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第48話:リリィの実力

「はい、そこまで! 一番後ろの席から答案用紙を回収してください!」


 担当教師の声に、悲喜こもごもの表情で顔を上げる女生徒たち。

 リリィはふうと息をつくと、前の席のアスカに答案用紙を渡した。


「げっ、リリィっち全部埋めてる!? 正解かはわからんけどすげえ!」

「それは、教科書に載っている部分しかテストに出なかったからな。当然だろう」

「うう、あたしなんか九割真っ白なのに……」


 アスカはがっくりと肩を落としながら、前の席の生徒へと答案用紙を渡す。

 リリィはそんなアスカの肩をぽんと叩くと、言葉を続けた。


「まあ、私も正解しているとは限らん。それに低い点の方が、こう……人間味があるぞ?」

「なさけむよう! ほっといてちょうだい!」


 アスカは高得点を取りそうなリリィを敵と判断したのか、ふてくされて再び机に突っ伏する。

 「まいったな……」と呟き、リリィはポリポリと頬をかいた。


「あ、えっと、お二人とも、廊下の掲示板を見に行きませんか? 先ほどのテストの結果が発表されるはずですので」

「もうか!? 随分採点が早いのだな」


 リリィはシルフィの言葉に驚き、思わず声を荒げる。

 それもそうだろう。通常テストの答案が採点、返却されるまでは、少なくとも数時間はかかる。

 それが数分で返ってくるとなれば、驚くのも当然だ。


「ええ。シルフェリア学園では魔術機構を利用した全自動採点システムを採用していますから、こういったペーパーテストの採点はすぐに終わるんです。クラスごとの順位で廊下の掲示板に発表されるので、すこし恥ずかしいんですけどね」


