表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/262

第56話:通学路にて

 波乱含みだった運動会もその後は順調に進行され、リリィ達一組は得点を伸ばしていった。

 そしていよいよ、最終結果発表の時を迎える。

 全員が集合したグラウンド。皆の前に設置された壇上に、学園長がゆっくりと上がっていく。

 学園長は持っていた紙を広げると、その内容を読み始めた。


「では、発表します。優勝は―――」

「ごくり。き、緊張すんねリリィっち」

「あ、ああ。そうだな」


 緊張した面持ちで学園長の発表を待つアスカと、同じく発表を待つリリィ。

 やがて学園長の口から、優勝クラスの名前が発せられた。


「優勝は、一組です! おめでとうございます!」

「!? うおー! やったぁ! あたしたちの優勝だぁ!」

「おお……よ、よかった……」


 アスカはリリィへと抱きつき、リリィはほっと胸を撫で下ろす。

 そして次の瞬間、今度は周囲の女生徒がリリィへと飛びついてきた。


「キャー! やりましたわ、お姉様!」

「これもお姉様のおかげです!」

「やったぁ!」

「ちょ、あたし! あたしの活躍は!?」


 次々とリリィに抱きついてくる女生徒たちと、不満そうに声を荒げるアスカ。

 リリィはそんな女生徒たち一人一人に対応しながらも、遠目にいるアリスタシアの様子を気にし、視線をそちらへと向けた。


「……!?」

「ああ……また目を逸らされてしまった」


 リリィはアリスタシアを見つめるが、アリスタシアは頬を紅潮させ、ぷいっと顔を背けてしまう。

 リリィがそんなアリスタシアの様子にへこんでいると、アスカがやけくそ気味に声を荒げた。


「ええい、もうこうなったらヤケだ! みんなでリリィっちを胴上げしようぜ!」


 ガッツポーズをとりながら声を荒げるアスカ。

 クラスメイト達は次々に、その言葉に賛同した。


「まあ! それは素敵ですわ!」

「やりましょうやりましょう!」

「えっ!? いや、いい! やらんでいい!」


 リリィの必死の抵抗も虚しく、やがてリリィは抱え上げられ、そのまま胴上げをされる。

 リリィは空中を跳ねながら、クラスメイト達に向かって叫んだ。


「恥ずかしいから降ろしてくれ! 頼む!」


 しかしそんなリリィの願いも虚しく、その後も胴上げは続く。

 やがて担任教師が注意に来るまで、胴上げはいつまでも続けられた。







 勝利によってその幕を閉じた運動会の翌日、リリィ達は朝の通学路を歩いていた。


「ふぅ……運動会はとりあえず終わったわけだが、ルルの手がかりは掴めていないな……」


 リリィは申し訳なさそうに俯き、小さく呟く。

 その言葉を聞いたシルフィは、微笑みながら言葉を発した。


「もしかしたらまだ、お話をちゃんと聞けていない生徒さんがいるかもしれませんし、何か思い出した方がいらっしゃるかもしれません。ここは粘り強く、聞き込みを続けていきましょう」

