表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/262

第75話:仮名

「……で、どういうこった? こりゃあ。ていうか、何て言ってんだ?」

「○△□△□×○△○△□○××?」


 アニキは全裸の女性と対面しながら、困ったようにボリボリと頭を搔く。

 リリィは周囲に注意しながらマントを脱ぐと、その女性へと着せた。


「と、とりあえずこれを着るがいい。裸のままというわけにはいくまい」

「…………」


 マントを着せられた女性は、無言のままリリィを見返す。

 しかししばらくすると再びアニキの方へと身体を向け、口を開いた。


「○△□△□×○△○△□○××?」

「んだぁぁ! またそれかよ! 一体何語だそりゃあ!?」


 アニキは頭を掻き毟りながら、女性へと言葉をぶつける。

 しかし女性は不思議そうに首を傾げるだけで、アニキの言葉が通じているようには思えない。


「……はっ。そ、そうだ。カレンさん! カレンさんの身体を造ってたんだよ! そっちはどうなるの!?」


 ぽかんとしていたリースは再起動し、アスカへと言葉を発する。

 アスカは「あっ! そうか!」と、口元に手を当てながら、両目を見開いた。


「えっと……お姉ちゃん。あの人の中、入れそう? 無理だと思うけど……」

「…………」


 アスカの言葉を受けたカレンは、ふるふると顔を横に振る。

 それも当然だろう。意思のない肉体ならまだしも、今あの女性には確実に意思が宿っている。

 人の身体を乗っ取るなど、いくら陽術でも不可能だ。


「あの……ごめんなさい! アスカさん、カレンさん! 僕のせいでロード、無くなっちゃって……」


 二人の様子を見たリースは、瞳にいっぱいの涙を浮かべ、深々と頭を下げる。

 しかしアスカはそんなリースの頭をぽんぽんと撫で、返事を返した。


「あー、ま、いいっていいって。なんとなくだけど、他の創術士さんでも無理そうな気がするし……ロードはまた探せばいいしね。それよりリースちゃんの方こそ怪我、だいじょぶかい?」


 アスカは膝を折ってリースと目線の高さを合わせながら、柔らかな声で言葉を紡ぐ。

 カレンもまた無言ながら、笑顔でこくこくと頷いていた。


「アスカさん、カレンさん。ごめんなさい…………それと、ありがとう」


 リースはそんな二人の姿と声に感動し、ぽろぽろと涙を流しながら言葉を紡ぐ。

 アスカは「ありゃりゃ~。男の子が簡単に泣いちゃダメだよぉ」と声をかけながら、リースの涙をハンカチで優しく拭った。


「まあ、とりあえずさ。その人……服とか買ってあげたほうが良くない? あたしの方は後回しでいいからさ」


 アスカは立ち上がると、頭の後ろで手を組み、リリィ達に向かって言葉を発する。

 カレンはそんなアスカの意見に同意し、こくこくと頷いた。


「確かに、その通りだな。ひとまず最寄りの街に戻るとするか……」


 リリィはアスカの言葉に同意し、その場を去ろうと踵を返す。

 しかしその瞬間、再びアスカが口を開いた。


「あっ! ちょっと待った! その子のこと、なんて呼ぼう? 仮でもいいから、名前とか決めたほうがいんでない?」

「ずずっ……あ、そっか。いつまでも“その人”とかじゃ、変だもんね」


 リースはまだ少し鼻水をすすりながら、アスカの言葉に納得して頷く。

 それからしばらくすると、全員の視線がアニキへと集中した。


「あん? なんだよおめーら。俺の顔に何か付いてっか?」


 アニキは腕を組んだ状態で頭に疑問符を浮かべ、自分に視線を向ける面々を見返す。

 リリィはそんなアニキに、言葉を返した。


「団長。今彼女が一番懐いているのは貴様だ。貴様が仮の名を付けるがいい」

「拾ってきたペットか何かかよ! ふざけんなめんどくせえ!」


 リリィの言葉に、噛み付くように言葉をぶつけるアニキ。

 アスカは頭の後ろで手を組みながら、アニキへと言葉を続けた。


「でもさ~。実際その子、アニキっちにべったりじゃん。いーから名前付けてあげなよ」

「知るかぁ! だいたいおめえもおめえだ! 何で俺の横に立ってんだよ!」


 アニキは女性に向かって身体を向け、指差しながら言葉をぶつける。

 しかし女性はそんなアニキの指先をぎゅっと掴むと、再び口を開いた。


「○△□△□×○△○△□○××?」

「だぁぁ! またそれかよ!」


 再び頭を掻き毟るアニキを見ると、不思議そうに首を傾げる女性。

 アニキはやがてがっくりと両肩を落とすと、地面に残された練成陣へと視線を向けた。


「はぁ……じゃあもう、いいや。練成陣に残ってる文字……“E.X.r”だから……イクサ。イクサでいいだろ。こいつの仮名」

「投げやりだな……しかしまあ、悪くない」


 リリィは胸の下で腕を組みながら、アニキへと返事を返す。

 リースはうんうんと頷きながら「イクサさんかー。よろしくね、イクサさん!」と、元気良く言葉を発していた。


「イクサっちか~。いいねぇ。あたしもよろしくね!」


 アスカはぽんっとイクサの肩を叩き、イクサへと言葉を紡ぐ。

 しかしイクサは不思議そうに首を傾げるだけで、返事を返すことはなかった。

 もっとも返事を返されたところで、アスカ達に理解はできそうもないのだが。

 こうして名前も決まったところで、リリィは今度こそ街に向かおうと踵を返した。


「さて、では行くぞ。まずは服を調達しなければ」

「あ! ちょーっと待ったリリィっち! 重大な忘れ物をしてるぜ!」

「今度は何だ今度は……」


 度々呼び止められたことに頭を抱えながら、やれやれとアスカの方へと振り返るリリィ。

 アスカは両手で頭を指差しながら首を傾げ、言葉を続けた。


「あのさーリリィっち。さっきから角が丸見えなんだけど、髪で隠さなくていーの?」

「あっ!?」


 リリィはアスカに指摘されて始めて、自身の角が丸出しになっていることに気付く。

 頬を赤くしたリリィは、噛み付くようにアスカへと言葉をぶつけた。


「そっ、そういうことは、早く言ってくれ!」

「えー? それはそれで可愛いじゃーん」


 アスカは口の形を3にしながら、リリィへと返事を返す。

 その後無事角を髪で隠したリリィは、再び気を取り直し、街に向かって一歩踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