表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/262

第41話:古代遺跡の探索

「とうちゃーく! ここがザラサ坑道だね!」


 アスカは両手を天に振り上げ、嬉しそうに言葉を紡ぐ。

 それとは正反対に、リリィ達は苦々しい表情で言葉を続けた。


「これは……」

「ぶ、不気味、だね」


 リリィは腕を組みながら言葉を紡ぎ、リースは坑道の入り口を見つめながらその言葉に続く。

 坑道の中は真っ暗闇で、まるで旅人を誘うように不気味な鳴き声が奥から響いてくる。

 どうやら魔物の巣窟だというブレイブの話は本当のようだ。


「へっ。ここに突っ立ってたってしょうがねー。早速入ってみようぜ」


 アニキは右手に炎を宿らせ、灯りの代わりにして坑道の奥へと突き進む。

 リリィ達は慌てて、その後ろを追いかけた。


「あっ!? ちょ、ちょっと待て! 勝手に進むな馬鹿者!」


 リリィはアニキへと声をかけながら、その背中を追いかける。

 リースとアスカはそんなリリィの背中を同じように追いかけた。


「ふーん……いいじゃねえか。モンスターがうようよいそうだぜ」


 坑道の中へと入ったアニキはモンスターの気配を感じ、持っていた炎をさらに燃え上がらせる。

 それを見ていたアスカは、ぽんと両手を合わせた。


「そーだ! こんな時にぴったりな術があるんですよ奥さん!」

「誰が奥さんだ! 何でもいいからやるなら早くしろ!」


 リリィからの辛辣な返事を受け、「ぶー」と言葉を返すアスカだったが、 懐から一枚の札を取り出すと呪文を詠唱しはじめた。

 するとお札は眩い光を放ち、すぐ近くまで迫っていたモンスターはその眩しさに驚いて逃げていった。

 アニキはモンスターを倒そうと身構えていたが、逃げていくモンスターにぽかんと口を開ける。


「あっ!? てめえアスカ! モンスターが逃げちまったじゃねえか!」

「気にするところはそこなのか!? むしろ感謝すべきだろう!」


 リリィはアスカを怒るアニキに対し、怒鳴り声を上げる。

 アニキは「ちっ……」と不満そうにしながらも、坑道が明るくなったのは事実なので、手の炎を引っ込めた。

 そんなアスカの術のおかげで、坑道の中は大分明るく、見やすくなったように思える。

 どうやら陽術というだけあって、光を操ることに長けた術のようだ。

 モンスター達は坑道に長く住んでいるせいか、眩い光には弱いのだろう。

 リースは逃げていくモンスター達と明るくなった坑道を見て、ぱちぱちと拍手を鳴らした。


「アスカさんすごーい! 坑道が一気に明るくなったね!」

「えへへ……もっと言って!」


 リースに褒められたアスカは、恥ずかしそうに頭を搔きながら返事を返す。

 旧坑道というだけあって古くなったトロッコや採掘用の道具が並び、まだまだ人がいた形跡が残っているように思えた。


「ふむ……この辺りまでは人がいた形跡があるな。恐らくロードは、もっと奥にあるのだろう」


 もし採掘中にロードが発見された場合、今頃大騒ぎになっているだろう。

 そんな騒ぎになっていないということは、採掘士も足を踏み入れていないような奥地がこの坑道の先に存在し、そこにロードが隠されていると考えるのが自然だろう。


「おっけー♪ じゃあこのお札浮かせとくから、さっさと奥進もっか」


 アスカは指で丸を作ってOKの意思をリリィに伝えると、持っていた輝くお札をパーティの頭上に浮かべる。

 どうやらこれで、灯りについて心配する必要はなさそうだ。

 しかしその瞬間、坑道の奥から唸り声が響いてきた。


「グルルル……」

「おっ。まだ骨のありそうなモンスターが残ってるじゃねえか」


 坑道の奥から出現した狼型モンスターに対し、嬉しそうにボキボキと拳を鳴らすアニキ。

 危険を感じたリリィはリースに下がっているよう指示を出し、そのまま戦闘が始まった。






