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第70話:創術士アスティル

「さて、街に到着したのは良いが……創術士探しといっても、手がかりはゼロだな」


 リリィは小さな集落に到着すると、腕を組みながら辺りを見回す。

 アニキは頭の後ろで手を組みながら、返事を返した。


「とりあえず、ハンター支部にでも行ってみればいいんじゃねえの? ここだって支部くらいあんだろ」

「まあ、そうだな……とりあえず行ってみるか」


 リリィはアニキの言葉に同意し、ハンター支部に向かって歩みを進める。

 しばらく歩くと、小さな掘っ立て小屋のようなハンター支部が視界に入った。


「ず、随分小さな支部だな……大丈夫か?」


 リリィは頭に大粒の汗を流し、小さなハンター支部の看板を見つめる。

 アニキは腕を組みながら、リリィへと言葉を発した。


「こんな小さな集落なんだ。ま、仕方ねえだろ」

「そーそー! ほらほら、さっさと入ろうよ!」

「あっ!? こらアスカ! 勝手に入るな!」


 さっさとハンター支部へ歩みを進めるアスカを注意しながら、その後を追うリリィ。

 同じようにアニキとリースも、アスカを追ってハンター支部の中へと入っていった。







「入ったはいいが……」

「うん。すごいボロボロだね……」


 ハンター支部の中に入ったリリィ達は、心配そうに支部の内装を見回す。

 使い古された机や椅子が並び、地面はむき出しの土。壁のポスターはもう何十年前のものかわからない。

 ぱっと見ただけでも、こんなところで有力な情報など得られるのか不安になってしまう。


「ま、まあ、情報と内装は関係ない。とにかく腕利きの創術士が近くにいないか、受付で聞いてみるとしよう」

「そ、そーだよね! 聞いてみよう!」


 リリィの言葉に反応し、両手を合わせて返事を返すリース。

 そんなリースの反応に満足して頷くと、リリィは受付へと歩みを進めた。


「すまない。この辺りで腕利きの創術士はいないだろうか。私から依頼を出したいのだが」

「んあ? あ、ああ、依頼ね。ちょっと待ってな」


 リリィはどこかぼーっとした受付の男に不安を覚えながらも、腕を組んでその場で待機する。

 男は机の上に乱雑に詰まれた書類をガサガサと引き抜くと、頭を搔きながら言葉を紡いだ。


「あー……そうだな。一応創術士はいるっちゃいるぜ。ただこの人はなぁ。本当にここにいるかわからんし、高齢だからなぁ……」


 男はどこか言い難そうにしながら、書類を片手に言葉を発する。

 リリィはそんな男に、返事を返した。


「ふむ。すまないが、その書類を見せてもらえるか?」

「あ、ああ。ほら」


 男から書類を受け取ったリリィは、視線を書類の文字へと移す。

 そしてそのまま、その内容を読み上げた。


「アスティル=ガルスフィア。書類上の年齢は……72歳!? 随分と高齢だな……」

「ええっ!? あ、アスティルさん!? そ、それって、“ガルスフィアの錬成陣“を考えた、あのアスティルさんのこと!?」


 リースは創術士の名前を聞いた瞬間、興奮気味に言葉を発し、リリィのマントをくいくいと引っ張る。

 リリィはそんなリースの言葉を聞くと、書類をもう一度確認し、目を丸くした。


「!? そ、そうか。名前を聞いて引っかかってはいたが……あのアスティル氏がこんなところにいたとは」


 リリィは口元に手を当て、書類を見つめる。

 するとそんな二人の様子を見たアスカが、両手を頭の後ろで組みながら言葉を紡いだ。


「あのさー、そのアスティルさんって、そんなすっごいの?」


 アスカは首を傾げながら、二人に対して言葉を発する。

 リースはその言葉にいち早く反応し、興奮した様子で返事を返した。


「すごいなんてもんじゃないよ! ガルスフィアの練成陣に始まり、アスティルの創生薬を作ったのもこの人なんだ。それに―――」

「お、落ち着け、リース。アスカの頭から煙が出ている」

「れ、れんせいじん? そうせいやく? じぇんじぇんわかんにあ」


 アスカは突然リースから専門用語をまくし立てられ、頭から煙を出す。

 リリィは一度ごほんと咳払いすると、アスカに対して言葉を発した。


「つまり、アスティル氏は今日の創術の礎を作った、偉大な人物ということだ。例えば、そうだな……最初に陽術を使った人物は凄いだろう? その創術版の人物だ、と思えばいい」

「おおーっ! なるほど! そりゃすごい人だわ!」


 アスカは拳と手のひらをぽんっと合わせ、合点がいった様子で満足そうに笑う。

 そのままリリィは、言葉を続けた。


「今の居場所は……東にあるシーラ坑道か。恐らく創術用の鉱石を取りに行ったのだろうが、情報がかなり古いな……」


 リリィの手元にある書類には、十数年前の日付が刻まれている。

 普通に考えれば、まだその坑道にいる可能性はかなり低いだろう。


「あー、確かに情報は古いけど、アスティルさんはこの街を拠点に行動してたから、街に戻ってきたら情報が更新されてるはずだぜ。まあ、シーラ坑道から直接どっかに行かれたら、もうわかんねえけどな」


 受付の男は一行の会話に割り込み、頭を搔きながら言葉を発する。

 その言葉を受けたリースは、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら言葉を紡いだ。


「ねえねえ! 行ってみようよリリィさん! 僕、1%でもアスティルさんに会える可能性があるなら、行ってみたいんだ! それに何より、実力は充分なはずでしょ!?」

「ふむ……まあ、確かにな。現状ではこれ以上ない人物と言えるだろう」


 リリィは曲げた人差し指を顎に当て、何かを考えるようにしながら言葉を返す。

 アスカはそんな二人の言葉を聞くと、ぱんっと両手を合わせた。


「よし! じゃあ決まりだね! あたしもそんなすごい人になら、任せられるもん! 行ってみようよリリィっち!」

「そう……だな。行ってみるか。団長はそれでいいのか?」


 リリィは背後に立っていたはずのアニキへと、言葉を届ける。

 しかしアニキは両腕を組んだまま、鼻ちょうちんを膨らませて眠っていた。


「んあ? あ、ああ、いいんじゃねーの? どこでも」

「貴様、興味がないからっていちいち寝るんじゃない!」


 リリィは完全に眠っていたアニキに向かって、言葉をぶつける。

 アニキは「っせーなぁ。悪かったよ」と、耳をほじりながら返事を返した。


「まあまあリリィっち。じゃあアスティルさんに会いに、シーラ坑道へれっつごー!」

「おーっ!」


 手を天に振り上げたアスカに同調し、自らの手を天へと突き出すリース。

 リリィはそんな二人の姿を見ると、困ったように微笑みながら、まだ見ぬシーラ坑道へと想いを馳せていた。

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