表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/262

第76話:お洋服を着よう

 街に到着した一行はすぐに洋服店へと向かい、イクサの服を見立てる。

 しかしどんな洋服を合わせて質問しても、イクサは疑問符を浮かべて首を傾げるばかりで、一体どんな服が好きなのかわからない。

 そんな一行を見かねたのか、店の店主らしき男が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。そちらのお嬢さんのお召し物をお探しで?」


 店主は揉み手をしながら、リリィに向かって言葉を発する。

 リリィは店主へと身体を向け、返事を返した。


「ああ。そうなのだが……本人の好みがわからなくてな。何か良いものは入っているだろうか」


 リリィは眉を顰めながら、店主に向かって言葉を発する。

 その言葉を聞いた店主は瞳を輝かせ、ずいと一歩リリィへと近づいた。


「そぉれでしたらお客様! とっておきの一品が入っておりますよ! 少々お待ち下さい!」

「あ、ああ……わかった」


 近づいてきた店主に思わず後ずさりながら、返事を返すリリィ。

 店主はそんなリリィの様子に構わず、どたどたと店の奥へと走って行った。


「これこれ! こちらです! この純白のボディスーツ! 魔術機構の採用により、頑丈で保温も発熱も完璧。手袋とロングブーツもセットで、当店一品限りの限定品です!」


 店主は鼻息を荒くしながら、純白のボディスーツをリリィへと突き出す。

 リリィはそのボディスーツを受け取ると、前後左右をよく確認した。


「ふむ。ぴっちりとした材質だが、下はミニスカートか。動きやすくて良いかもしれんな」


 リリィは曲げた人差し指を顎に当て、うーんと考え込む。

 その様子を見たアスカは、リリィからボディスーツを奪い取った。


「これいいじゃん! 髪の白色とも合ってるし、とりあえず着てみなよイクサっち!」


 アスカはボディスーツを手に持ちながら、イクサに向かって言葉を紡ぐ。

 しかし当のイクサはアニキの方を向き、同じ質問を繰り返していた。


「○△□△□×○△○△□○××?」

「聞いてねぇー! イクサっち全然聞いてねぇ! ちょっとショック!」


 アスカはボディスーツを掴みながら、ごろごろと店内を転がる。

 リースはそんなアスカをなだめようと、両手をわたわたと動かしていた。


「おい、イクサ。おめえの服が決まったみてえだぞ。着てみろよ」

「???」


 イクサはアニキの言葉が理解できているのかいないのか、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。

 アニキは片手で頭を抱え、大きなため息を落とした。


「はぁ……ダメだこりゃ。おいアスカ。もう無理矢理でいいから試着室連れてけ。らちが明かねえや」

「majide!? 着せ替えできるんだやったー!」


 アスカはぴょーんと飛び上がり、ウキウキとしながら試着室までイクサの背中を押していく。

 イクサはアスカに押されながらも、試着室に入るまでずっと、その瞳でアニキを見つめ続けていた。







「じゃじゃーん! お着替え完了! サイズもピッタリだったよん♪」

「「「おおーっ!」」」


 アスカによって無理矢理服を着せられたイクサの姿を見て、リリィとリース、そして店主は同時に拍手を送る。

 イクサは白い髪に白のボディスーツを身に纏い。その瞳に生気が無いことも手伝ってか、どこか機械的な印象を相手に与える。

 しかしながら目鼻立ちは整っており、白い肌は美しく光を反射して、全体を見ると神秘的な美しさを放っているように思えた。


「すっげー似合うよねイクサっち。もうこの服しかないでしょってくらい」

「確かに……私やアスカが着ても、こうはならないだろうな。カレンは少し似合いそうだが」


 リリィはアスカの言葉に納得し、うんうんと頷きながら言葉を返す。

 そしてその後、思い出したように店主に向かって言葉を紡いだ。


「ああ、すまない、店主。この服を貰おう。いくらだ?」

「へへっ、毎度。お代は20万ゼールになります」

「にじゅうまっ……っ!? そんなにするのか!?」


 リリィは店主の口から出てきた価格に驚き、声を荒げる。

 定食屋での一般的な食事が500ゼールであるこの世界で、一着20万の洋服は確かに高価である。

 店主は少し厳しい表情になると、さらに言葉を続けた。


「お客様。こちらは魔術機構を採用した、最新ファッションです。王国の店を探してもこれほどの一品、置いてあるかどうか……。それに機能性で言うなら、現状これ以上の衣服は存在しません」


 店主は真面目な表情で、リリィを真っ直ぐに射抜きながら言葉をぶつける。

 リリィは「むぅ……確かに、それはそうか」と、納得した様子で頷いた。


「まあいーじゃん! こんな似合ってるんだし、路銀には余裕があるしさ!」

「アスカ……そう、だな。買うとするか」

「はい! 一着お買い上げで! ありがとうございまーす♪」


 店主は“買う”というリリィの言葉が出た瞬間、バンザイをしながら言葉を返す。

 リリィはため息を吐き、道具袋から20万ゼールを支払った。


「はぁ……痛い出費だ。しかしまあこれで、私はマントを取り返せるわけだな」


 リリィは試着室の中に残されていたマントを拾い、自身の身体に纏わせる。

 アスカは口を3の形にして「脱いでた方が可愛いのに~」とぶーたれていたが、リリィはあえてそれを無視した。


「それより、イクサとどうやってコミュニケーションを取るか。その問題の方が重要だな。これからどうするか……」


 嬉しそうに札束を数える店主を背後に、リリィは腕を組んでこれからどうすべきかを考える。

 その時リースがはいっと手を挙げ、リリィへと言葉を紡いだ。


「あのね。イクサさんの言葉が何語なのか調べる為に、図書館に行ってみるのはどうかな? この街にあるかどうかはわかんないけど……」


 リースは手を挙げたままの状態で、リリィに向かって言葉を発する。

 リリィはそんなリースの言葉を受けると、こくりと頷いた。


「ふむ。確かに今は、それしかないだろう。店主、この街に図書館はあるだろうか?」


 リリィは後ろへと振り向き、20万ゼールを笑顔で数えている店主へと声をかける。

 店主はさっと札束を背中に隠すと、引きつった笑顔で返事を返した。


「ひゃいっ!? あ、ええと、図書館はありませんが……町長の家でしたら、辞書等の本は揃っていると思います。町長は博識でいらっしゃいますので」


 店主は笑顔を浮かべながら、リリィに向かって言葉を発する。

 リリィはその言葉を受けると、再び一行へと向き直った。


「ふむ。みんな、聞いた通りだ。イクサと話をするためにも、とりあえず町長の家に行ってみよう」

「「おーっ!」」


 アスカとリースは、ノリノリで片手を挙げて返事を返す。

 一方アニキは気だるそうに両手を下げ、「本か……めんどくせーなぁ」と、不満そうに呟いていた。


「…………」


 そしてイクサは、相変わらず感情の篭っていない瞳で、アニキを真っ直ぐに見つめる。

 アニキはそんなイクサの視線に応えることもなく、頭の後ろで手を組んだ。


「まあ、いいや。行くならとっとと行こうぜ」

「あっこら!? 貴様町長の家を知らないだろう! 勝手に行くな!」


 店を後にするアニキの後ろを、リリィは急ぎ足で追いかける。

 そんなリリィを見たアスカとリースは、リリィと同じように、急ぎ足で洋服店を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