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第54話:旗取り合戦

「さあて、次はチーム対抗の旗取り合戦だね! みんなでがんばろー♪」


 おーっと右拳を上げ、アスカは楽しそうに言葉を発した。


「ああ……そうだな。頑張ろう。まずは入場口に集合、だな」

「だね! おーいみんな! リリィっちのとこに集合ね!」

「えっ!? おいアスカ! 何勝手に人を待ち合わせ場所にしてるんだ!」


 突然素っ頓狂なことを言い出したアスカに対し、声を荒げるリリィ。

 しかしアスカは欠片も反省することなく、言葉を続けた。


「だってリリィっちデカイんだもん。頭一つ抜き出てるじゃん」

「ぐっ……人が気にしてた事を堂々と……」

「ふふっ、まあまあ。入場口に向かいましょう? 旗取り合戦はチーム競技ですから、チームワークを大切にしないと」


 二人の問答に小さく笑うシルフィに、リリィは息を落としながら「ふむ……わかったよ」と、素直に返事を返して入場口へと歩いていった。


「たしか旗取り合戦は4チーム同時対戦で、自分の旗を最後まで守り、他の陣営の旗をより多く奪ったチームの勝ちだったな」

「ええ、その通りです。攻撃にどれくらいの人を裂くか、守りにどのくらいの人を置くかで勝敗が決まると言っても過言ではありません」


 ルールの確認をするリリィに対し、言葉を返すシルフィ。リリィは「ふむ……」と唸りながら何かを考え、やがてクラスメイト全体へ言葉をぶつけた。


「みんな! 聞いてくれ! 守りは私一人でいい。みんなは他の陣営の旗取りに集中してくれ!」

「ええっ!? そんな、お姉様!」

「いくらなんでも無茶ですわ!」

「そーだよリリィっち! 一人で守りきるとか格好良すぎじゃん! あたしに譲って!」


 一人おかしな発言が混ざっているが、クラスメイト達は口々に反対意見を口にする。

 その後リリィは深々と頭を下げ、言葉を続けた。


「頼む……みんな。私を信じてくれ」

「「「「…………」」」」


 頭を下げるリリィを見て、クラスメイト達は言葉を失う。

 そんなクラスメイト達に、シルフィは両手をメガホンのように使いながら、大きな声を発した。


「みなさん、リリィさんを信じましょう! ブレイク先生を倒すほどの実力者であるリリィさんなら、きっと大丈夫です!」


 シルフィの言葉を受けたクラスメイト達は、最初不安そうな表情をしていたものの、リリィの実力を思い出し、次第に明るい表情へと変わっていった。


「シルフィさん……」

「そう、ですわね。何と言っても私達のお姉様ですもの」

「お任せしますわ! お姉様!」

「頑張ってください!」

「みんな……ありがとう」


 クラスメイト達からの声援を受け、リリィは微笑みながら頷く。

 しかしリリィ一人の守備に合意しているクラスの雰囲気に納得できないアリスタシアは、声を荒げた。


「ちょっと待って下さい! わたくしは反対ですわ! たった一人に旗を任せるなんて!」

「アリスタシア……」


 眉間に皺を寄せながら、アリスタシアはぶんぶんと顔を横に振る。

 リリィはアリスタシアの下へと近づいていくと、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「もし、私が旗を取られるような事があれば……私はこの学園を去ろう。それならば満足だろう?」