「ん……そうだなシルフィ。諦めず頑張ろう」


 リリィは強い意志をもったシルフィの瞳に助けられ、自身も強く頷きながら返事を返す。

 そんな一行の進行方向に、アリスタシアが街路樹に背を預けて立っているのが見えた。

 アリスタシアは一行の姿を見ると、少し赤く頬を染めながらとてとてと近づいてくる。


「あっ、あのっ、お、おはようございます」


 アリスタシアは両手を合わせ、丁寧に頭を下げる。

 リリィは思わず同じ動作で、同じように頭を下げた。


「あ、ああ、こちらこそ。おはようございます?」


 リリィは唐突なアリスタシアの態度に完全に面食らっており、うまく対応することができない。

 その後アリスタシアはその場で沈黙してしまい、気まずい空気がその場を支配した。


「…………」

「…………」


 互いの間に流れる、沈黙の空気。

 そんな空気を感じたアスカは、頭に電球を灯らせ、リリィに向かって言葉を紡いだ。


「ね、リリィっち、ちょっとアリスタシアちゃんに一歩近づいてみてよ」

「えっ!? あ、ああ。わかった」


 リリィは頭が混乱しているのか、意外と素直にアスカの言うことを聞き、一歩アリスタシアに向かって近づいてみる。

 するとアリスタシアの肩はぴくんと震え、その頬はさらに赤く紅潮した。


「ふふっ。じゃあリリィっち、今度は一歩下がって」

「??? 一体どんな意味があるんだ? まあいいが……」


 リリィはアスカの言葉を不審に思いながらも、今度は一歩後ずさる。

 するとアリスタシアはしょんぼりとした表情になり、紅潮していた頬の赤みも消えた。


「……あーもう! アリスタシアちゃん可愛い! そんなにリリィっちラブなんだねー♪」

「ひゃう!? な、なんですのいきなり! だ、だだ、誰がラブだなんて!」


 アスカは突然アリスタシアに抱きつき、「わかってるわかってる!」と頬ずりをする。

 アリスタシアはアスカに抱きつかれたまま、顔を真っ赤にしてアスカの言葉を否定していた。


「アスカ! 急に抱きつくな! アリスタシアが困っているだろう!」

「ええー? ちぇー」


 アスカはリリィの言葉を受け、ぱっとその手を離す。

 アリスタシアはようやくアスカの手から開放されると、乱れた呼吸を整えた。


「はあっはあっ……い、一体何なんですの?」


 アリスタシアは乱れてしまった髪を手で整えながら、言葉を発する。

 リリィは軽く頭を下げながら、返事を返した。


「すまない、アリスタシア。アスカはこういう奴なんだ……」

「あっ……は、はい。大丈夫ですわ。ありがとうございます」


 アリスタシアはリリィの言葉を受けると、再び深々と頭を下げる。

 少し他人行儀なその仕草に寂しさを感じたリリィは、その場を立ち去ろうと言葉を続けた。


「ではな、アリスタシア。また授業で会おう」

「!? あ、あの、リリィさん!」

「ん……?」


 突然呼び止められたリリィは、頭に疑問符を浮かべながら振り返る。

 アリスタシアは自身の制服をぎゅっと握り、やがて顔を上げて言葉を紡いだ。


「先日は危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございました。それと……これまで冷たく当たってしまい、ごめんなさい」

「…………」


 リリィはアリスタシアの言葉を受けると、手甲を外しながら、アリスタシアへと近づく。

 そしてアリスタシアの頭を、そっと撫でた。


「あっ……」

「いいんだ、アリスタシア。元々私は“お姉様”なんて柄ではないし、君が間違っていたというわけではない。気にするな」


 リリィは微笑みながら、アリスタシアの頭を撫でつづける。

 アリスタシアは顔を真っ赤にしながらも、さらに言葉を続けた。


「だっ、だめ、ですわ。わたくしは貴族。恩に対してはそれなりの対応をしなければなりません。ですから……」

「???」


 アリスタシアはやんわりとした動作でリリィの手をどけると、真っ直ぐにリリィを見つめた。


「ですから今日から貴方を、お姉様として認めます。わたくしのことはどうか“アリス”とお呼びください」


 アリスタシアは真剣な表情で、リリィに対して言葉を紡ぐ。

 その力の篭った瞳に、リリィは両目を見開いて驚きながらも、返事を返した。


「あ、ああ。わかっ……た。アリス」

「ふぇっ!? あ、は、はい。お姉……様」


 いつのまにか互いの頬は赤く染まり、なんとも言えない空気が周囲を包む。

 リリィはどこか恥ずかしそうに頬を搔き、アリスタシアは顔を真っ赤にして俯いていた。


「もー! 何二人でラブラブしてんのさ! リリィっち、早くきょーしつ行くよ!」

「うわっ!? アスカ! いきなり飛びついてくるな!」


 笑顔でリリィへと飛びついてきたアスカに対し、声を荒げるリリィ。

 そんな一行に、アリスタシアは再び声をかけた。


「あっあのっ、シルフィさん! わたくし、ルル君の事で知っていることがありますの! 放課後に皆さんで、生徒会室に来ていただけない!?」

「えっ!? ほ、本当ですかアリスタシアさん!」


 シルフィはアリスタシアの言葉を受けると、アリスタシアに近づきながら返事を返す。

 アリスタシアは「ええ、嘘はつきませんわ」と頷いて見せた。


「あ、ありがとうございます! リリィさんアスカさん、放課後が待ち遠しいですね!」


 シルフィは満面の笑顔で、リリィとアスカに言葉を発する。

 その笑顔を見たリリィは同じような笑顔で、返事を返した。


「ああ、そうだな。これで少しでも事態が進展すればいいのだが……」


 リリィは少しだけ難しい表情になり、朝の空を見上げる。

 シルフィはリリィの視線を追いかけ、同じように空を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