第61話:アスカの防衛線
「遠距離攻撃隊、前へ! うてーっ!」
アスカは刀を、体育館に向かってくる教師達に向け、遠距離攻撃を担当する生徒たちに指示を出す。
生徒たちは雷や炎など、それぞれ得意な技を駆使し、教師達を攻撃した。
「!? まだ向かってくる教師が……危ない!」
アスカは指示を出していた場所からダッシュし、襲い掛かってくる教師を峰打ちで倒す。
助けられた男子生徒は「ありがとうございます!」と頭を下げた。
「やーやー、まあこんくらい軽いって。あ、遠距離攻撃のみんなは、相手を殺しちゃわないように、威力抑えるの忘れないでねー!」
アスカの大声を受け、遠距離攻撃担当の生徒たちは一斉に「はい!」と返事を返す。
リリィの立てた作戦では、リリィ以外のメンバーが体育館を防衛し、リリィは単機で、学園長撃破のため学園に潜入するというものだった。
アニキはリリィと共に……というか単機で学園に乗り込むのを希望したが、学園長の顔を知らないということで却下。
アスカは学園長の顔は知っているものの、体育館の守りを厚くしておきたいということで、体育館に残ることになった。
「アスカさん! 体育館北口の防御が手薄です! 援護をお願いします!」
突如走ってきた伝令係の学生が、敬礼しながらアスカへと言葉を発する。
アスカはその言葉を受けると、体育館北口へと駆け出した。
「りょーかい! リースちゃん! シルフィっちから離れちゃダメだよ!」
「うん! わかったよ! 頑張って、アスカさん!」
「アスカさん! お気をつけて!」
アスカに指示を受けたリースは、シルフィの隣でぶんぶんと片手を横に振る。
シルフィは両手をメガホンのように使いながら、アスカへとエールを送った。
それを見届けたアスカは、一度にっこりと微笑むと、体育館北口へと本格的に走り出した。
北口に到着したアスカの目に飛び込んできたのは、一匹の風属性モンスターに苦戦する、男子生徒達の姿だった。
「あちゃ……確かありゃ“フィン”とかいう、鳥型のすばしっこいモンスターかぁ。まさかモンスターまで操ってくるとは、予想外だったなぁ」
アスカはその惨状を見て、ポリポリと頬をかく。
そしてそのまま、フィンの暴れている場所に向かって歩みを進めた。
「あ、ちょっとアスカさん! 危ないっすよ! そいつ本当につええ!」
無防備に歩みを進めるアスカに対し、声を荒げる男子生徒。
アスカは片手を前後に振り、「あ、だいじょーぶだいじょーぶ」と、けらけら笑ってみせた。
「いや、大丈夫って……もううちの生徒が五人も倒されて、回復してる最中なんすよ!?」
男子生徒はアスカの身を心配し、声を荒げるが、アスカは相変わらず笑いながらフィンへと近づき、止まる気は毛頭無いらしい。
やがてアスカは左右に飛び回っているフィンを視線で追うと、刀の柄に手を乗せた。
「さて……じゃあ、やっちまいますかぁ」
「!? 消えっ……!?」
アスカは残像だけをその場に残し、高速で移動を始める。
飛び回っているフィンはそのスピードに追いつこうとするが、両者の活動している時間軸がまるで違う。
今アスカの視界では、フィンがスローモーションに見えていた。
「やっぱこんなもんかぁ……じゃ、待ち伏せでも大丈夫そだね」
「ピギッ!?」
突然立ち止まったアスカに驚き、フィンは空中で叫び声を上げる。
するとアスカは体勢を低くして抜刀術の構えをし、両目を瞑ってフィンを待った。
「ピギイイイイイイイイイイイイ!」
フィンはアスカが止まったのを好機と考えたのか、アスカに向かって高速で突進してくる。
その嘴がアスカに突き刺さろうかというその刹那……アスカは刀を抜刀し、フィンを真っ二つに切り裂いた。
「連斬桜花……一分咲き」
アスカが抜いた刀を鞘に戻すと同時に、鮮血の花がフィンの体に咲く。
フィンは真っ二つにされたまま、ボトリとその体を地面へと落とした。
「す、すげえ……」
「倒した……のか?」
「そ、そうだよ! 倒したんだ!」
「うおーアスカさん! いや、姉さーん!」
「アスカ姉さん! さすがっすー!」
ウォォォォと男子生徒は一斉に歓声を上げ、アスカを褒め称える。
アスカは「やーやーやー、たいしたことないよぉ」と、恥ずかしそうに頭を搔いた。
「いやいや、すげーっすよ! あのフィンを一撃とか!」
「アースーカ! あそれアースーカ!」
「あっはっは! そうかねそうかね! もっと敬いたまへ!」
アスカはいつのまにか胸を張り、あっはっはと大声で笑ってみせる。
しかしそんなアスカに、教師の放った火炎弾が飛んできた。
「ほぶふぉ!? あっぶねえ!?」
アスカはギリギリで火炎弾に気付き、寸前のところでそれを回避する。
回避した火炎弾はきっちり切り裂いて、その場で無効化した。
「くっそー、背後からとは卑怯な! 野郎ども! いくぞー!」
アスカは刀を抜き、背後の敵へ向かって掛け声をかける。
男子生徒達はウォォォと再び声を上げ、そんなアスカと共に共同戦線を張った。