「なっ……わ、わたくしは別にそこまでしろなんて言ってません! ただ―――」

「ではこれより、旗取り合戦を開始します。各クラスは自身の旗の下へ集合してください」


 二人の会話をつんざく形で、放送係の声がグラウンドに響く。

 誰が考えても、話し合いの時間はなさそうだった。


「!? ああもう、まだ話し合いが終わっていませんのに!」


 まるで噛み付くように、放送係の声に言葉をぶつけるアリスタシア。

リリィは手甲を外した手で、ぽんっとアリスタシアの肩に手を置き、真剣な表情でその顔を見つめた。


「時間切れだ、アリスタシア。文句なら競技を終わった後でいくらでも聞こう……だが今は、私に任せてくれ」

「なっ……何を言ってますの!? それじゃ意味が―――」

「一組。早急に旗の下へ集合してください。遅れています」

「―――っああもう! わかりましたわ! どうなっても知りませんわよ!」


 アリスタシアは乱暴に憤りを表し、言葉をぶつける。リリィはその言葉を受けると、微笑みながら「ああ、承知した」と返事を返した。


「でも、リリィさん……本当に大丈夫ですか? この学園の旗取りは、正直言ってルールがほぼありませんから、他のクラスがどんな手を使って旗を取りに来るかわかりませんよ? ましてリリィさんは今や有名人ですから、手加減もされないはずです」


