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第77話:イクサの質問

「さて、ここが町長の家か……立派だな」


 リリィは目の前に聳え立つ豪邸を見上げ、言葉を紡ぐ。

 そんなリリィの様子に構わず、アスカは玄関にある呼び鈴を打ち鳴らした。


「町長さーん! 本見せてくださーい!」

「ば!? 馬鹿者! いきなり失礼だろう!」


 リリィは隣で叫ぶアスカに対し、大声で言葉をぶつける。

 アスカは「えー、めんどいなぁ」と、口を3の形にしながら返事を返した。

 そうしてリリィとアスカが言い合いをしていると、豪邸の玄関から初老の男性がゆっくりと顔を出す。


「はい、どなたでしょう? 私に何かご用ですか?」


 男性は気品のあるスーツに白いヒゲをたくわえて杖をつき、上品な声で言葉を紡ぐ。

 アスカははいっと片手を挙げると、男性へと返事を返した。


「あのね、町長さんがいっぱい本を持ってるって聞いて来たの! 本読まして!」

「ほっほっほ。そうですか。いやぁ、元気の良いお嬢さんだ」


 男性は失礼なアスカの言動に怒ることもなく、穏やかな笑顔を浮かべる。

 リリィはアスカへと「だから、失礼だと言っているだろう!」と怒号を飛ばしていた。


「で、どうなんだじーさん。本見せてもらえんのか?」

「貴様もか馬鹿! 先ほどから無礼すぎだぞお前達!」


 ぶしつけなアニキの言葉に、噛み付くように言葉をぶつけるリリィ。

 男性は「まあまあ。大丈夫ですよ」と、笑顔で返答した。

 リリィはそんな男性の様子を見ると、頭を下げながら言葉を紡ぐ。


「あ、いや、本当に申し訳ない。実はここにいる娘の言葉を理解したくて辞書を探しているのですが、この街には図書館が無いと聞きまして……」


 リリィは申し訳なさそうに頭を下げ、町長へと丁寧に言葉を紡ぐ。

 男性はうんうんと頷くと、にっこりと微笑んで返事を返した。


「ほっほっほ。なるほど、わかりました。うちには本が沢山ありますから、どうぞ好きなだけ読んでいってください」


 どうやら町長らしき男性は笑顔で家のドアを空け、リリィ達を家の中に招き入れる。

 家の中は意外と質素で、一般的な家庭のような温かみがあった。

 控えめな柄の絨毯に、薪の入っていない暖炉。まるで家主の人柄を反映するように、その家は人をほっとさせる雰囲気を持っていた。

 リリィは小さく息を落とし、本のある部屋はどこかと視線を巡らせる。


「ああ、失礼しました。本なら二階の書斎にあります。どうぞ私の後ろについてきてください」


 町長は穏やかな微笑みを浮かべながら、杖をついて二階へと上がっていく。

 リリィ達はその後ろを追い、二階へと上がった。


「へー、なかなか良い家じゃねーか。気に入ったぜ」

「ほっほっほ。それは何よりです」


 アニキは頭の後ろで手を組み、悪戯に笑いながら言葉を紡ぐ。

 町長は失礼なアニキの言葉に笑顔で対応し、リリィはアニキの言葉に頭を抱える。

 そしてその瞬間、イクサはくいくいとアニキのズボンを引っ張り、口を開いた。


「○△□△□×○△○△□○××?」


 イクサは首を傾げながら、またも意味不明な言葉を羅列させる。

 アニキはボリボリと頭を搔きながら返事を返した。


「んだぁぁ。相変わらず全然わかんねぇ! おめーはちょっと黙ってろ!」

「???」


 アニキの言葉を受けたイクサは、その言葉が理解できないのか、先ほどとは反対の方向に首を傾げる。

 その様子を見たアニキは、ため息を落として顔を横に振った。


「ほぉ。確かに私も、その子の言葉は始めて聞きます。古代語に似ているようですが、完全に一致もしない……不思議ですねぇ」


 町長は興味をかきたてられたのか、顎ひげを触りながらイクサを見つめる。

 イクサはそんな町長に反応を返さず、ただ中空を見つめていた。


「えっと……それで、町長。書斎はこっちでいいのだろうか?」


 リリィは遠慮しつつも、しっかりとした口調で町長へと質問する。

 町長ははっとすると、リリィへと返事を返した。


「お、おお。そうでしたな。申し訳ない。書斎はこちらです」


 町長はイクサから視線を外すと、書斎のドアを開く。

 ドアの向こうには、数え切れないほどの本が所狭しと並んでいた。


