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第50話:男子サイドの学園生活

 一方、時を遡って入学初日の休み時間。男子校舎では複数のクラスメイトに囲まれるリースの姿があった。


「あ、あの、そんないっぺんに言われても、僕答えられないよ」


 リースはわたわたと両手を動かし、質問攻めにしてくるクラスメイト達へと言葉を返す。

 しかし中途半端な時期にやってきた入学者への好奇心は強く、クラスメイト達の質問は止まらない。


「出身はどこの国なんだ?」

「創術を勉強中って言ってたけど、いまどんくらいのレベル?」

「得意な創術はあるん?」

「あわわわ。えっと、えっと……」


 リースはあわあわ言いながらどう答えたものかと思考を巡らせ、隣の席のアニキへと視線を移したが、アニキは机に突っ伏して爆睡しており、起きる気配は全く無かった。

 その時リースの前の席の青年が、眉間に皺を寄せてクラスメイト達とリースの会話に割り込んだ。


「お前らいい加減にするッスよ! リース君困ってるじゃないッスか!」

「な、なんだよラルフ。邪魔すんなよな」


 混乱した様子を見かねたのか、ラルフと呼ばれた青年が集まったクラスメイトとリースの間に割って入り、リースをガードした。


「リース君はまだ入学したばっかりなんスよ? 今あんまり印象を悪くすると、後で仲良くなれないんじゃないッスか?」


 ラルフの言葉を受け、クラスメイト達は数歩後ずさる。


「う……それは、まあ……」

「じゃあラルフ! 俺らの代わりにさっきの質問、リース君に聞いとけよ!」

「リース君! またな!」

「あ、う、うん! またね!」


 ぱたぱたと手を振りながら席を離れていくクラスメイト達一人一人へ、律儀に手を振るリース。

 立ち去っていくクラスメイト達を一瞥すると、ラルフはリースへと向き直った。


「悪かったッスね。驚かせて。君みたいな子どもがこの学年に来るのは珍しいんで、みんな興味があったんだと思うッス」

「あ、いえ、ありがとうございました。ラルフさん」


 リースはラルフへと、深々と頭を下げてお礼の言葉をのべる。

 ラルフは歳不相応に丁寧なリースの姿に驚きながらも、返事を返した。


「いやッスね~。自分のことはラルフでいいッスよ。同じクラスの仲間じゃないッスか。それに敬語も不要ッス」


 あっはっはと笑いながら、ぱたぱたと手を前後に振るラルフ。そんなラルフにリースは、ほっとした様子で返事を返した。


「あ、うん! ありがとうラルフさん! ……あ」

「あっはっはっは! 早速さん付けッスよ!」


 ラルフは大声で笑うと、にいっと歯を見せてリースへと笑顔を見せる。

 そんなラルフの様子にリースもつられて、歯を見せて笑った。


「ごめんね、なんだかさん付けがクセになってて……あ、僕のことはリースって呼び捨てでいいから!」


 リースは頭の後ろで手を組んで笑いながら言葉を紡ぎ、ラルフは同じように笑いながら「わかったッス!」と返事を返した。

 その後ラルフは人差し指をぴんと立て、言葉を続ける。


「了解ッス。じゃあリース。さっきの質問の続き、いいッスか?」

「あ、ちょっと待って! アニキさんには聞かなくていいの?」

「アニキサン?」

「うん。隣で寝てる人」


 リースはあっけらかんとした表情でアニキの方を指差すが、その瞬間ラルフの表情が曇った。


「あーっと……なんかその人、怖そうで……ほら、さっきのクラスメイトもリースにだけ集まってたじゃないッスか」


 ぽりぽりと頬を搔きながら、ラルフはばつが悪そうにリースを見つめた。


「そんな! アニキさんはすっごい人なんだよ!? うまく言えないけど……とにかくすごいの!」


