表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/262

第72話:アニキVSアスティルナイト

 シーラ坑道の奥地。大広間に作られた闘技場。

 その上でジリジリと距離を詰める、アニキと白銀の騎士。

 リリィ達は闘技場の外から、そんな二人を見守っていた。

 アニキは拳を騎士の方角へと突き出しながら、やがて口を開く。


「あー……なんだ。おめぇ、エモノはどうした? 騎士様なら、武器のひとつも持ってるもんだろ」

「……???」


 騎士はアニキの質問が理解できないのか、頭に疑問符を浮かべ、質問に答えることはない。

 アニキはニヤリと笑いながら、さらに言葉を続けた。


「わかんねーか? “お前の強さはなんだ”って聞いてんだよ」

「…………」


 アニキの言葉を受けた騎士は、その言葉を理解したのか、両手を肩の高さまで上げて構えを取る。

 そしてそのまま、空振りの蹴りをアニキの方へと放った。


「!? うおっ……と!?」


 騎士が蹴りを放った瞬間、衝撃波が地面を抉り、アニキの方へと真っ直ぐに伸びてくる。

 アニキはゴロンと横に転がってその衝撃波を回避すると、再び笑った。


「ああ、なるほどね。それがてめえの強さか」


 アニキは嬉しそうに笑いながら立ち上がり、拳を騎士に向かって突き出す。

 やがて突き出した拳から炎を発生させると、背中からも羽のような炎を生み出す。

 やがて髪の色は、くすんだ赤から鮮やかな赤に変わり、背中で燃えていた炎は突き出した拳へと集約されていく。

 アニキは騎士と充分な距離のあるその位置から、アッパーカットを繰り出した。


「じゃあこれが、俺の、強さだあああああああああああらぁ!」

「っ!?」


 アニキがアッパーカットを繰り出した瞬間、地面から炎を纏った衝撃波が走り、騎士に向かって伸びていく。

 騎士は咄嗟に横っ飛びをし、その衝撃波を回避した。


「お互い、挨拶は済んだか? じゃあ、とっとと始めようぜ!」


 アニキは嬉しそうに笑いながら、足元と背中、そして右拳に炎を宿らせる。

 騎士はゆっくりとした動作で立ち上がると、両手を肩の高さまで上げ、アニキに向かって構えをとった。


「り、リリィさん……あの騎士さん、凄く強そうだけど、アニキさん大丈夫かな?」


 リースは騎士の蹴りの後にできた地面の亀裂を見て、青い顔をしながら言葉を紡ぐ。

 リリィはそんなリースの頭に手を置くと、ゆっくりと返事を返した。


「……確かに普通に考えれば、蹴りと拳なら蹴りの方が有利だ。蹴りの方が拳より、数倍上の威力を持っているからな」

「そんな!? じゃ、じゃあ、アニキさんの方が不利ってこと!?」


 リースは不安そうな顔でリリィを見上げ、言葉を発する。

 リリィはそんなリースに、笑いながら言葉を返した。


「案ずるな、リース。それはあくまで、普通なら……という話だ。あの馬鹿に、“そんな常識は通用しない”」

「???」


 リースはリリィの言葉の意味がわからず、結局闘技場へと視線を戻す。

 アニキと騎士の双方はすり足で互いの距離を潰しあい、やがて騎士の蹴りの射程圏内に、アニキが踏み出した。


「……!」


 騎士はその瞬間を待っていたように、渾身の横蹴りをアニキ向かって振り抜く。

 しかしアニキは極端に体勢を低くし、その蹴りを回避した。


「へっ……いきなり大砲かい。そういうの大っ好きだぜ。俺ぁよお!」

「っ!?」


 アニキは超低空から、アッパーカットを繰り出す。

 予想外の体勢から放たれたその一撃に面食らった騎士は、体を仰け反らせ、その拳をギリギリで回避した。

 しかし―――


「しかし、避けられてはいない」


 リリィの呟きと共に、後ろへと吹っ飛ばされる騎士。

 騎士は自分の身に何が起きたのかわからず、そのまま闘技場のバリアへと激突した。


「やったぁ! もしかしてあの騎士さん、そんなに強くないのかな!?」