「ほう、これは……凄い本の量だな。一般的な街の図書館レベルには揃っていそうだ」


 リリィはその本の量に感嘆の声を上げ、町長へと感想を述べる。

 その言葉を聞いた町長は、嬉しそうに微笑んだ。


「ほっほっほ。この年寄りのコレクションがお役に立つかはわかりませんが、どうぞごゆっくりなさってください」


 町長は自分のコレクションが褒められたことが嬉しいのか、上機嫌でリリィへと返事を返し、部屋を後にする。

 リースが「町長さん、ありがとー!」と両手を振ると、町長も笑顔で控えめに片手を振り、二階の廊下へと消えていった。


「さて……と。辞書は…………この辺りか」


 リリィは本棚をいくつか見回すと、辞書の置いてある列を確認する。

 それを聞いた一行は、リリィの周りに集まった。


「イクサの言葉だが……とりあえず、古代語辞書と照会してみるか。一致すれば―――ん?」

「…………」


 イクサはとことこと歩いてリリィへと近づくと、リリィの持っている本をそっと手に取り、ぱらぱらとページをめくり始める。

 その目は高速で左右に動き、どうやら超高速で、本を読んでいるようだ。


「イクサ!? この本の内容が理解できるのか!?」


 リリィは驚愕に両目を見開き、イクサへと声をかける。

 しかしイクサは一瞬リリィへと視線を向けただけで、本のページをめくる手を休めることはなかった。


「…………」


 しばらくするとイクサは、ぱたんと本を閉じて再び中空を見つめる。

 そんなイクサにリリィが声をかけようとした瞬間、イクサは唐突にアニキの方へと身体を向け、再び口を開いた。


「×□△△○×□△○○□△×○?」

「いや結局わかんねーよ! つーか、さっきと言葉が違ってねーか!?」


 アニキは意味不明な言語で言葉を紡ぐイクサに対し、乱暴に言葉をぶつける。

 その時リースは頭に電球を灯らせ、何かをひらめいた様子で、ばたばたと辞書の棚をあさった。


「も、もしかして……あった! リリィさん! この現代語辞書をイクサさんに読ませてみて!」

「ん? あ、ああ、わかった」


 リリィはリースから現代語辞書を受け取ると、イクサの方へと身体を向け、イクサに向かってその辞書を手渡す。

 イクサはその辞書を受け取ると、再びぱらぱらとページをめくり始めた。


「さっきイクサさんが喋ってたのは、多分古代語だよ! もしかしたらイクサさんは、辞書を読んで言葉を覚えたのかもしれない!」

「馬鹿な! この短時間でか!? いや、しかし、使う言語が変化したのも事実か……」


 リリィはリースの言葉を受け、片手で頭を抱えながら返事を返す。

 信じがたいことだが、もし、リースの言っていることが事実だとするなら―――


「……言語習得、完了。これより使用言語を“現代語”に設定します」

「おおっ!? な、なんだ。急に言ってる事がわかったぞ!」


 アニキは突然イクサの言うことが理解できたことに驚き、声を荒げる。

 流暢に現代語を操るイクサの姿を見たリースは、「やっぱり!」と嬉しそうに両手を合わせた。


「う、ううむ……信じがたいが、どうやらリースの推測が正しいようだ。確かにイクサは辞書だけで、言語を習得している」


 リリィは納得した様子で頷き、生気のないイクサの瞳を見つめる。

 その様子を見ていたアスカは、ぽんっと両手を合わせてアニキへと話しかけた。


「あっ、じゃあさーアニキっち。ずっとイクサっちが言ってたのって、結局なんだったん? 聞いてみれば?」

「ああ? なんで俺が……めんどくせーなぁ」


 アニキは面倒くさそうに頭を搔きながらも、イクサに向かって体を向ける。

 そしてそのまま、イクサへと質問した。


「あー。お前は、俺に何を言いたかったんだ? 今ならわかるから、言ってみろよ」


 アニキはぶしつけながらも言葉を紡ぎ、イクサへと届ける。

 イクサはこくりと頷くと、アニキへと言葉を返した。


「はい。“貴方が私のご主人様ですか?”と、質問していました」

「…………は?」


 アニキはイクサの言葉に凍りつき、思わず声を漏らす。

 イクサはそんなアニキの様子を見ると、不思議そうに首を傾げていた。


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