「はあっはあっ……だ、大分奥の方まで来たねえ」

「ああ。心なしかモンスターの数も減ってきているような気がするな。ついでに人がいた気配も無くなってきているが……」


 モンスターとの度重なる戦闘に息を切らせるアスカに対し、冷静に言葉を返すリリィ。

 モンスターがいないことを見たリースは周囲の様子を確認すると、頭に疑問符を浮かべた。


「あれっ? リリィさん。この壁なんだか変じゃない? 人の手が入ったような感じがするよ」


 リースは壁の異変に気付くと、とことことその壁まで移動し、指差しながらリリィに向かって言葉を紡ぐ。

 リリィはそんなリースの指先を視線で追うと、同じように頭に疑問符を浮かべた。


「本当だな……ここから先の壁だけ、まるで古代遺跡のような石造りになっている」


 リースの言葉を受けたリリィは手甲を外してリースの指差す壁に触れると、これまでのようなむき出しの土ではなく、石造りのひんやりとした感触が走った。

 明らかにこれまでの坑道とは、道の性質が異なっている。

 ということは、これがリリィ達の求める“奥地”である可能性は非常に高い。

 アスカはびしっと道の先を指差し、言葉を発した。


「じゃあこの奥にロードがあんじゃね!? よぉし、れっつごー!」

「あっ!? ちょ、ちょっと待てアスカ! 古代遺跡は慎重に進め! でないと―――」

「へっ?」


 アスカは先に進もうとしたその足で何かスイッチのようなものを踏んだ感触を感じ、思わず間抜けな声を出す。

 その瞬間横の壁の隙間から、無数の矢がアスカを襲った。


「うおおおおお!? あっぶねえ!?」

「でないと、そういう目に遭うんだ……気をつけろ」

「忠告が遅いよリリィっち!? あたしマジ危機一髪!」


 アスカはかろうじてブリッジで弓矢を回避し、そのままの姿勢でリリィへと言葉をぶつける。

 リリィは頭を抱え「忠告する暇もなかったろうが」と、頭痛を感じながら返事を返した。

 アスカはブリッジから起き上がると、壁に片手をついてポーズを決めた。


「ふう。とにかくこっからは安全第一で進まないとだぜ? 子猫ちゃん」

「どういうキャラなんだそれは? というか、不用意にその辺の壁を触るな。また―――」

「あ、なんか変なスイッチ入ったっぽい」


 アスカが手をついた壁の部分がガコンと凹み、アスカはリリィへと律儀にそれを説明した。


「早速か!? もしかしてわざとやってるんじゃないだろうな!」


 トラブルをさっそく持ってきたアスカに対しリリィは両手で頭を抱え、そんなアスカにツッコミを入れた。

 その後リリィ達の立っている場所に、地鳴りが響いてくる。


「り、リリィっち。なんか地鳴りみたいなのが聞こえるんだけど……」

「奇遇だな、アスカ。私にもばっちり聞こえているぞ」


 頬をひくつかせた笑顔で言葉を紡ぐアスカに、同じような表情で応えるリリィ。

 次の瞬間リリィ達が立っていた地面が斜めに傾き、傾斜の上から巨大な鉄球が転がってきた。


「やっぱりかあああ!? なんてベタな罠を仕掛けるんだ!」


 リリィは咄嗟にリースを抱え、鉄球から逃げるように走り出す。

 その横をアスカとアニキが走り、アニキは何故か楽しそうに爆笑した。


「わっはっは! おもしれー!」

「呑気か貴様! 状況を考えろ!」

「いやだってよぉ! ベタすぎんだろこの罠! 考えた奴のセンスどうかしてるぜ!」

「お前の精神構造の方がどうかしているだろう!」


 走りながら器用に喧嘩をするリリィとアニキを見たアスカは、なんともいえない表情で言葉をこぼす。


「やー……お二人とも何気に余裕ですにゃあ」


 一方リリィに抱えられたリースは、抱えられた状態のまま固まっていた。

 リリィは走りながら懸命に視線を走らせ、やがて横道を見つける。


「!? あそこに横道がある! そこに入るぞ!」

「ん、あいよ! がってんだ!」