 えへへと笑いながら、シルフィは言葉を紡いだ。


「ふむ、では廊下に出て結果を見てみるとしよう。答えが合っていたか気になるしな」


 リリィはがたんと席を立ち、シルフィへと声をかける。

 シルフィは「はい! そうですね!」と微笑みながら立ち上がり、リリィと一緒に廊下へ向かって歩き始めた。


「あっ!? ちょ、ちょっと待って。あたしも行くー!」


 置いてけぼりにされたことに気付くとアスカは慌てて体を起こし、リリィとシルフィを追いかけていった。







 廊下の掲示板へと到着した三人は、がやがやと騒がしくなっている一角へと歩みを進める。

 掲示板の前ではクラスメイトの女生徒達が悲喜こもごもの表情でテストの結果発表を待っていた。

しかしリリィ達がやってきたことを見ると、小さな声で話を始める。


「あっ、あの方がいらっしゃいましたわ」

「どんな得点をお取りになるのかしら……気になりますわ」

「はぁ……」


 リリィは注目されていることを感じ、小さくため息を落とす。

 注目されていることに疲れた様子のリリィに対し、シルフィは困ったように笑いかけた。


「リリィさん。もう随分と有名人ですね」

「いや、これは悪い意味で有名になっているだろう。私はただ学園に溶け込めればそれでいいのだが……」


 声をかけてきたシルフィに対し、小さく首を横に振るリリィ。

 その瞬間、ペンがふよふよと浮遊してきて、掲示板の下の方から上の方にかけて、順番に生徒の名前と順位、そして500点満点中の得点を書き始めた。


「おを!? ぺ、ペンが浮遊して文字を書いている!?」

「!? これは……凄い仕掛けだな。これも魔術機構なのだろうか」


 リリィとアスカは動揺した様子で、言葉を発する。

 自動筆記をしたペンは最初に、アスカの名前を掲示板に書き出した。

 “30位 陽山アスカ 125点”と。

 クラス人数が30人であるため、これは事実上のドンケツである。


「げっ!? あたしビリ!? やっぱりかー!」

「ま、まあ、勉強を何もしていなかったわけですし、仕方ないですよ」


 シルフィはあまりの悲惨な結果に泣き出してしまったアスカの頭をよしよしと撫で、優しい声色で言葉を紡ぐ。

 リリィは自身の順位を確認するため、ペンの動きから目を離さずにいた。


「なかなか書かれないな。まさか、字が汚くて測定不能だったとか……? あっ!?」

「あっ、わ、私ですね。えっと……4位、みたいです」


 自動筆記によって書かれたシルフィの順位は4位。堂々たるものである。

 その順位を見たアスカは頭を撫でていたシルフィの手を取ると、涙ながらに懇願した。


「お願いシルフィっち! 勉強おせーて! いや、シルフィ先生!」

「せっ、先生なんてそんな……大丈夫ですアスカさん。一緒に頑張りましょう」


 シルフィは笑顔でぐっとガッツポーズを見せ、アスカを元気付ける。

 そうしている間にも自動書記は続き、リリィはその結果にぽかんと口を開いた。

 二位まで書いたペンは、最後の一人の名を書き始める。

 “1位 リリィ=ブランケッシュ 500点”と。


「へあ!? ま、ままま満点!? 凄いですリリィさん! やったぁ!」


 シルフィはまるで自分のことのように喜び、リリィの両手を取ってぴょんぴょんとジャンプする。

 リリィはそんなシルフィに視線を移すことなく、呆然と掲示板を見つめたまま声を発した。


「お、驚いたな……確かに多少の自信はあったが、まさか満点とは……」


 リリィはしばらく呆然と掲示板を見つめていたが、やがて周囲からの視線に気付き、キョロキョロと辺りを見回した。


「満点なんて……すごい……」

「わたくし、始めて見ましたわ」

「わたくしも……」


 リリィを見つめる女生徒達の視線はいつしか奇異の視線から若干尊敬を含んだものに変わり、しかし遠巻きにリリィを見つめる。

 リリィはそんな視線に耐えかね、その場から逃げたい気持ちと共にシルフィへと言葉を送った。


「しっ、シルフィ! 次の授業はなんだ!? また教室でやるのか!?」


 シルフィは焦った様子のリリィへと、思い出したように返事を返した。


「あ……そういえば次の授業は肉体強化の魔術ですね。まずは体育着に着替えないとですので、教室に入りますか?」

「あ、ああ! そうだな! では向かうとしよう!」

「きゃっ!? り、リリィさん!」


 リリィは出来るだけその場から早く離れたいという心から、シルフィの手を引き、そのままずんずんと教室に向かって歩いていく。

 その様子を見たアスカは、慌てて右手を突き出し、言葉を発した。


「あ! ちょ、待って二人とも! なんで毎回あたしを置いていくのさ!」


 唐突に歩き出したシルフィとリリィを追いかけ、同じく歩きだすアスカ。

 こうして三人は次なる授業を受けるため、一旦教室へと向かって歩き出した。







 教室へと戻ったリリィ達はまず、体育着へと着替えるため着ていた制服を脱ぐ。

 女学校なので着替えの際も視線を気にする必要がなく、その点は気が楽だった。

 しかしながら、リリィが服を脱いだ瞬間、教室に戻ってきた女生徒からどよめきが起こった。


「お、大きい……」

「しっ! はしたないですわよ!」


 女生徒達の視線はリリィの胸へと集中しており、それに気付いたアスカは、獣のような唸り声を上げた。


「うー……もう! 全部このわがままボディが悪いんじゃあ!」

「ひゃう!? ば、ばか! アスカ! なにをする!」

「!?」


 アスカは憎しみを込めた手つきでリリィの胸を掴み、そのまま揉みしだく。

 女生徒達はごくりと喉を鳴らしながら、その様子に注目した。


「む、胸が。胸が縦横無尽に……」

「しっ! 度々はしたないですわよ!」


 女生徒達は口々に再びこそこそ話を始め、クラス中の視線がリリィへと集中する。

 そんなクラスメイトからの視線を受けたリリィの顔は、みるみる紅潮していった。


「ええい、やめんか馬鹿者!」

「ぽめし! い、痛いよリリィっち。チョップすることないじゃんかぁ」

「お前が変なことをするからだろう! いい加減にしろ!」


 リリィはアスカへとチョップを入れ、胸から手を離させる。

 アスカは頭を摩りながら、涙目になっていた。


「えっと……とりあえず着替えられたのでしたら、私達は先にグラウンドに向かいましょうか? このままだと、ずっと皆の視線を浴びることになりそうですし」

「うう……そうだな」


 体育着に着替えたリリィは、頬を紅潮させて言葉を紡ぐ。

 こうしてリリィ達一行は、一足早くグラウンドへと向かった。







「今日は新しい生徒がいるので自己紹介しておく! 俺が肉体強化魔術の教師、ブレイク様だ! 貴様らは弱い! だから魔術で肉体を強化する! おい、そこのお前、腕力を強化して岩を持ち上げてみろ!」

「ひゃ、はい!」


 グラウンドに移動したリリィ達を待っていたのは、竹刀を持ったいかつい男教師、ブレイク。

 女生徒達は皆ビクビクと怯えながら、ブレイクの言葉を聞いているように見えた。

 そんなブレイクに指名された名も無き女生徒は、オドオドしながら指定された岩へと歩みを進めた。


「よし、始めろ。出来なかったら遠慮なく尻を叩くからな!」

「ひっ!? は、はいい!」


 竹刀で尻を叩くというブレイクの脅しに対し、女生徒はビクビクしながら従った。


「随分と厳しいのだな……ここの教師は皆ああなのか?」


 リリィは隣に座っているシルフィに、小声で話しかける。

 するとシルフィはどこか言いにくそうに俯いた。


「いえ、あのブレイク先生は特別厳しいので、皆さん怯えてしまって普段の実力が出せないのです。生徒の間での評判もあまり良くないようです」

「そうか……。あの女生徒、大丈夫だろうか」


 リリィはシルフィとの会話を終えると、ブレイクに指名された女生徒を見守る。

 女生徒は岩を掴むと、慌てた口調で呪文を詠唱し、岩を掴んだ手に力を込めた。


「んっ……くっ……」


 岩を持ち上げようと懸命に力を込めるが、岩はぴくりとも動かない。

 それも無理はないだろう。岩の大きさは女生徒の身長よりも大きく、常識で考えれば華奢な女の子に持ち上がる岩ではない。

 もっともこの女生徒も普段通りの力を出せれば持ち上げられないことはないのだろうが、慌てて呪文詠唱をしてしまったせいか、うまく魔術が発動していないようだ。


「んっ……んんーっ!」


 女生徒は必死に岩を持ち上げようとするが、やはり岩は動かない。

 するとブレイクは女生徒の尻を、予告も無く竹刀で叩いた。


「いっぐ!?」

「遅い! いつまで俺様を待たせる気だ! 日が暮れちまうぞ!」

「も、申し訳ありません!」


 女生徒は岩から手を離すと、深々と頭を下げる。

 しかしブレイクはその手を止めず、女生徒の顔に向かって、竹刀を振り下ろした。

 振り下ろした……が、その竹刀が女生徒をとらえることはなく、リリィの指二本によってピタリと停止させられた。

「いい加減にしろ……顔はまずいだろう。顔は」

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