子もないイクサの質問に答え、こくりと頷く。

 それを聞いたイクサは一瞬瞳を輝かせ、リースへと即座に身体を向け、リースのその小さな身体を抱きしめた。


「お父さん……」

「ひゃわぁ!? いや、ちょ、なんでそうなるのぉ!?」


 突然イクサに抱きしめられたリースは、石鹸のような爽やかな香りと柔らかな感触に驚き、じたばたと暴れる。

 イクサは無表情ながらも瞳を輝かせ、リースを抱きしめていた。


「お父さんは風の香りがします。一般的に言って、良い香りだと思います」

「えっ? あ、ああ、それはどうも……ってそうじゃなくて! “お父さん”っていうのやめて、リースって呼んでよ! なんか、こう、凄く変な感じがする!」


 自分よりも大きな女性にお父さんと呼ばれたリースは言いようの無い感覚に襲われ、イクサへと止めるように言葉を紡ぐ。

 イクサはリースを離すと頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。


「お父さんはお父さんですが……了解しました。呼称を“リース様”に変更します」


 イクサはこくんと頷き、思考を回転させる。

 その言葉を聞いたリースは「うーん。様付けもやめてほしいんだけど……まあ、いいか」と、返事を返した。

 そんなリースの様子を見たアニキはニヤリと笑い、イクサへと言葉を発した。


「おい、イクサ。そこにいる黒いのがお前のかーちゃんだぞ」

「あっ!? き、貴様!」

「そうでしたか。お母さん……」

「ひゃわぁ!? と、突然抱きつくな!」


 いきなりイクサに抱きしめられたリリィは驚きながら声を上げ、アニキの方を睨みつける。

 アニキはそっぽを向きながら、楽しそうに口笛を吹いていた。


「くっ……はぁ、仕方ない。とにかく私の事は“リリィ”と呼んでくれ。頼む」


 リリィはイクサの頭を優しく撫でながら、言葉を紡ぐ。

 イクサは頭を撫でられる感触に「おお……」と瞳を輝かせながら、やがてリリィへと返事を返した。


「了解しました。リリィ様。よろしくお願い致します」


 イクサは至近距離で、リリィへと挨拶する。

 リリィは小さく息を落としながらも、「ああ、こちらこそよろしくな」と返事を返した。


「二人ばっかずるーい! 私とお姉ちゃんも忘れないでよね!」

「ばっ!? アスカ! お前まで抱きついてくるな暑苦しい!」


 アスカは口を3の形にしながらカレンを呼び出し、二人でイクサへと抱きつく。

 結果的に女性四人で抱きつく形となり、リリィは声を荒げた。


「アスカ様ですね。呼称を登録します。そちらの金髪の方は、なんとお呼びすればよろしいでしょうか」


 イクサはアスカに抱きしめられても表情を変えず、顔だけアスカへ向けて質問する。

 そんなイクサにアスカは「お姉ちゃんはね、カレンって名前だよ!」と元気良く返事を返した。


「カレン様ですね。了解しました。これからよろしくお願い致します」

「おっけー♪ よろしくねイクサっち!」

「……っ!」


 ピースをしながら返事を返すアスカと、こくこくと一生懸命頷くカレン。

 そんな三人の様子を見たアニキは、思わず声を荒げた。


「おい、ちょっと待て。なんで俺だけ変な呼び方なんだコラ」

「何を言う。マスターは立派な呼称だろう。なあイクサ?」


 リリィはイクサの頭を撫でながら、イクサへと優しく言葉を紡ぐ。

 イクサは気持ちよさそうに目を細めながら、リリィを抱きしめる腕の力を強めた。


「母性に目覚めてんじゃねええええ! くっそ! 結局俺だけ貧乏くじかよクソが!」


 アニキは乱暴にボリボリと頭を搔き、忌々しそうにイクサを見つめる。

 イクサは取り乱した様子のアニキを見ると、またも不思議そうに疑問符を浮かべた。


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