 リースはわーっと両手を広げながら、どうにかラルフへと想いを届けようと言葉を紡ぐ。

 しかしリースの想いも虚しく、ラルフはそんなリースの言葉を受けると、頭に大量の疑問符を浮かべて首を傾げた。


「??? なるほど。全然わかんねッス」

「あう……ダメだ。僕じゃアニキさんの凄さが表現できないよぉ」


 両手で頭を抱え、リースはどうしたものかと考える。

 苦悩している様子のリースに対しラルフは、まあまあと手をぱたぱたと前後に振った。


「とりあえず、リースの事を教えて欲しいッスよ。まずは―――」


 ラルフが話をしている途中、突然教室に低い男の声が響いてくる。

 ラルフとリースはその声に驚き、びくっと肩をいからせた。


「おう! バルドさんが入るぞぉ!」

「道開けろ雑魚ども!」

「??? ばるどさん?」


 リースは声のした方を向くと、身長2メートルはあろうかという巨漢の男が、手下らしき学生達を連れて歩いてくるのが見える。

 口元に手を当て、ラルフは思わず声を漏らした。


「げっ……バルドさん……マジッスか」

「??? ラルフさん、どうかしたの?」


 動揺した様子のラルフに対し、頭に疑問符を浮かべるリース。ラルフは即行でリースの耳元に近づくと、小さな声で説明した。


「バルドさんは、男子校舎を仕切ってる番長ッス。ただちょっと乱暴というか横暴なところがあって、あんまり生徒には人気がなかったりするッス」

「ん……そうなんだ。厄介な人なんだねぇ」

「ちょ!? リース声がでかいッス!」


 慌てて手を伸ばし、ラルフはリースの口を塞ぐ。

 リースは「もごご」と言いながら、それ以上の声を出すことはできなかった。


「おう、こいつが気合入ってるって噂の入学生かぁ?」

「制服をこんなに着崩しやがって、格好良いつもりかコラァ!」


 バルドの手下達はアニキの席の傍まで来ると、近距離で罵声を浴びせる。

 しかしアニキは欠片も起きる気配は無く、なんならイビキまでかいている始末だ。


「おい、起きろコラァ!」


 バルドの手下の一人はアニキの席の机を蹴ってアニキの覚醒を促すが、アニキはかけらも起きる気配がない。

 まったく起きる気配のないアニキを見た手下は、バルドに対して体を向けた。


「こいつ起きませんよ! どうしますバルドさん!」

「やっちまいますか!?」


 手下達は口々に「やっちまいましょう!」と声を荒げ、バルドへと言葉をぶつける。そんな手下達の声を受けたバルドは、ようやくその大きな口を動かした。


「起きないなら……俺が起こしてやる」

「げっ!?」

「あちゃ~……」


 その巨大な拳を振り上げ、バルドはアニキに向かって思い切り右ストレートを入れる。

 その事実に驚愕し、ラルフはぽかんと口を開け、リースは何故か片手を眼の上に置いて天を仰いだ。


「ど、どうしたんスかリース。やっぱりあのアニキって人が心配なんスか!?」


 ラルフは天を仰ぐリースに対し、慌てて言葉をぶつける。

 ぶんぶんと顔を横に振ると、リースは返事を返した。


「ううん。アニキさんの心配はしてないよ。ただ、その……バルドさん、大丈夫かなって」

「へっ……?」


 ラルフは予想だにしないリースの言葉に、ぽかんと口を開ける。

 その時、沈黙を守っていたアニキがゆっくりと目を開き、寝ぼけ眼でバルドの制服を掴んだ。


「んあ……なんか、うっせえなあ……」

「へっ!? へあああああああああああああああ!?」


 アニキは掴んだ制服をバルドごと窓の外へと放り投げ、バルドは間抜けな声を出しながら、外へと落ちていく。

 手下達はそんなバルドの姿を見ると、一斉に声を上げた。


「「「「バルドさああああああああああああああん!?」」」」


