第68話:あなたに追いつくその日まで
リリィに学園長が倒されたその後。学園長の悪事は白日の下に晒され、彼はその役職を追われることとなる。
ほどなくしてルルや他の生徒の洗脳も解除され、生徒達の間には平和が戻った。
学園長に加担していた教師達も学園長同様逮捕されることとなり、学園は深刻な人材不足及び学園長不在という緊急事態に陥ることになる。
しかしながら、元々教師に志願する者も多かったため、それほど大きな問題とはならないだろう。
こうしてリリィ達の、学園都市での仕事は完了した。
リリィ達一行は学園に別れを告げるため、学園都市の入り口に立っていた。
リリィ達を見送るため、シルフィ、アリスタシア、ラルフ、レンの四人も、学園都市の門の前へと集合する。
依頼主であるシルフィは、誰よりも早くその口を開いた。
「皆さん本当に、ありがとうございました。皆さんのおかげでルルや他のみんなも、無事帰ってきてくれました」
シルフィは手を重ねて深々と頭を下げ、リリィ達へとお礼の言葉を述べる。
そんなシルフィの言葉を受けたリリィは、ぶんぶんと手を横に振って返事を返した。
「ああ、いやいや、そう固くならないでくれ、シルフィ。我々は正当な報酬を貰って仕事をしたまでだ」
リリィは深々と頭を下げるシルフィに対し、困ったように笑いながら返事を返す。
シルフィはその言葉を受けて頭を上げると、さらに言葉を続けた。
「ありがとうございます、リリィさん。それにしても……もう、行ってしまうのですか? もう少し、ゆっくりなさっても……」
シルフィはリリィ達が旅立つことを悲しみ、残念そうに眉を下げる。
リリィはポリポリと頬を搔きながら、返事を返した。
「ふむ。そうしたいのは山々なのだが、我々も長居できない理由があってな。学園の再建まで立ち会えず、本当に申し訳ない」
リリィはシルフィ達へと頭を下げながら、言葉を紡ぐ。
竜族の追っ手から逃げる旅の途中である以上、一点の場所にずっと留まっているわけにはいかない。
リリィは色々と心配が残るこの街を去るのは心苦しかったが、本来の目的を思い出し、旅立ちを決意していた。
「安心してくださいませ、お姉様。このアリスタシア。立派に学園を再建してみせますわ」
アリスタシアは一歩前に踏み出ると、胸を軽く叩きながらリリィへと言葉を紡いだ。
「ありがとう、アリス。君がそう言ってくれると心強いよ」
リリィは話しかけてきたアリスタシアに対し、微笑みながら返事を返す。
アリスタシアはそんなリリィの微笑みを見ると、「い、いえ……」と頬を赤くして俯いた。
「あらら~赤くなっちゃって、可愛いねえアリスタシアちゃん。ほら、昨日言った例のやつ、リリィっちにやらなくていいの?」
「ええっ!? ほ、本当にやるんですの!?」
「???」
頬を真っ赤にしながらアスカと話すアリスタシアの様子に、頭に疑問符を浮かべて首を傾げるリリィ。
やがてアリスタシアは真っ直ぐにリリィを見据えると、口を一文字に結んでリリィへと歩みを進めた。
「あ、アリス? どうかしたのか?」
「……っ!」
アリスタシアは無言のままずんずんとリリィに近づき、やがてリリィの肩に手を乗せる。
そしてそのまま背伸びをすると、リリィの頬にキスを落とした。
「こっ、これは、ほんのお礼です。旅のごぶ、ご無事を祈っていますわ、お姉様」
アリスタシアは舌を噛みながらも、かろうじてリリィへと言葉を紡ぐ。
リリィはキスされた頬を押さえて目を丸くするが、やがて優しく微笑み、「ありがとう、アリス」と返事を返した。
アリスタシアはそんなリリィの笑顔を至近距離で見ると、耳まで真っ赤にして俯いた。
