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第5話:ブックマーカーへの道

「まずはこの男を安全な場所で解凍しましょう。ブックマーカーの中央部にわたくしの職場がありますから、とりあえずそちらに」

「あ、ああ。わかった」


 デクスはヒールを鳴らしながら、ブックマーカーへと歩き出す。

 人一人を凍らせてまったく動じないデクスの姿を見たリリィは、ため息混じりに言葉を落とした。


「はあ。街に着いたら、本の一冊でものんびりと読みたいものだな」


 リリィは剣に突き刺さったアニキを担ぎ直し、早足でブックマーカーへと歩みを進める。

 強い日差しはジリジリとリリィに向かって降り注ぎ―――

 凍てついたアニキの体を優しく溶かし始めていた。





「うわぁ!? リリィさん、これ……!」

「ああ……まったく、見事としか言いようがない」


 騒動のあった街道から数キロほど離れた場所に立ち、目の前の巨大建造物を見上げる二人。

 その瞳の先には、絶対中立都市“ブックマーカー”が、堂々たるその姿をさらしていた。

 重厚なる街壁には、魔法による攻撃を防ぐ魔法陣が刻まれ、その防衛力を物語る。

 規則正しく並べられた家々はその屋根を連なり、街の中央部へと旅人を誘う。

 街の中には輝く川が流れ、いたるところにある噴水は潤いと彩りを連れてくる。

 そして街の中央部には、荘厳たるその姿を晒す星の書庫。

 一国の城よりも大きいとされるその図書館は、太陽の輝きを受け光り輝いていた。

 リリィとリースはしばしの間街門前に立ち、遠くに見える世界図書館を呆然と見つめている。

 美しい巨大図書館。目を奪われるなという方が、無理な話である。

 街門前には観光客が溢れ、遠目から見える図書館を、リリィたちと同じように見上げていた。

 デクスはそんな雰囲気の中、ヒールを鳴らして数歩前に歩みを進め、きびきびとした動作で、リリィ達へと向き直った。


「ようこそ、本と英知の街ブックマーカーへ。本来なら街をご案内するところですが……まず彼を解凍しなければそれもままなりませんわね」


 デクスは眼鏡を指先で押し上げながら、リリィの肩に担がれたアニキを見つめる。

 先ほどから、街門を通る人々の視線が痛かった。


「ああ。さっさと解凍しなければ、いつまでも私は街を歩けん」


 リリィはずっしりと重いアニキ(氷塊)を担ぎ、小さく溜息を落とす。

 むしろモンスターや山賊が溢れる山道を旅した方が正解だったのではないかと、リリィは今更ながらに後悔していた。


「では、さっそく私のオフィス……もとい、世界図書館に参りましょう。こちらの道が早いですわ」


 デクスはリリィたちの返事も聞かず、ヒールを鳴らして細い路地へと入っていく。

 リリィはしばらくその様子を見つめていたが、マントを引っ張られる感覚に意識を戻した。


「ねえねえリリィさん! さっそくあの図書館行くの!? 本いっぱい読めるかなぁ!?」


 リースはくいくいとリリィのマントを引っ張り、まるで玩具をちらつかされた子どものようにはしゃぐ。

 リリィは空いている方の手で、リースの頭をそっと撫でた。


「ああ。きっと、沢山読めるさ。私も本は久しぶりだからな、楽しみだ」


 リリィもまた、どんな本があるのか、どんな本を読もうか楽しみにしながら、リースを見つめる。

 リースはその視線に気付くと、口を左右に広げ、悪戯に笑った。


「えへへ。リリィさん、一緒にいっぱい読もーね!」


 まるで太陽のようにリースは笑い、ぴょんぴょんとジャンプする。

 そのジャンプに呼応して、リリィのマントが上下に揺れた。


「ふっ、ああ。では行くとしよう。置いてかれては何かと面倒だからな」

「うんっ!」


 リースは元気良く頷く、リリィの隣を歩く。

 リリィはフードの中で微笑みながら、ゆっくりとした動作で前を向いた。


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