 シルフィは真剣な表情でリリィを見つめ、言葉を紡ぐ。リリィはそんなシルフィの言葉を受けると、微笑みながら頷いた。


「大丈夫。それくらい望むところだ」

「そーだよシルフィっち! リリィっちなら大丈夫だって!」


 シルフィは不安そうな表情で、アスカとリリィの顔を交互に見つめる。

 やがてシルフィは納得した様子で、こくりと頷いた。


「そう……ですか。わかりました。私はもう何も言いません。頑張ってください、リリィさん!」

「ああ!」


 シルフィの言葉に頷き、腰元の剣の位置を直すリリィ。

 やがてリリィ達のクラスが旗の下に集合すると、放送係がすぐに声を張り上げた。


「では、これより旗取り合戦を開始します! 用意……スタート!」

「じゃあ私達は旗取りに行って来るかんね! リリィっち後は任せた!」


 アスカはしゅばっと片手を上げると、そのまま向かい側に位置したチームへとクラス全員を引き連れていく。

 リリィは「ああ! 任せておけ!」と、右手をメガホンのように使い、アスカ達を見送った。


「おおーっと一組! なんと守りが一人だぁ! これは強気の現れかー!?」


 放送部の生徒は一組の斬新過ぎる戦略に驚きながら、拡声器越しに声を荒げる。

 守りが一人だという声を聞いた他のクラスは全て、狙いを一組に定めた。


「あのクラスが狙い目よ! 遠距離攻撃隊、前へ!」

「私達も行くわよ! 魔術部隊、前へ! 一組の守りを倒して!」

「私達も!」

「!? そんな……私達のクラス以外全部、リリィさんを狙って!?」


 シルフィはすぐに状況を理解し、声を荒げる。

 やがてシルフィが瞬きした次の瞬間、リリィに向かって光・闇・炎の矢がそれぞれ雨のように降り注いだ。


「ふむ……その歳で攻撃魔術とは、見事だ。しかし―――」


 リリィに向かって降り注ぐ、各属性の雨。

 本来なら最低、九人以上の魔術師がいなければ防御しきれない攻撃だった。

 だがリリィの目に恐怖はなく、決意だけがそこに光っていた。


「…………喝っ!」

「「「!?」」」


 リリィは一度地面を片足で強く踏み鳴らすと、全身から衝撃波を発生させる。

 その衝撃波を受けた矢の雨はいずこかへと吹き飛ばされ、リリィは無傷のまま、少しズレたメガネを直した。


「しかし、威力不足だ。その程度では私は倒せん」


 リリィの小さな呟きが、静まり返ったグラウンド全体に響く。

 次の瞬間、クラスメイト達から黄色い声援が飛んだ。


「キャー! お姉様ー!」

「素敵すぎますー!」

「さすがお姉様ですわ!」


 クラスメイト達は口々にリリィを賛美し、言葉を届ける。

 リリィは少し恥ずかしそうに頬を搔き、小さく息を落とした。


「よっしゃあ! あたしだってやっちゃうよー! そぉーれ!」

「あっ!?」


 ぽかんとしている他クラス守備陣営の隙を突き、アスカは一気に旗の下まで駆け抜けると、その旗を引き抜く。

 そしてそのまま旗を、天に掲げた。


「一本目、取ったどおおおお!」

「あ、アスカさんいつのまに!? 凄いです!」


 シルフィはアスカの雄たけびに気付き、ぱちぱちと拍手を送る。

 しかしクラスメイト達は未だリリィの方を向いており、誰もアスカの活躍に気付いていなかった。


「って誰も見て無いんかーい! ちくしょう! もういいよ! あたし一人でも旗全部集めてやるぅ!」

「あ、アスカさん。私もいますから……」


 いじけながらバンバンと地面を叩くアスカの背中を摩りながら、言葉を紡ぐシルフィ。

 残った二チームは近距離戦に切り替え、リリィに向かって突撃してきた。


「相手はたった一人よ! とつげきー!」

「おー!」


 それぞれに武器を持った女生徒達が、リリィを挟み込む形で突進してくる。

 迫り来る女生徒達を目にするとリリィは、即座に自身の陣営の旗台を掴み、空に放り投げた。


「なっ……何を!?」


 空中に舞う旗と旗台を見た他クラスの女生徒は、ぽかんとそれを見上げる。次の瞬間リリィは抜刀し、その場で勢い良く回転しながら、地面へと斬撃を送った。


「せああああああああああああああああああああ!」

「なっ……!?」


 リリィの斬撃を受けた地面は隆起し、まるで壁のようにせり上がる。もし旗と旗台を空中に放り投げていなければ、リリィの剣撃のまきぞいを食らい、間違いなく破損してしまっていただろう。

 ふぅっと息を吐くと、リリィはやがて落ちてきた旗と旗台を受け止め、そっと地面に戻した。


「な、なんとぉ! 一組のリリィさん、剣を使って土の壁を作りました! もうわけがわかりません!」


 放送係は目の前の状況が理解できず、声を荒げる。しかし次の瞬間、今度は甲高い声が、そんな放送係の声を切り裂いた。


「おっしゃー! 旗全部取ったどおおおおおお!」


 アスカは三本の旗を天に掲げ、声を荒げる。

 その声に反応した攻撃陣は、一斉に自身の陣営を振り返った。


「あっ!? い、いつのまに!? 守りはどうしてたんですの!?」

「そ、それが、あまりにも速すぎて……気付いたら取られてました」

「そ、そん、な……」


 他クラスのトップらしき女子は、ぺたんとその場に尻餅を着く。

 その瞬間放送係は興奮した様子で、声を荒げた。


「し、勝者、一組! 圧倒的! 圧倒的勝利です!」

「キャー! やったあ!」

「お姉様、最高ですわ!」


 放送係の声を聞くと、クラスメイト達はリリィへと駆け寄り、キャッキャと騒ぐ。

 もみくちゃにされながら、リリィはアスカ達を探した。


「アスカ! やったな! ……アスカ?」


 リリィの視界に入ったアスカは、地面に“の”の字を書きながら、口を3の形にし、明らかにいじけていた。


「どーせ、どーせあたしはおまけですよぉ。なんだい、あたしだって活躍したのにさぁ」

「ま、まあまあアスカさん。私はちゃんと見てましたから……」


 地面に“の”の字を書いていじけるアスカと、そんなアスカの頭を撫でるシルフィ。

 遠目からその姿を見ると、リリィは思わず吹き出した。


「ふふっ……ああ、シルフィの言う通りだ。私達はお前の活躍を知ってるぞ、アスカ」

「うーっ! ちくしょう! 目立ちたいよー!」


 リリィの言葉は当然アスカへと届かず、アスカは雄たけびを青い青い空へと響かせる。

 リリィはクラスメイトにもみくちゃにされながら同じように空を見上げ、旗取り合戦の勝利を噛み締めていた。


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