第71話:シーラ坑道にて
今はもう使われていない古びた坑道。それがシーラ坑道である。
当時は人々で溢れ帰っていたこの坑道も、今ではモンスターの巣窟と化してしまっている。
リリィ達は襲いかかってくるモンスターを切り倒しながら、大創術士アスティル氏に会うため、深部へと進んでいった。
薄暗い坑道の中で、リリィは剣に付いたモンスターの血を払いながら、言葉を紡ぐ。
「大分奥まで進んできたが……人の気配は全く無いな」
「うん。アスティルさんどころか、誰もいなーいって感じだよ」
リリィの言葉に同調し、頭の後ろで手を組みながら返事を返すリース。
そんなリースに、アニキは腕を組み、悪戯に笑いながら言葉を発した。
「へっ。まあ俺ぁモンスターが沢山いて退屈しねえけどな」
「貴様は本当にそればかりだな……もういっそここに住めばいい」
素っ頓狂なことを言い出したアニキに対し、ツッコミを入れるリリィ。
しかしアニキは「それも悪くねえな」などと呟いており、リリィの頭痛をさらに加速させた。
「まーまー、とりあえず一番奥まで行ってみよーよ。それで居なかったらまた別の人探せばいいんだしさ」
「む、まあ、そうだな。アスカの言う通りだ」
リリィは珍しくもっともなことを言うアスカに驚きながら、こくんと頷く。
こうして一行は気を取り直して、坑道の奥へと足を進めた。
「にしてもさー、アスティルさんって凄い人なんしょ? なんでこんな坑道の奥にずっといるんだろうね」
「ふむ。偉人と称されるほどの人物の思考回路など理解はできないが……単純にこの坑道で採取できる物と、アスティル氏が研究する際に必要な物が一致したから、ではないか?」
リリィはアスカからの質問に対し、推測を話す。
アスカは「あー、なるほどねぇ」と頷きながら、納得した様子だった。
「にしても、こんな薄暗いとこに住んでるなんて、変なじいさんだなぁ。あっはっはっは!」
「さっき貴様も住みそうになっていただろう! 人のこと言えるか!」
アニキの言葉に対し、噛み付くようにツッコミを入れるリリィ。
アニキはボリボリと頭を搔きながら、「そーだっけかぁ?」と返事を返した。
ふとリリィは、リースが何か本を抱きしめていることに気付き、リースに向かって言葉を紡いだ。
「??? リース。そういえばさっきから、何を大事そうに抱えているんだ?」
リリィは首を傾げながら、リースに向かって言葉を発する。
リースはリリィの言葉を受けると、満開の笑顔で返事を返した。
「あ、うん! あのね。アスティルさんに会ったら、この本にサイン貰おうと思って!」
リースはずいとリリィに向かって本を突き出しながら、言葉を発する。
リースの突き出してきたその本には確かに“著者:アスティル=ガルスフィア”と記載されていた。
「ふふっ、そうか。まあ、気持ちはわかる。歴史に残るような大偉人だからな」
リリィは嬉しそうなリースの笑顔につられるように微笑み、リースに対して返事を返す。
やがて坑道の奥へと進んでいくと、大広間のような空間に一行は足を踏み入れた。
天井は高く作られ、中央には闘技場のような石畳の舞台が見える。
それを見た瞬間、リリィはロード取得時のことを思い出し、頭を抱えた。
「またか……恐らくこれは、舞台に上がったものを迎撃する魔術回路だろう。無闇な行動は―――」
「おっ! そりゃいいじゃねーか! 俺が上がってやるよ!」
「うおおおおおい!? 話聞いて無いのか貴様は!」
アニキはリリィの忠告を無視し、拳を地面に叩きつけて飛び上がり、舞台へと降り立つ。
すると舞台の周りからバリアのようなものが飛び出し、舞台とリリィ達を完全に切り離した。
「ああ、もう。あの馬鹿。言わんこっちゃない……」
リリィは片手で頭を抱え、アニキに向かって言葉を落とす。
アスカはその隣で「うおー! アニキっち! がんばりゃー!」と既に応援体勢に入っていた。
そして舞台に上がったアニキの目の前に、白いマントと白銀の甲冑を全身に纏った騎士が、地面から現れた。
「……ココヲトオリタクバ、ワレヲ、タオスガイイ」
「へっ。なるほどな。わかりやすくていーじゃねえの」
アニキは白銀の騎士の言葉を受けると、嬉しそうに笑いながら体勢を低くし、拳を騎士に向かって突き出す。
こうして戦いの火蓋は、突然に切って落とされた。