 手下達が一斉に窓の方へと走り下に落ちたバルドを見ると、白目を剥いて木の枝に引っかかっているのが見える。

 この教室は四階だが、どうやら奇跡的に大事には至らなかったようだ。


「てめえ、いきなり何しやがる! マジで頭おかしいんじゃねえのか!?」

「ていうか、バルドさんの一撃は!? 効いてねえのか!?」


 大将を失った手下達は口々に、アニキへと言葉をぶつける。

 ゆっくりとした動作で席を立つと、アニキはぽりぽりとバルドに殴られた右頬を搔いた。


「んあ……そういえばなんか、痒いな……。虫に刺された?」


 アニキはまだ寝起きの状態なのか、ぼーっとしながら言葉を紡ぎ、その言葉に手下達は一斉に血の気が引いた。


「ひっ……!? こ、こいつ頭おかしいぜ!」

「この鬼! 悪魔! デビル!」

「お、覚えてやがれぇ!」


 木の枝に引っかかったバルドを救出するため、手下達は捨てゼリフを吐きながらばたばたと教室を出て行った。


「んあ……良く寝た。おうリース、なんでお前そんなガックリしてんだ?」

「あ、あはは……なんでもないよ。なんでも」

「???」


 つくづく疲れた様子でゲンナリと答えるリースに、アニキは疑問符を浮かべながら首を傾げた。







 それから数時間後の、バルドを放り投げた日の昼休み。その後の授業も眠り続けたアニキはようやく目を覚まし、ぐーっと体を伸ばした。


「あー……ねみい。リース、授業はまだかよ?」

「たった今終わったところだよアニキさん……ていうか午前の授業全部寝といて今更何言ってるのさ」


 とぼけたことを言うアニキに対し、リースは的確なツッコミを入れた。

 ラルフはそんなリースの態度に、全身の毛が逆立つ思いだった。


「ちょ、リース!? 大丈夫なんスかそんな口きいて!?」


 ラルフは完全にアニキにビビッているのか、ビクビクとしながらリースへと言葉をぶつける。

 リースはあははと笑いながら、ラルフへと言葉を返した。


「大丈夫だよぉ。アニキさん見た目は怖いけど良い人だよ?」

「いや、人を四階から放り投げてる時点で良い人とは言い難いッス」


 リースの言葉に対しはっきりと否定するラルフに、リースは苦笑いを浮かべながら返事を返す。


「もー、大丈夫だよぉ。嘘だと思うなら自己紹介してみたら?」

「ええっ!? じゃ、じゃあ……あの、アニキさん、自分ラルフっていうッス。よろしくッス」


 クラスメイトとは思えないほど深々と頭を下げ、ラルフはビクビクしながらアニキへと挨拶する。

 そんなラルフの肩をポンポンと優しい手つきで叩き、アニキは返事を返した。


「おう! ラルフだな! こっちこそよろしく頼むぜ!」

「お、おお……! リース! 俺、意思疎通できたッス!」

「いやそんな、野獣じゃないんだから……」


 ラルフの言葉に額に大粒の汗を流しながら、返事を返すリース。

 そんな弛緩した空気の中、突然アニキの腹が「ぐー」と盛大に音を鳴らした。


「なんか腹減ったなぁ。ラルフ、食堂とかねえのか?」


 アニキは腹を摩りながらボリボリと頭を搔き、ラルフへと質問する。

 ラルフはポンッと拳を手のひらに当てると、返事を返した。


「あっ、ちょうど昼ッスもんね。じゃあ案内するッス!」

「ありがとー、ラルフさん」


 ラルフに対し、お礼の言葉を返すリース。そしてそのまま席を立つと、教室のドアへと歩みを進めた。

 こうして三人は、食堂へとその足を進めることとなる。







 シルフェリア学園男子校舎の食堂は、一言で言えば豪華である。

 全面ガラス張りの作りで風通しもよく、テラス席も含めれば総席数は100を越える。(なお、女子校舎の食堂もほぼ同じ作りである)

