第69話:創術士を探して
「はぁっはぁっ……アニキさん、もう一回お願い!」
「おおよ! 何回でもかかってこいやぁ!」
学園都市から離れた平原の街道横で、リースとアニキが組み手をしている。
リースは懸命にその小さな拳をアニキへと突き出すが、アニキはその全てを回避、防御し、致命打は一発も生まれなかった。
「はぁっはぁっ……だ、ダメだぁ。いっぱつも、あたらない……!」
リースはついに体力の限界を向かえ、ごろんとその場に寝転がる。
アニキは大口を開けて笑いながら、そんなリースへと言葉を返した。
「あっはっは! まあ、昨日よりは確実に良くなってるぜ。おめえ、筋がいいかもしんねーな」
「ほん、と? それは、うれしいなぁ……」
リースは乱れた呼吸を吐きながら、寝転がって青空を見つめる。
そんなリースを覆うように、大きな影がリースを包んだ。
「大丈夫か? リース。ほら、水だ」
リリィはリースの汗をタオルで拭うと、水筒に入れた水を手渡す。
リースは体を起こすと、「ありがとう」と返事を返し、水を飲んだ。
「やーそれにしても、リースちゃんが急に“格闘術と剣術を修行したい!”なんて言い出したのは驚いたよね。それからずっと修行しっぱなしじゃん」
アスカは頭の後ろで手を組み、水を飲んでいるリースを見つめる。
リースは少し恥ずかしそうに頬をかきながら、アスカへと返事を返した。
「ん……そうだね。ブレイブさんやレンの姿を見て、僕は創術の修行だけで本当にいいのかなって、そう思ったんだ。このままずっとみんなの足手まといとか、そんなの嫌だから」
「リース……」
リリィはリースの言葉を受け、少し寂しそうに瞳を伏せる。
リースが自立心を持ってくれたのはもちろん喜ばしい。でも、なんだかリースがどんどん前に、どこかに歩いていってしまうような気がして、リリィは一抹の寂しさを感じていた。
「んー! もう可愛いなぁリースちゃん! お姉ちゃんは応援してるかんね!」
「あ、アスカさん。苦しいよぉ」
リースはアスカに抱きしめられ、苦しそうにその腕の中で言葉を紡ぐ。
リリィはそんなリースの様子を見ると微笑みながら頭を横に振り、気を取り直して言葉を発した。
「リース。次は剣術の修行だ。わかっているな?」
「あ、うん! 僕、まだまだいけるよ!」
リースはアスカの腕から離れると、ぐっと両手を握りしめて言葉を返す。
リリィはそんなリースの様子を見るとにっこりと微笑み、修行用の木刀をリースへと手渡した。
「ふやぁああ……もーだめ、一歩も動けない」
「頑張ったな、リース。よく毎日、私と馬鹿団長の修行についてくるものだ」
剣の修行を終え、ごろんと横になったリースに対し、修行用の木刀を片付けながら言葉を紡ぐリリィ。
リースは地面に横たわって荒い呼吸を繰り返しながら、リリィへと返事を返した。
「これくらい、しなきゃ、ブレイブさんとレンには、追いつけないからね……えへへ」
リースは横たわったまま、悪戯な笑みを見せる。
リリィは屈むと右手の手甲を外し、そんなリースの頭をそっと撫でた。
「そうだな。あの二人は本当に、立派な少年だった。リースもすぐ、そんな少年に……いや、そんな大人になれるだろう」
「えへへ……リリィさん、くすぐったいよ」
リースはリリィの手の感触にくすぐったそうに反応し、笑う。
リリィはそんなリースの様子を見ると、楽しそうに微笑んだ。
「そういえばさー、あたしたちって今、どこに向かってるんだっけ? 路銀は学園都市で稼げたからいいとして、目的地って話し合ったっけ」
アスカはぺたんと街道横の草原に座り、リリィ達に向かって言葉を紡ぐ。
アニキはそんなアスカに向かって、返事を返した。
「あー、そういやブラブラ歩いてきちまったなぁ。じゃあよ、“言いだしっぺのアスカの目的を達成する”ってのはどうだ?」
アニキは腕を組みながら笑い、アスカへと返事を返す。
リリィはアニキの言葉を聞くと、片手で頭を抱えながら返事を返した。
「そんな安直な……だいたい我々にはそもそも、旅の目的があるだろう。“竜族の追っ手から逃げる事”そして“リースの母親を探すこと”の二点だ」
リリィは一つ一つの目的に指を立てて数えながら、言葉を紡ぐ。
アニキはそんなリリィの言葉を受けると、腕を組んだまま返事を返した。
「その目的ってやつだけどよ。竜族の追っ手ってのは、竜族の里から遠ざかればいいわけだから、このまま進めば問題ねえ。それと、リースの目的の母親探しも、アスカの目的である“創術士探し”をしてれば、自然と手がかりが掴めるんじゃねえのか?」
アニキは腕を組みながら、今現在の状態を整理する。
その言葉を受けたリリィは、驚きに目を見開いた。
「驚いたな……貴様でも物事を整理することができたとは」
「いきなり失礼だなてめえは!? ちょっと考えりゃわかるだろがよ!」
アニキはガルルル……と唸りながら、リリィへと言葉をぶつける。
リリィはぽりぽりと頬をかきながら、そんなアニキへと返事を返した。
「まあしかし、貴様の言う通りだ。カレンの肉体を創り出せる創術士を探す過程で、リースの母親の手がかりを掴めるかもしれんしな」
「あ、そっか! 僕のお母さん、創術士だもんね。確かにそうかもしれない」
リースは体を起こすと、リリィの言葉にうんうんと頷いた。
そんなみんなの声を聞いていたアスカは、倒れていた体を起こし、飛び上がった。
「え!? つまり、みんなであたしの目的に協力してくれるってこと!? わーい! ありがとうリリィっち!」
アスカはリリィに飛び掛ると、そのまま強い力で抱きしめる。
リリィはアスカに抱きつかれたまま、声を荒げた。
「ほわっ!? こ、こらアスカ! いきなり抱きつくな!」
「えへへ、はーい♪」
アスカはにっこりと笑いながら、リリィへと返事を返し、その手を離す。
やがて何かを思い出したように両手を合わせると、さらに言葉を紡いだ。
「あ、そーだ! お姉ちゃん! よかったね! みんな手伝ってくれるって!」
「……っ!」
アスカはお札からカレンを呼び出し、カレンと抱擁を交わす。
カレンは微笑みながら頷き、そんなアスカの頭を優しく撫でた。
「えっと、じゃあ決まりだね! カレンさんの体を造れる創術士さんを探しに、しゅっぱーつ♪」
「おー♪」
「お、おー」
アスカとリースは楽しそうに右手を空に突き上げ、リリィはたどたどしくもそれに続く。
こうして一行は創術士探しのため、次の街へと歩みを進めた。