 リリィ達は横っ飛びをして間一髪鉄球から逃れ、横道へと滑り込む。

 その際アスカは裾を踏んづけて一人転んでいたが、誰も気付くものはいなかった。

 やっとのことで逃げ延び、リリィは息も絶え絶えにアスカに言葉をぶつける。


「はぁっはぁっ……アスカ! 今後勝手に歩いたり壁を触ったりするな! というか動くな!」

「んな無茶な!? リリィっちそれは無理ですたい!」

「何が無理なものか! 今その場から動かなければ―――」


 リリィはここぞとばかりにアスカへと、言葉をたたみかける。

 アスカは肩を竦め、声を荒げるリリィへと返事を返した。


「いや、だからね? さっき転んだ時、またカチって音がしたんですよね」

「…………ぴっ」


 アスカのあまりのファンタジスタぶりに、思わずリリィは口から変な声を出す。

 次の瞬間まるで意思を持っているかのように方向を変えた鉄球が、リリィ達に向かって転がってきた。


「アスカあああああああああああああああああ!」

「ごみーん! でも不可抗力だよおおおおおお!?」


 両手を合わせてまるで合掌するように謝罪するアスカと、そんなアスカを怒鳴りつけるリリィ。

 こうしてリリィ達と鉄球との壮絶な逃亡劇は、その後20分ほど継続された。






「ようやく鉄球をまいたようだな……」

「だ、だね。マジで疲れた……」


 リリィは気力がないのか、ただはあはあと息を荒げる。

 鉄球から逃れている間リリィに抱えられていたリースだったが、何かに気付き、腕から離れて一歩踏み出した。


「あっ、ねえリリィさん。あそこの広間みたいなところに、宝箱っぽいのがあるよ?」


 目の前に広がっている大広間の中央に宝箱があることを発見し、それを指差すリース。

 すかさず目が$マークに変化したアスカは、一目散にその宝箱に向かっていった。


「ひゃっほおおおおお♪ お宝ゲットだぜぇ!」

「学習能力ゼロか! また罠だったらどうする!? というか絶対罠だろうそんな目立つ宝箱!」


 リリィは即行で宝箱に走ったアスカに対し、言葉をぶつけるが、アスカはぶんぶんと右手を振りながら、「今度は大丈夫だってぇ」と呑気に返事を返した。


「はいでは、オープンヌ!」

「あっこら!?」


 宝箱を開こうとするアスカを止めようとリリィが言葉をぶつけるが、時既に遅く、アスカは思い切り宝箱を開いた。

 宝箱を開けた瞬間大広間の地面の端からバリアのようなものが発生し、リリィ達とアスカを完全に断絶する。

 そしてバリアの中に一人ぼっちとなったアスカの正面に、西洋の鎧を着た騎士が現れた。


「ロードヲネラウモノ、タオス……」

「あ、ありぇ? これってもしかして、ピンチってやつ?」


 アスカは宝箱を開いた状態のまま、ぴきっと固まる。

 リリィ達はそんなアスカに対し、口々に言葉を送った。


「残念だったな、アスカ」

「頑張れよアスカ」

「大丈夫! アスカさんなら倒せるよ!」

「ちょおおおお!? 見捨てんの早くない!?」


 アスカは仲間達からのまさかの一言に涙し、ツッコミを入れる。

 その言葉を受けたリリィは、こほんと咳払いをして返事を返した。


「冗談はこのくらいにして……とりあえず逃げろ、アスカ! 我々はこのバリアを消す方法がないか探してくる!」

「お、おう! がってんだ!」


 リリィ達はバリアを消す方法がないか探すため、大広間から別の部屋へと移動する。

 アスカはリリィ達にガッツポーズをしながら返事を返し、再び騎士へと向き直った。

 騎士は相変わらず同じ単語を繰り返し、やがて腰元の剣を抜いた。


「ロードヲネラウモノ、タオス……」

「あ、あははは。やっべえ……」


 騎士のただならぬオーラに当てられ、ひくついた笑顔を見せるアスカ。

 こうしてロードの守護者対アスカの戦いは、唐突にその幕を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