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第51話:同じ才を持つ少年

「そういえば午後は、全クラス合同の能力演習ッスね。二人とも準備はいいッスか?」

「能力演習ぅ? なんだそりゃ」


 アニキはトレーに乗せて運んできた大量の料理を平らげ、楊枝を使いながらラルフへと質問する。

 ラルフはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに胸を張り、言葉を続けた。


「説明するッス! 合同能力演習とは、その名の通り各生徒の能力を演習によって把握する授業で、要するに生徒による能力ショーみたいなもんッス。ただし成績にも反映されるッスから、油断は禁物ッスよ!」

「へぁー。そんな授業があるんだねぇ」


 リースは先ほど創造した飴玉をコロコロと口の中で転がしながら、ラルフの言葉を受ける。

 アニキはパシッと拳と手のひらを合わせると、ラルフへと返事を返した。


「へっ。つまり俺の炎撃を披露すりゃいーんだろ? 簡単じゃねえか。さて、何をぶっ壊すかな」

「いきなり物騒な事言わないでアニキさん! 演習なんだから素振りでいいんだよ!?」


 リースは唐突に破壊宣言をするアニキに対してツッコミを入れ、アニキは「なんでぇつまんね」と耳をほじる。


「まあ確かに、そこまで肩肘張る必要はないッスよ。いつもの実力をそのまま出すのが一番ッスから」

「だよなぁ! ま、なんとかならぁな! あっはっはっは!」

「あはははは……い、痛いッス。アニキさん」


 ラルフはバンバンと背中をアニキに叩かれ、げほげほと咳き込んだ。


「演習かぁ……ちゃんと創造できるといいなぁ」


 リースは頭の後ろで手を組み、空を見上げながら、一体何を造ろうかと考える。

 空はどこまでも澄み渡り、そんなリースを微笑ましく見守っているように思えた。







「ではこれから、合同演習授業を始める! 学籍番号の若い生徒から順番に、舞台の上でその能力を披露せよ!」


 合同演習の担当らしき男性教師は声を張り、グラウンドに集まった生徒達へと指示を出す。

 その言葉を受けた生徒達は順番に壇上に上がり、それぞれの能力を披露し始めた。

 彼らの能力は念力や風術など多岐にわたり、演習のために必要な道具などは全て事前に準備されていたものを使用していた。


「おおー。みんな凄いねぇ。色んな能力があるんだなぁ」


 リースはクラスメイト達の特殊能力を見るたびに表情をコロコロと変え、おおーっと律儀に拍手を繰り返す一方、アニキはあまり興味が無いのか、腕を組みながら思い切り爆睡していた。