 リースはそんな綺麗な食堂に瞳をキラキラさせ、周囲を見渡した。


「うわぁ! すごいすごい! 外が全部見えちゃうよ!? テラスまである!」

「ふっふっふ。甘いッスよリース。この食堂にはその内装を越える最大の特徴があるッス」


 ラルフはリースの反応に満足したのか、ふっふっふと笑いながら言葉を続ける。

 ちなみにアニキはたいした興味がないのか、欠伸をしながら体を伸ばしていた。


「なんと! この学食の食べ物は学生ならオールタダ! 全部無料で食べれちゃうッス!」

「ええっ!? ほん―――」

「ほんとかそりゃあ!? よっしゃ! 食いまくるぜええええええ!」


 ラルフの言葉を聞いた瞬間瞳を輝かせ、そのまま食堂に出来ている列へと突っ込んでいくアニキ。

 その外見と気迫から、他の学生が前を譲ってくれたのは言うまでもない。


「アニキさぁぁぁぁん!? ちょ、はやっ!?」

「ううむ。もう一番前に並ぶとは、恐るべしッス……」


 周囲の学生の背中をばんばんと叩き「わりぃなぁ! あっはっは! よかったら一緒に食おうぜ!」とアニキは仲間を増やしている。

 周囲の学生も最初は怖がっていたが、見た目に反して気さくなアニキの性格も手伝ってか、最終的には数十人の大集団になっていた。


「おーい! お前らの分もメシ貰ってきたぞ! さっさと食おうぜ!」


 カートに大量の料理を載せ、アニキはそれを押しながらリース達の元へと戻ってくる。

 リースは額に大粒の汗を流しながら、大勢の学生とともに二人の元へと戻ってきたアニキにツッコミを入れた。


「いや、どうしたらそういう状況になるの!? ていうか友達増えすぎだよアニキさん!」


 リースは懸命にアニキへとツッコミを入れるが、アニキは全然聞いていない。

 それどころかリースたちを指差し、周りの学生達へと言葉を紡いだ。


「おう! こいつらが俺のダチのリースとラルフだ! こいつらも一緒でいいよな?」

「「「はい! アニキさん!」」」

「ええええ……変に統率がとれている……」


 アニキの声に一斉に返事を返す学生たちを、ぽかんとしながら見つめるリース。

 ラルフはううむと唸りながら、「さすがアニキさん。器が違うッスね……」と呟いていた。

 アニキはそんなリース達の様子をよそに、ぽんっと右拳を手のひらに打ち付けた。


「よし、天気いいからテラス席にしようぜ! 行くぞおめーら!」

「「「はい! アニキさん!」」」

「うーん……ま、いいか! 友達は多いほうがいいもんね!」


 最終的にはにぱーっと笑い、リースはアニキたちと一緒にテラス席へと歩みを進める。

 こうして三人と大勢の学生達、もといアニキ軍団は、一斉に食事を始めた。


「このサンドイッチおいふぃー! これ本当にタダなの!?」

「もちろんッス! ここでの食費は学費に含まれてるッスから!」


 ラルフはどんと自らの胸を叩き、リースへと返事を返す。

 ちなみにアニキは鬼神のような勢いで次々と料理を平らげ、周囲の学生から「おおーっ」と拍手を送られていた。

 ラルフはアニキの持ってきた料理の中からラーメンを取り、言葉を紡ぐ。


「あ、そういえば話は変わるッスけど、リースは創術が得意なんスよね? 今何か造れたりするんスか?」


 ラルフはラーメンをすすりながら、リースへと質問する。

 リースは少し恥ずかしそうに頬を紅潮させながら、返事を返した。


「あ、うん……できるけど、飴玉くらいかな。みんなにあげるね」


 リースは手の中に飴玉を創造し、周囲の生徒達から再び「おおーっ」と歓声が上がる。

 その後、食事を終えた学生から順番に、リースの手の中に溢れんばかりのその飴玉に、続々と手を伸ばした。


「おおっ! この飴うめえ!」

「ほんとだ、甘っ!」

「俺、なんかシロップみたいの入ってた!」

「あっ! それ当たりなんだ~。えへへ」


 リースはシロップ入り飴を食べた学生に対し、少し恥ずかしそうに笑って見せる。

 それを聞いた学生は「うおっしゃー! ラッキー!」とガッツポーズをしてみせる。

 仲睦まじい様子のクラスメイト達を見たラルフは、穏やかに微笑んだ。


『うちのクラスには、本当に良い入学生が来てくれたッスね……』


 ラルフはラーメンをすすりながら、学生達と楽しそうに談笑するリースを見つめる。

 最初は少し個性的な入学生に面食らっていたが、話してみると意外と良いやつらで、ラルフは心の底から安心していた。

 そしてそのままラルフは、リースへと言葉を紡ぐ。


「そういえばリース。創術といえば、リースと同じくらいの歳で使えるやつが、隣のクラスにいるッスよ」

「本当!? うわぁ。会ってみたいなぁ……」


 リースはラルフの言葉を受けると、キラキラと輝く瞳で、突き抜けるような青空を見つめる。

 そんなリースの想いは意外とすぐに叶うことになるのだが、その事実を、リースは知る由もない―――


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