第62話:アニキの防衛線
「うおっしゃああああああああ! ぶっ飛ばすぞコラアアアアアア!」
アニキは足に炎を纏い、教師や操られたモンスターを吹き飛ばしていく。
そんなアニキが活躍する度、生徒たちから声援が上がった。
「うおー! アニキさんさすがっすー!」
「かっけええええええ!」
「おう! てめえらも無理せず俺にまかしとけや!」
アニキは男子生徒たちの声援を受け、嬉しそうに歯を見せて笑う。
その笑顔を見た男子生徒達は、より一層大きな声で声援を送った。
しかしそんな一行の立っている地面を揺らしながら近づいてくる、巨大な影がひとつ。
その体躯は体育館ほどもあり、鉄製の体は日の光を反射して鈍く輝く。
アニキはその姿を見ると、満足そうにニヤリと笑った。
「アイアンゴーレムか……おもしれえじゃねーの」
アニキはパシッと拳を手のひらに打ちつけ、アイアンゴーレムを見上げる。
男子生徒達は口々に、アニキへと言葉をぶつけた。
「あ、ありゃやべえっすよアニキさん!」
「アニキさん逃げてー!」
「さすがにあいつを一人では無理っすー!」
男子生徒達は前衛に一人で立つアニキを心配し、口々に後ろに下がるよう声を荒げる。
アニキはそんな男子生徒達からの言葉を受けると、悪戯な笑顔を浮かべながら返事を返した。
「へっ、バーカ! この俺がゴーレムごときでビビるかよ! まあ見とけてめえら!」
アニキはぐっとガッツポーズを決め、背後の男子生徒達へと言葉を発する。
男子生徒達は自信満々なアニキの言葉に、思わず声を失った。
しかしそんな彼らの様子などお構いなしに、ゴーレムはその巨大な右拳を振り上げ、アニキに向かって振り下ろした。
「!? アニキさん! あぶなーい!」
「…………」
男子生徒の一人がアニキに警鐘を鳴らすが、アニキはその場を微動だにせず、モロにゴーレムの一撃を頭部に受ける。
ゴーレムの拳の衝撃によって土煙が宙を舞い、アニキの姿を完全に覆い隠した。
「!? あ、アニキさん! アニキさああああああああん!」
「アニキさあああああああん!」
男子生徒達は口々に、アニキの呼び名を叫ぶ。
やがて土煙が晴れた頃……ゴーレムは驚きの声を上げた。
「グオッ!?」
ゴーレムの拳の下。潰れているはずのその脆弱な生物は、潰れるどころか背中をぴんと伸ばし、頭に巨大な拳を受けながら、悠然と立っている。
ゴーレムはそれを押しつぶそうと右拳に全体重と力を込めるが、その生物は腰を折ることもせず、ぴくりとも動かなかった。
「へっ……ぬるいぜ、ゴーレム野郎。話になんねえな」
アニキは殴られた状態のまま瞳をゴーレムへと向け、ニヤリと笑ってみせる。
その異様な眼力を受けたゴーレムは、うめき声を上げて数歩後ずさった。
「……下がったな? だったら、てめえの負けだコラアアアアアアアア!」
アニキは一度強く片足を地面に叩きつけ、そこから炎を立ち上らせる。
立ち上った炎はやがてアニキの右拳に宿り、逆巻く炎が右腕に巻き付いた。
「てめえに炎撃はもったいねえが……特別サービスだ。地の果てまで吹っ飛ばしてやるぜ!」
「グッ!? グオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ゴーレムは恐怖のあまり半狂乱状態となり、アニキを掴もうと両手を伸ばす。
しかしその両手は空を切り、肝心のアニキは、ゴーレムの体の下に潜りこんでいた。
「これで……終わりだあああああああああああああああああ!」
アニキは左足を前に踏み出し、右拳をゴーレムの胴体へと打ち込む。
その瞬間ゴーレムの体は学園都市外まで吹き飛び、やがて空中で爆発した。
「ちっ……雑魚相手にしてもしょうがねえってのに……ここには雑魚しかいねえのか?」
アニキは殴った右拳をブラブラさせながら、つまらなそうに言葉を漏らす。
その言葉を聞いた男子生徒達は、一気に声を上げた。
「うおおおおおおおおおお! アニキさん、さすがっす!」
「アーニーキ! アーニーキ!」
「さっすが俺らのアニキさんだぜぇ!」
男子生徒達は口々にアニキを賛美し、声を荒げる。
アニキはそんな男子生徒達の言葉を受けると、歯を見せて大きく笑った。
「あっはっはっは! おおよ、俺に全部任せとけ!」
アニキは右拳の炎を収束させ、ポケットに両手を突っ込んで次の襲撃を待つ。
しかしそんなアニキに向かって、甲高い声が響いた。
「アニキさん! 大変! 大変だよぉ!」
リースは慌てた様子でアニキへと駆け寄り、声を荒げる。
アニキは落ち着いた様子で振り向くと、リースに向かって言葉を紡いだ。
「あん? どうしたリース。そんな血相変えてよ」
「レンが……レンがいないんだ! 体育館にも、どこにも!」
リースはばたばたと両手を振りながら、慌てた様子で言葉をぶつける。
アニキは両目を見開き、そんなリースへと返事を返した。
「はぁ!? レンが!? 体育館にいないってことは、おめえ……」
アニキは嫌な予感を感じ、遠目に見える校舎へと視線を向ける。
レンは、攫われているルルと同室に住んでいて、本人曰く、友人だったということだ。
もしかしたらレンは、友人であるルルを助けるため、単身で学園長の下へ行ったのかもしれない。
「……マジか」
アニキは片手を眼の上に当て、そのまま天を仰ぐ。
リースは心配そうに、そんなアニキを見つめていた。