第60話:体育館防衛作戦
校舎内に散らばった生徒達を体育館へと集めたリリィ達は、体育館の壇上でこれからどうすべきかを話し合う。
リリィは壇上から、体育館に集まった生徒達を見渡した。
「生徒はこれで全員か……思っていたよりも多いな」
リリィは体育館に集めた生徒達を見つめ、ぽつりと言葉を落とす。
体育館には男女それぞれの生徒が多く集まっていたが、元々体育館が広く作られていたため、幸い狭い思いはしていないようだ。
むしろ生徒たちは今の状況に混乱し、どよめいているのがほとんどであり、まずは状況説明こそが必要だった。
「男子校舎組も、集まったな? 皆に状況説明をしたいのだが、男子には私が話してもピンとこないだろう。そこで……」
「おう! 俺が説明すりゃいいんだな!?」
アニキは両拳を打ち鳴らし、リリィに向かって言葉を返す。
リリィはそんなアニキの様子に構わず、言葉を続けた。
「そこで、ラルフ君。君に男子への説明を担当してもらいたい。事情については、先ほど説明した通りだ」
リリィはラルフへと体を向け、言葉を紡ぐ。
ラルフはびくっと肩をいからせ、かろうじて返事を返した。
「えっ!? じ、自分ッスか!? わ、わかりましたッス!」
ラルフは何故か敬礼をしながら、緊張した様子でリリィへと返事を返す。
しかしリリィの発言に、アニキは噛み付くように言葉をぶつけた。
「をい。なんで俺じゃねーんだコラ」
「貴様が話しても支離滅裂になるのがオチだろうが……それに貴様は、口より手を動かしたいだろう?」
リリィは頭を抱え、ため息を落としながら返事を返す。
アニキは「うっ……まあ、確かにな」と、珍しくリリィの言葉を認めた。
「えっと……じゃあ自分は、男子生徒に事情を説明してくるッス」
「ああ、ラルフ君。よろしく頼む」
リリィは男子の下へと走っていくラルフへと片手を上げて返事を返す。
やがてシルフィ達女子組へと向き直ると、さらに言葉を続けた。
「さて、女子達への説明だが、これは生徒会長であるアリスにやってもらおうと思う。アリス、お願いできるだろうか?」
リリィはアリスタシアへと視線を向け、言葉を紡ぐ。
アリスタシアは曲げた人差し指を顎に当てて何かを考えると、やがて返事を返した。
「……いえ、今生徒から最も支持されているのはお姉様です。ここはお姉様がご説明なさった方が、生徒たちも安心できると思いますわ」
アリスタシアは胸の下で腕を組み、冷静な態度で言葉を紡ぐ。
リリィはそんなアリスタシアの言葉を受けると、ポリポリと頬をかいた。
「ふぅむ……そうか。私自身あまり支持されている意識はないのだが、生徒会長であるアリスが言うのだ。その指示に従おう」
「ありがとうございます、お姉様。皆もきっと喜びますわ」
アリスタシアはにっこりと微笑み、リリィに向かって言葉を紡ぐ。
リリィはあまり納得がいっていないながらも、拡声器を使って女生徒達に向かって言葉を発した。
「皆、混乱しているところすまない! 少しだけ、私の話を聞いてくれ!」
「お姉様!?」
「みんな、静かに! お姉様が何かお話になりますわ!」
「あら~……一発で静かになっちゃいましたね」
シルフィは騒がしかった女生徒達が一瞬で静まり返ったことに驚き、口元に手を当てながら言葉を紡ぐ。
リリィは静かになったその場に満足し、さらに言葉を続けた。
「皆も知っての通り、学園の教師たちは今、君達をさらおうと襲って来ている。我々はその情報を察知し、この体育館にひとまず避難してもらった」
リリィはできるだけ優しい声色で、生徒たちを怯えさせないように気をつけて言葉を紡ぐ。
女生徒達は皆静かに、リリィの言葉の続きを待った。