 リースはキラキラとした笑顔で、リリィを見上げる。

 リリィは厳しい視線で闘技場を見つめたまま、返事を返した。


「いや……そうではない。あの騎士は恐らく、どこぞの王国の騎士団長レベル……いや、それ以上の強さを持っているだろう」

「ええっ!? そんな……それってほとんど化け物じゃない!」


 リースは動揺した様子でばたばたと両手を動かし、リリィに向かって言葉を発する。

 リリィはそんなリースを見つめると、優しい声色で言葉を続けた。


「心配するな、リース。確かに化け物じみた強さだが……“人の域”は超えていない。それならば、大丈夫だ」

「???」


 リリィの言葉をまたしても理解できないリースは、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。

 リリィはそのまま、闘技場へと視線を戻した。


「おいおい……風圧だけでダウンとか、冗談はやめろよ。おめえはそんなに、ヤワじゃねえだろ?」

「…………」


 アニキの言葉を受け、ゆっくりと立ち上がる騎士。

 すると騎士はそれまでの構えを解くと、体勢を低くし、右足を後ろへと引いた。

 それを見たアニキは、嬉しそうに笑う。


「へっ、なるほど。全身全霊の一撃ってやつか……いいねぇ。好きだぜ、そういうの!」


 アニキは笑いながら拳を体の後ろに引き、騎士と同じように体勢を低くする。

 そのまま力を溜めた二人は、やがてどちらともなく、相手に向かって走り出した。


「きや、がれええええええええええええあ!」

「……っ!」


 そして互いの攻撃範囲に相手が入った瞬間、繰り出される蹴りと拳。

 先に攻撃範囲へと相手をとらえたのは騎士の方で、蹴りの方が一瞬早く繰り出される。

 その蹴りは正確無比にアニキの頭部をとらえ、鈍い音が闘技場内へと響く。

 蹴りの余波は闘技場全体へと亀裂となって地面を走り、その驚異的な威力を物語る。

 その蹴りをまともに受けたアニキはしばらく沈黙するが……やがて両目を、大きく見開いた。


「重い……でも、魂が篭ってねええええええええええええええええ!」

「っ!?」


 アニキはステップインしながら引いていた右拳を突き出し、騎士の腹部へとそれを激突させる。

 アニキの拳を受けた騎士は無言のまま悶絶し、闘技場のバリアへと吹き飛ばされた。

 やがて猛スピードでバリアに激突した騎士は、そのバリアを突破し、広間の壁へと埋め込まれるように激突する。

 その瞬間闘技場に張られていたバリアは解除され、リースとアスカはアニキの下へと駆け寄った。


「や、やった! やったね! アニキさーん!」

「うおおおお! さっすがアニキっちー!」

「うおっ!? てめえら、一斉に来るんじゃねえよ!」


 リースとアスカはアニキへと飛び掛り、アニキは笑いながら、リースの頭をがしがしと撫でる。

 リリィはそんなアニキへと、ゆっくりとした歩調で歩みを進め、言葉を紡いだ。


「最後の一撃……貴様、炎を使わなかったな? ただの拳であの威力とは、完全に化け物か」


 リリィは腕を組みながら小さく微笑み、アニキへと言葉を発する。

 アニキは纏わり付いてくる二人を引き剥がしながら、リリィへと返事を返した。


「ああん!? うっせーな! てめえにだけは言われたくねえよ!」


 アニキはリースとアスカの二人を引き剥がすと、噛み付くような勢いでリリィへと言葉をぶつける。

 リリィはそんなアニキと倒れている騎士を交互に見つめると、やがて言葉を続けた。


「ふぅ……まあ、いい。とにかく今は、先に進むとしよう」

「あ、うん! そうだね! アスティルさんに会わなくっちゃ!」


 リースはアニキの体から離れ、ぐっと両手を握りながら、リリィへと言葉を返す。

 こうして一行は大広間を後にし、その奥にある部屋へと一歩を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