第63話:リリィの探索
リリィは武装した教師で溢れる校舎の中を、駆け抜けていく。
しかしどの教室を見ても学園長の姿は見えず、リリィは走りながらどうしたものかと考えていた。
「ちっ……学園長め、一体どこにいる。奴さえ倒せば、この戦いも収束に向かうというのに……」
リリィは時折襲い掛かってくる教師や生徒を峰打ちで倒しながら、校舎内をくまなく捜索していく。
その時中庭から、甲高い声が響いた。
「無駄です! あなたたちに僕は倒せない!」
「!? この声……レンか!?」
リリィは校舎の窓から、中庭の様子を見る。
そこでは教師達に囲まれたレンが、創術と雷術を駆使して応戦していた。
レンもよく対応してはいるが、レンの戦闘力を持ってしても、複数の教師を倒すのは不可能に近い。
口では強がっているものの、レンのピンチは明らかだった。
「何故こんなところにレンがいる!? いや……それよりもあの状況はまずい!」
リリィは窓を開き、そこから中庭に向かって跳躍する。
その時レンに向かって、一つの火炎弾が飛んできていた。
「!?」
レンはその火炎弾に気付き対応しようとするが、寸前のところで間に合わない。
万事休すかと感じたレンが両目を瞑った瞬間、火炎弾をリリィの剣が真っ二つに切り裂いた。
「危ないところだったな……レン。怪我はないか?」
リリィは剣を周囲の教師達に向かって構え、言葉を紡ぐ。
レンは声の主がリリィだとわかると、緊張した様子で返事を返した。
「あっ……は、はい! 大丈夫です!」
「そうか。色々聞きたいことはあるが……まずは状況を打開するところから、だな」
リリィは向かってくる教師を剣で倒しながら、レンに向かって言葉を発する。
レンが「は、はい!」と返事を返すと、リリィはさらに言葉を続けた。
「よし、ではレン。すまないが……少し屈んでいてくれ」
「えっ!? あ、はい! わかりました!」
レンは一瞬リリィの言葉に驚くも、その場に素早く伏せる。
リリィは横目でそれを確認すると、横向きに剣を構え、体を回転させた。
「よし……いくぞ! はあああああああああああああ!」
リリィは回転しながら横薙ぎの斬撃を繰り出し、周りを取り囲んでいた教師たちを一人残らず吹き飛ばす。
リリィはふうと息を落とすと、剣を鞘の中に収めた。
「す、すごい……」
レンが起き上がると、中庭に集合していた教師達は一人残らず壁まで吹き飛ばされ、気絶しているのが見える。
リリィはそんなレンの頭を優しくポンポンと叩くと、言葉を紡いだ。
「さて……これで一安心だ。しかしレン。何故こんなところにいる?」
リリィは膝を折ってレンと視線の高さを合わせると、出来るだけ優しい声で言葉を紡ぐ。
レンは一瞬香ってきた花のような香りと、近距離に近づいたリリィの整った顔に戸惑いながらも、かろうじて言葉を紡いだ。
「ぼっ、僕はただ、ルルを助けたくて……彼は僕の、親友だったんです。放ってはおけない……です」
レンはたどたどしく口を動かしながら、かろうじてリリィへと言葉を紡ぐ。
リリィはその言葉を受けると息を落とし、体を起こした。
「そうか。友達想いなのは素晴らしいことだが……危険すぎる。送っていくから、今すぐ体育館に戻るんだ」
リリィは真剣な表情でレンを見つめ、言葉を発する。
レンはその言葉を受けると、強い意志を込めた瞳で、リリィを見返した。
「それは、ダメです! 彼は本当にいい奴で、ぶっきらぼうな僕に対しても、真っ直ぐに付き合ってくれました。今度は僕が、その恩を返す番なんです!」
レンは真っ直ぐな瞳で、リリィに向かって言葉を紡ぐ。
リリィはそんなレンの瞳に、決意をした時のリースを重ねた。
「……はぁ。その瞳をしたものに、説得は無駄……か」
「???」
片手で頭を支えながら言葉を返すリリィに対し、疑問符を浮かべながら首を傾げるレン。
リリィはそんなレンの頭にぽんっと手を置くと、言葉を続けた。
「わかったよ、レン。ならばせめて、一つくらいは言うことを聞いてくれ。“決して私の傍を離れない”と」
リリィは真剣な表情で、言葉を紡ぐ。
レンはその言葉を受けると、ぱぁぁとその表情を明るくした。
「は、はい! ありがとうございます!」
レンはリリィから許可が得られたことが嬉しいのか、瞳を輝かせながら力強く頷く。
その様子を見たリリィは、ふっと小さく笑った。
「よし、では行くとしよう。レン、絶対に離れるなよ!」
「はい! リリィさん!」
リリィは速度を抑え、学園長を探すべく学園の校舎内へと戻っていく。
レンはそんなリリィの背中を、小さな体で懸命に追いかけていた。