 その時舞台上に、他の学生より小さく、リースと同じくらいの歳の少年が上がる。

 その髪は金色で短く横に流され、黄色の瞳が印象的な少年だ。少年は壇上へと、余裕のある歩幅でゆっくりと上がった。


「次! 学籍番号051284番、レン=ベレーム=ガルスフィア! 演習開始せよ!」


 教師からの声を受け、無言で頷くレンと呼ばれた少年。

 レンが片手を前に掲げると、手のひらからバチバチと雷が生成される。

 その雷は最初レンの手のひらで踊っていたが、次第に地面へと走り、雷の走った地面から一枚のレンガ状の壁が生えてきた。

 その見事な創術に、会場中から拍手が送られる。

 雨のような拍手にレンはふんと学生達に一瞥をくれると、そのまま壇上を降りていった。


「おおーっ! 凄い凄い! ラルフさん! 今日のお昼に言ってた僕と同じ歳で創術を操る子ってあの子だよね!? 本当に凄い創術だよ!」


 リースは鼻息荒く興奮した様子で、ラルフの肩を掴んで前後に揺さぶった。


「そ、そうッスよ。レンは創術の腕なら男子校舎で一番と言ってもいいッス。同時に雷の能力者でもあるので、自身で作り出した雷を媒体に創造するのが最大の特徴ッスね」

「へあー! 凄い凄い! 雷も操れるなんて凄いよ!」


 リースはキラキラとした瞳で、ラルフとレンを交互に見つめる。

 ラルフはポリポリと頬を搔きながら、言い難そうに口を開いた。


「あー、リース。感心してる場合じゃ無いッスよ。もうすぐリースの番ッス」

「ええっ!? もう!? え、えっと、何造ろうかな。えっと……」

「次! 学籍番号051286番、リース=シェルベルム! 演習開始せよ!」


 どうしたものかと悩んでいるリースに対し、無情にも演習開始の声が響く。

 リースは「は、はい!」と返事を返し、慌てて壇上に上がった。


「ええと……そうだ! 僕も壁を創ってみよう!」


 リースはふんすと鼻息荒く両手を握り締め、鞄の中をごそごそとまさぐると、薬品の入った瓶を取り出し、えいやっと自身の前方高めに、その瓶を放り投げた。


「はぁぁぁあ……」


 リースは両目を閉じて手を広げ、精神を集中させる。

 空中に投げ出された瓶はやがて地面に落ちて砕け、瓶の中に入っていた液状の薬品が、自動的に地面へと練成陣を描き出した。

 その練成陣は緑色に輝き、やがて風が、リースを包み込んだ。


「……っ!」


 リースの足に風が襲い掛かり、その膝を切り裂く。

 しかしリースは痛みに構うことなく、叫んだ。


「はぁぁぁ! 壁練成:シェルベルム!」


 リースが練成陣に手を掲げると、練成陣からレンガ状の壁が生えてくる。

 それを見たリースはふうっと息を落とし、その瞬間会場から歓声が上がった。


「いいぞーちびっ子!」

「リース! やったな!」

「凄いッス! 驚いたッスよー!」

「い、いやぁ。えへへ……」


 リースは歓声に片手を上げて答えながら、ぺこぺこと頭を下げて舞台を降りる。

 やがてラルフの隣の席に戻ってくると、もう一度息を落とした。


「ふやぁ。緊張したぁ。成功してよかったよー」


 リースはぐでーっと椅子に座り、疲れた様子で呼吸を荒げる。

 その様子を見たアニキは席を立ち、拳を打ち鳴らした。


「おっしゃあ! 次は俺の番だな!」


 アニキはリースの隣の席からすたすたと移動し、舞台に向かって歩いていく。

 アニキが立ち去ったその時、ぐでーっとしたリースを、小さな影が光から遮った。


「君も創術を使うんですね。驚きました」

「ふぇ!? れ、レン君!」


 レンは近距離でリースを見つめながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 突然現れたレンに驚き、リースはシャキッと体を起こした。

 レンは自然な仕草でリースの隣に座り、言葉を続ける。


「レン=ベレーム=ガルスフィアです。よろしく」

「あ、ひゃ、はい! よろしくお願いします!」


 右手を差し出してきたレンに対し、慌ててシャツで右手を拭き、握手するリース。

 レンは緊張した様子のリースにくすっと笑うと、口を開いた。


「ふふっ。そう身構えないでください。僕のことはレンで構いませんよ」

「あ、う、うん! 僕もその、リースで大丈夫だよ!」

「では、リース。君の創術は誰に教わったものなんですか? ちなみに僕は父から教わりました」


 レンは少し誇らしげに胸を張り、リースへと質問した。


「へえー! そうなんだ! 僕はね、お母さんから教えてもらったんだ!」


 リースはにぱーっと笑いながら、楽しそうに言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたレンは、同じように笑いながら返事を返した。