「あっ、じゃあじゃあ、わたしもです! ……んっ」
「おおっ!?」
シルフィはそんなアリスタシアの様子を見ると、跳ねる様にリリィへと近づき、軽いキスを頬に落とす。
リリィは突然の柔らかな感触に、思わず声を上げた。
そんな女子組の様子を見ていたラルフは、アニキに向かって言葉を紡ぐ。
「あのー……これは俺もアニキさんにキッスしなきゃいけない流れッスかね?」
「あっはっは! なわけねーだろバカ! てめえは握手でいーんだよ!」
「あ、あはは……そうッスよね。安心したッス」
ラルフは右手を出し、アニキとリースとそれぞれ握手を交わす。
アニキもリースも笑いながら、ラルフの手をしっかりと握った。
「あばよ、ラルフ。これから大変だろうがよ、頑張るんだぜ?」
「じゃあね、ラルフさん! 楽しかったよ!」
アニキとリースはそれぞれ笑顔で、ラルフへと言葉を紡ぐ。
ラルフは満面の笑顔を浮かべながら「はいッス!」と元気な声を響かせた。
そんな中リースは、見送りに来ていたレンの下へと歩みを進め、言葉を発した。
「……それじゃあね、レン。僕と同じくらいの歳でも創術を操る君を見て、僕も頑張らなくちゃって、そう思えた。本当にありがとう」
「…………」
リースは両手を体の後ろで組み、レンの瞳を見ながら言葉を紡ぐ。
レンはそんなリースの視線から目を逸らし、返事を返すことはなかった。
「あはは……まあ、じゃあ、そういうことで。本当にありがとね、レン」
リースは小さく手を横に振り、レンに背を向けて歩き出す。
レンは逸らしていた顔をリースに向けると、やがて口を開いた。
「リース!」
「……ん?」
リースはレンの言葉を受け、笑顔のまま体を少しだけレンへと向ける。
レンはそんなリースへ、さらに言葉を続けた。
「君は、僕のライバルだ! その事だけは、忘れないでください!」
レンは両手を強く握り、リースを真っ直ぐに見つめながら言葉を発した。
「……っ! うん! わかったよ!」
リースはレンの言葉を受けると、体をレンへと向け、満面の笑顔で返事を返す。
レンはそんなリースから視線を外すと、「何故そこで笑顔なんだか……まったく、調子が狂う」と、小さく言葉を落とした。
「……では、そろそろ我々は行くとしよう」
リリィは踵を返し、学園都市の門に向かって歩みを進める。
リースとアスカはぶんぶんと手を振りながら、アニキはポケットに手を突っ込んだ状態で、そんなリリィを追いかけた。
そしてリリィ達が数歩進んだ頃……甲高い声が、辺りに響く。
「リリィさん!」
「……ん? どうした、レン」
リリィは背後から聞こえたレンの言葉を受け、体をレンの方へと向ける。
レンは真っ直ぐにリリィを見つめると、やがて意を決したように瞳に力を込め、言葉を発した。
「僕は……僕はいつか、あなたに追いつきます! その時までどうか、お達者で!」
レンは深々と頭を下げ、リリィに向かって言葉を発する。
リリィはそんなレンを見ると、微笑みながら言葉を返した。
「ああ! わかった! レンも達者でな!」
「……っ! はい!」
レンは右手を上げるリリィの微笑みを瞳に焼付け、涙をこらえながら返事を返す。
リリィはそんなレンの姿を横目に見ながら、最後に大きく口を開けた。
「ではな! みんな! さらばだ!」
「まったねー♪ また遊ぼうぜえ!」
「あばよ!」
「ばいばーい!」
リリィ達一行はそれぞれ手を振りながら、学園都市の門をくぐる。
シルフィ達学生はそんな一行の姿を見つめて手を大きく振りながら、一行が去った後もずっと、門の前に広がる平原を見つめていた。