第66話:光と雷と
「くっ……ルル! やめてください! 僕の声が聞こえないのか!?」
「…………」
レンに向かって光の矢を連続して発射してくるルルに対し、レンは右手から発生させた雷で、その矢を迎撃する。
その間もレンは懸命にルルを説得しようとするが、ルルはただ無言で攻撃を繰り返す。
レンは奥歯を噛み締め、そんなルルを睨みつけた。
「くそっ……やっぱり説得は無理か。仕方ない……!」
レンは右手を天井に向け、雷を呼び出そうと精神を集中させる。
ルルはそんなレンのモーションに気付き、一手早く光の弓矢をレンに向かって発射した。
「ぐぅっ。さすがはルル。操られていても、その優秀さは相変わらずか……!」
レンは雷を呼び出すモーションを中止し、横っ飛びでルルの弓矢を寸前のところで回避する。
そのままゴロンと地面を一回転したレンは、そのままルルを中心に、円を描くように走り始めた。
「…………」
ルルは感情の篭っていない瞳で自分の周りを走り回るレンを見つめ、弓矢による攻撃を続ける。
レンは走って飛んでくる矢を回避しながら、ルルの意識を失わせる突破口を探していた。
「このままでは、創術を使う時間が稼げないか。なら……!」
レンは走っていた足を止めると、顔面に向かって飛んできた矢を、顔を動かすことで回避する。
レンの金色の髪が光の矢によって切り裂かれ、レンの頬を少しだけ切り裂いた。
「ぐっ……!」
レンは頬に走る痛みに耐え、右手を自身の目の前の地面へとかざす。
そのかざした右手と地面の間に雷を発生させると、レンはルルを睨みながら、声を荒げた。
「壁練成! ガルスフィア!」
レンが叫んだ瞬間、地面にかざしていた右手の下から、レンガ状の壁が創造される。
その壁はレンを守るようにせり上がり、やがてレンとルルの間に大きな隔たりを作った。
「…………」
ルルはその壁を見た瞬間、弓の照準を天井へと切り替え、壁の上から弧を描く形でレンを射撃しようと、弓を引く。
レンは壁越しにそんなルルの動きを看破すると、両手を地面にかざし、その両手と地面の間に雷を生み出した。
「まだだ! 君ならこんな壁、容易に突破してくるだろう!」
レンはかざした両手の下から発生している雷から、さらに複数の壁を創造し、それらを繋げていく。
やがて繋げた壁からさらに天井が創造され、レンは結果的に、レンガ状のドームに包まれた。
「これで、時間稼ぎはできるだろう。後は創術を使うのみ!」
レンは壁に向かって叫び、その両手を天井へと伸ばす。
レンガ状のドームの頭上には、いつのまにか巨大な雷の塊が、発生し始めていた。
「…………」
ルルは全方向に対して防御状態となったレンを見ると、光で出来た弓を解除し、両手をだらりと下げる。
その後レンの作った壁の強度を目測で計算すると、今度は一回り大きな弓をその両手で作り出した。
ルルは巨大な光の弓を構え、レンに向かってその照準を合わせる。
ルルの身長よりも大きな矢をその弓に込め、その弓を引いていくルル。
やがてルルはその巨大な矢を、防御状態のレンへと放った。
巨大な光の矢はレンの作った壁を容易く粉砕し、中に居るレンに向かって唸るように進んでいく。
その矢がレンの体を貫こうという刹那、レンは両目を見開き、そして叫んだ。
「はぁあああああ! 槍練成! ガルスフィア!」
頭上に発生していた巨大な雷がレンを打ち、その衝撃でルルの矢が弾かれ、空中で四散する。
バチバチと雷が宙を走るその中で、槍を構えたレンが、ルルを真っ直ぐに睨みつけていた。
「君は、僕の親友だ……だから君が道を踏み外すその時は、僕が道を正してみせる!」
レンは槍を構え、ルルに向かって突進していく。
ルルは無表情のまま弓を構えると、一度の引きで複数の矢を同時に発射した。
ルルの弓から放たれる、複数の光の矢。
レンは速射される矢の中で自身を貫くものだけを器用に槍で弾き、その槍の攻撃圏内にルルをとらえた。
ルルは近距離でレンを見つめると、弓を解除して光のナイフを装備するが、レンはそのナイフを槍の切っ先で弾き、叫んだ。
「遅いぞルル! この距離はもう、僕の距離だ!」
「…………!」
ルルは咄嗟にバックステップをしてレンとの距離を取ろうとするが、レンは弱めの雷をルルに浴びせて一瞬だけ体を痺れさせ、その動きを制した。
「ここだあああああああああああ!」
「!?」
レンは槍を回転させると、持ち手の部分でルルの腹部を突く。
ルルは鈍い痛みに両目を見開き、やがてその意識を手放した。
倒れゆくルルの体を、咄嗟に支えるレン。
気絶したルルの横顔を見ると、レンは悲しそうに目を伏せた。
「ルル……」
レンは気絶したルルを右手で抱え、その顔を見つめる。
やがて左手に持っていた槍は塵となって、地面へと振り落ちた。
「普段の君なら、僕は負けていただろう。でも、操られている今の君なら、僕は負けないよ」
レンは気絶したルルを抱きしめながら、優しい声で言葉を紡ぐ。
その後ルルを地面へと寝かせたレンだったが、体の力が次第に抜けていった。
「くっ……さすがに力を、使いすぎた、か……」
レンはやがてルルと同じくその場に倒れ、意識を手放す。
地中深くの部屋の中で、二人の少年は寄り添うように、その場に横たわった。