「私とここにいるアリスタシア達で独自に調査した結果、以前発生していた生徒の失踪事件についても、学園長を初めとした教師たちが行っていたことが明らかになっている。そのため我々はまず、教師たちの手から逃げ切り、学園長を打ち倒して悪の芽を摘まなければならない」
リリィのこの衝撃の発言に、にわかに騒ぎ出す女生徒たち。
無理もないことだとリリィは考え、しばらく待機し、女生徒たちが静かになるのを待つと、再び口を動かした。
「そこで君達にはこのまま、体育館に隠れていてほしい。ただ隠れているというのは不安だと思うが、安心してくれ。私を初めとしたメンバーが、必ずこの体育館を守りきってみせる」
リリィの力強い言葉に、無言のまま聞き入る女生徒たち。
しばらくの静寂が続いたかと思うと、女生徒たちは一斉に口を開いた。
「わたくしたちも協力します! お姉様!」
「そうですわ! 隠れているだけなんて、できません!」
「わたくしたちにも、お姉様のお手伝いをさせてください!」
「お前達……」
リリィは多くの女生徒達の言葉を受け、言葉を失う。
そんなリリィの肩を、シルフィがとんとんと叩いた。
「リリィさん。あまりお一人で抱え込まないで下さい。私達だって魔術学園の生徒。できることはあるはずです」
「シルフィ……」
これまで守る対象としか考えていなかった生徒たちからの、思ってもいない答え。
リリィは微笑みながら言葉を紡ぐシルフィに、再び言葉を失った。
「お姉様。何も全員が前線に出ることはありません。回復や遠距離攻撃など、後方から出来ることはいくらでもあります。彼女達にはそれをお願いしてみてはいかがでしょうか」
アリスタシアは一歩リリィへと近づき、どうか女生徒達の心をくんでほしいとお願いする。
リリィはそんなアリスタシアの言葉を受けると、小さく息を落とし、再び女生徒たちに向かって向き直った。
「わかった! 君達には遠距離攻撃及び回復支援をお願いする! だが忘れないでくれ、これは君達の身を守る戦い。決して無理はしないように!」
「「「「はい! お姉様!」」」」
リリィからの言葉に対し、全員揃って返事を返す女生徒たち。
こうして体育館の防衛ラインに、リリィ達の他、女生徒達が加わることとなった。
「ふむ……しかし、女子がこうなると、恐らく男子も……」
「リリィさーん! 男子への説明はできたッスけど、体育館を一緒に守らせて欲しいって奴が後を絶たないッス! どうすればいいッスか!?」
「やはり……そうなるか。仕方ない。男子にも女子と共に、後方支援に当たってもらう!」
リリィは右手を横に振りぬきながら、ラルフに向かって返事を返す。
ラルフは「わ、わかったッス!」と敬礼を返し、男子にそれを伝えるため拡声器を手にとった。
そしてラルフへと指示を出したリリィに、アニキが話しかける。
「おう、馬鹿剣士。男子は前衛でもいいんじゃねーの? 血の気が余ってるバカが沢山いるぜ?」
アニキは頭の後ろで手を組みながら、リリィに向かって言葉を発する。
リリィは男子生徒たちの様子を見渡すと、返事を返した。
「いや、下手に前衛に置いて、教師にさらわれてしまっては意味がない。ここは後方支援に回ってもらったほうがいいだろう」
「……なるほどな。まあ確かに、あいつらじゃちっと心配か」
アニキは頭を搔きながら、男子達の様子を見つめる。
仮にも魔術学園で教鞭を振るっている教師たちが攻めてくるのだ。前衛に保護対象である生徒を置くのはあまりに危険すぎるだろう。
残念ながら今現在、教師を凌ぐ能力を持った生徒は数えるほどしかいない。そういう意味でも彼らを後方支援におくのは、至極当然のことだった。
「よし! では配置を考える! 男子生徒も女生徒も、ボードの前に集合してくれ!」
リリィは拡声器を手に持ち、集団学習用のボードの前に生徒たちを集める。
やがてリリィはボードに体育館の絵を描き、生徒たちそれぞれの配置を決定していった。