「ははは。なるほど。丁度僕と反対ですね」

「ねー」


 リースとレンは楽しそうに談笑し、ラルフは微笑ましくその様子を見つめる。

 しかしそんな二人の会話を、男の雄たけびが引き裂いた。


「はっはっは! うおりゃああああああああああああ!」

「おわっ!? ちょ、ちょっと待て! やりすぎだ! ぎゃあああああああああ!」

「ああ……アニキさん。やっちゃったよ……」


 どうやら演習用の岩盤を砕こうとしたアニキは、力余って舞台ごとその看板を粉砕してしまったようだ。

 巨大な舞台は見る影もなく焼け落ち、その様子にレンはぽかんと口を開けた。


「なっ……何をしてるんです彼は!? というか、学生の域を超えた威力ですよ、あれは!」


 レンは動揺した様子で、リースに向かって言葉をぶつける。リースはポリポリと頬をかきながら、レンへと返事を返した。


「んーまあ、アニキさんってああいう人だから」

「どういう人ですか!? あの様子からは凶暴さしかわかりませんよ!」


 ぽややんと言葉を紡ぐリースに対し、勢い良くツッコミを入れるレン。

 そんなレンに対し、沈黙を守っていたラルフが口を開いた。


「レン君……あれが、アニキさんなんスよ」

「いや、何も情報増えてないですから! 何も無いなら会話に入ってこないで下さい!」


 レンはリースとほぼ同じ言葉をぶつけてきたラルフに対して、噛み付くように言葉を返す。

 リースはポリポリと頬をかき、レンへと言葉を続けた。


「んー、まあとにかく、アニキさんは悪い人じゃないよ? ただ時々やりすぎちゃうだけで」

「舞台を破壊してるだけで充分凶悪でしょうに……も、戻ってくる前に、僕は失礼します!」

「あっ、レン!?」


 アニキに恐怖を覚えたレンは、アニキが席に戻ってくる前に、そそくさと自分の席に戻っていった。

 リースはレンを引きとめようと右手を伸ばすが、その手がレンを掴むことはなかった。


「あー……行っちゃった。もっと話したかったなぁ」


 リースは残念そうに呟き、頭の後ろで手を組む。そんなリースにラルフは、まあまあと言葉を紡いだ。


「また機会はあるッスよ、リース。そうしょげることはないッス」

「んー……そだね。また話せるといいなぁ」


 リースは頭の後ろで手を組んだまま、ラルフへと返事を返す。

 そして談笑するリース達の元に、アニキが大笑いをしながら帰ってきた。


「あっはっは! ちっとやりすぎちまったぜ!」


 懸命な消火活動をする教職員達をバックに、アニキは豪快に笑ってみせた。


「あ、あははは……アニキさんは本当、どこでも変わらないよね」

「??? 何言ってんだリース。そんなもん当たり前だろ?」

「あ、あははは……さすがッス」


 あっけらかんとした様子のアニキに対し、乾いた笑いを送るラルフ。

 こうして合同演習授業は波乱のまま、その幕を急に閉じることとなった。






 初日の放課後、リリィとアスカの二人は、委員会活動があるというシルフィと別れ、二人で初日の帰り道を歩いていた。


「今日の放課後、正門前の公園でリースたちと会う予定だったな……急がなくては」

「だね! レッツゴー!」


 アスカはリリィの言葉を聞くと、えいやっと右拳を前に突き出す。

 リリィはずっとリースが心配で、放課後に入ってからずっと落ち着きが無かった。

 アスカはそんなリリィをずっと宥めていたが、ようやく約束の時間となり、二人は待ち合わせ場所へと移動していた。

 リリィは無駄に元気なアスカにツッコミを入れながら、女子校舎の校門から出る。

 しかしその瞬間、リリィは小さな影とぶつかった。


「あっ!? す、すまない。気付かなかった……」

「いてて……」


 リリィとぶつかったその金髪の少年、レンは、ぽかんと口を開きながらリリィを見上げ、その頬をみるみる紅潮させていく。

 レンにはまるで花のような甘い香りが届き、その視線の先には、美しい顔立ちのリリィが映る。

 レンはそんなリリィを、ずっと見つめてしまっていた。

 その様子にリリィは頭に疑問符を浮かべ、言葉を続ける。


「あの……大丈夫か? 本当にすまない」

「へぁっ!? だ、だだ、大丈夫です! こちらこそすみませんでした!」


 レンは紅潮した顔で勢い良く頭を下げ、突然その場を立ち去る。

 リリィは「あっ!?」と声を出して右手を伸ばすが、レンはすたすたと歩いていってしまった。


「行ってしまった……か。あの少年、大丈夫だろうか」


 様子がおかしかったレンの様子を心配し、走り去っていった方角を見つめるリリィ。

 アスカはニヤニヤしながら、そんなリリィへと言葉を紡いだ。


「ねーねー、今の子、リリィっちに一目ぼれしちゃったんでない? なーんか顔赤かったしさぁ」


 アスカはうりうりと肘でリリィをつつきながら、ニヤニヤ顔を続ける。

 どこか楽しそうなアスカに、リリィは紅潮した顔で答えた。


「なっ!? 何を言う! そんなわけないだろう!」

「あははは! じょーだんだよ♪ じょーだん♪」


 アスカは頭の後ろで手を組み、すたすたと歩みを進める。

 リリィはまったく……と呟きながら、そんなアスカの後ろを歩いた。

 やがてアスカは、公園の中央に立っていたリースとアニキを発見する。


「おっ♪ リースちゃんとアニキっちじゃん! おーい♪」

「あっ! リリィさんにアスカさん! こんにちは!」


 公園の中心に立っていたリースはアスカと同じようにぶんぶんと両手を振り、リリィ達の元へと駆け寄ってくる。

 アニキは相変わらず欠伸をしながら、駆け出したリースの後ろをすたすたと歩いていた。


「リース! ああ、よかった。無事だったんだな……」

「わぷっ!? り、リリィさん。大げさだよぉ……」


 リリィは元気な様子のリースを強く抱きしめ、微笑みながらリースの頭をゆっくりと撫でる。

 リースは制服に包まれた胸の谷間に顔を埋め、花の香りに包まれながら、苦しそうに呻いた。


「リリィっちリリィっち。それ息できないから。せっかく元気だったのに殺しちゃうから」


 アスカはぱたぱたと手を前後に振り、リリィへと言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたリリィは「あっ!? す、すまない」と、リースの体を開放した。


「ふう……とりあえず初日が終わったけど、リリィさん達はどうだった? 僕達は早速お友達が沢山できてね、あと僕と同じくらいの歳で創術を使う子とも会えたんだ! 凄いでしょ!」

「お、落ち着けリース。ひとつひとつ話してくれ」


 興奮した様子のリースに対し、どうどうとその肩を掴むリリィ。

 リースはえへへと笑いながら、そんなリリィに「ごめんね」と謝罪した。


「まあ要するに、こっちは学園生活に馴染めそうってこった。そっちは大丈夫なのかよ?」


 アニキは退屈そうに耳をほじりながらも、簡潔に男子組の状況を説明する。

 アスカはぶんぶんと両手を上下に振り、興奮した様子でアニキへと返事を返した。


「それがねー。聞いてよアニキっち! リリィっちってば初日からみんなにお姉様とか呼ばれちゃってさ、もう馴染むどころの話じゃないんだよ!」

「なるほど。全然わかんねぇな」


 アニキは腕を組みながらアスカの言葉に耳を傾け、頷きながら言葉を返す。

 リリィは片手で頭を抱え、そんなアニキへと言葉を続けた。


「すまない。一から説明する。実は―――」


 こうしてリリィ達は互いに報告を行い、お互いの状況を細かく確認し合う。

 その報告会は、夜の帳が下り始め、街が茜色に染まるまで続けられた。







「はぁ……さっきのあの人、綺麗だったな……。姉さんがいたら、あんな感じなのだろうか」


 レンはぼーっとしながら、先ほどのリリィの顔と香りを思い出し、頬を赤く染める。

 やがてそんな自分の状況に気付くと、ぶんぶんと顔を横に振った。


「い、いけない。何をぼーっとしてるんだ僕は。そんなことより、創術の本を買いにいかなくては……」


 キリッとした顔に戻ると、レンは足早に歩道を歩いていく。

 しかしレンが公園横の道に差し掛かったその時、高い声が耳に響いてきた。


『おっ♪ リースちゃんとアニキっちじゃん! おーい♪』

「??? あの人は、あの綺麗な人と一緒にいた……あっ!?」


 レンは視界の中にリリィを見つけ、思わず物陰に隠れる。

 そんな自身の状況を省みると、レンは再び言葉を紡いだ。


「な、何をしてるんだ僕は。隠れることなんて無いじゃないか」


 レンは思わず隠れてリリィを見つめている自身を戒め、頭を横に振る。

 しかしその目線は結局リリィから離れず、リリィの動き全てを目で追っていた。


「綺麗だな……制服を着てるってことは同じ学園の生徒なんだろうけど……」


 レンは遠目に見えるリリィの横顔に見惚れ、ぼーっとしたままその姿を追う。

 しかし次の瞬間、衝撃的な映像がレンの瞳へと飛び込んできた。


『リース! ああ、よかった。無事だったんだな……』

「!?」


 レンの瞳に飛び込んできたのは、リリィに強く抱きしめられ、頭を撫でられているリースの姿。

 自分でもよくわからないまま、レンは強く歯を噛み締めていた。


「あれは……リー……ス!? そんな、そんな事って……」


 レンは見てはいけない物を見てしまったように、数歩後ずさる。

 その瞳にはリースを抱きしめるリリィの姿が、きっちりと焼きついていた。


「リース……!」


 レンはいつのまにか恨みを込めた目で、遠目のリースを射抜く。

 リースはそんなレンの視線に気付かず、リリィの腕の中でばたばたと暴れていた―――


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