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第40話:ザラサ坑道への道

「よーし次はあたしの番だね! 絶対ヴァヴァのカードを引かせるんだから!」


 アスカは手の中でカードゲーム用のカードを扇状に広げ、リースへと突き出す。

 リースは「むむむむ……」とアスカの広げているカードを睨みながら、右手をひらひらとカードの上で泳がせた。


「えっと、こっちかな?」

「わぁ……!」


 リースが右側のカードに手を動かすと、アスカは満面の笑顔で笑う。

 リースはその様子を見ると、さらに手を動かした。


「それとも、こっちかな?」

「oh……」


 リースが左側のカードに手を動かすと、アスカは残念そうにしょんぼりとする。

 リースはその様子を見るとニヤリと笑い、左側のカードを引き抜いた。


「はい、ノーマルカード♪ またアスカさんの負けー♪」

「ちっくしょおおおおおお! またかよ! もうあたし十六連敗くらいしてない!?」


 ロックシューターの街を旅立ってから数日、街道横にある広場で、リース、アスカ、カレンの三人はカードゲームに興じている。

 その姿はまるで、本物の姉弟のように見えた。


「アスカさんすぐ表情に出るからわかりやすいんだもん。逆にカレンさんはずっと照れてるから、全然読めないんだけどね」


 リースは全身を使って悔しがるアスカに苦笑いを浮かべながら、言葉を紡ぐ。

 アスカは口を3の形をしながら、今度はカレンへと言葉をぶつけた。


「もーお姉ちゃん強すぎー! あたしずっと最下位じゃん!」

「……!」


 アスカの言葉に応え、恥ずかしそうに元々赤かった顔をさらに紅潮させるカレン。

 リースはそんな楽しそうな二人の様子につられて、同じように笑った。

 アニキはモンスターが出ないため暇なのか、リースたちの横でごろりと横になっている。

 そんな一行の元に、食事を持ったリリィが歩いてきた。


「お前達、昼食ができたぞ。ゲームはそのくらいにしておけ」


 リリィはリースたちを見ると、料理を持ったまま声をかける。

 そのリリィの言葉を受けたリースたちは「はぁーい」と返事を返し、リースは手を洗う為に水筒を取りにいった。

 そんなリースを見送ったリリィは、料理を地面へと置き始めた。

 そして料理を見たアニキは、しゅばっと起き上がる。


「おっ、メシか!? 俺ぁもう腹ペコペコだぜ!」


 早速料理に手を伸ばすアニキの手を、無言でバシンとはたくリリィ。

 食事を邪魔された事に怒るアニキだったが、「まず手を洗え。リースはちゃんとやっているぞ」と言われ、渋々水筒の水で手を洗った。


「リースちゃん、手洗ったらあたしにも水筒ちょーだい」

「ん、はーい。どうぞ」


 手を洗い終わったリースから、水筒を受け取るアスカ。

 アスカは「せんきゅー♪」と軽い調子で礼を言うと、そのまま手を洗った。

 リリィが食事を地面に並べると、全員それぞれの食器の前に座る。

 その様子を見たリリィは全員を見渡し、言葉を放った。


「全員手は洗ったな? では、いただきます」

「「「いただきます!」」」


 掛け声とともにそれぞれの前に置かれた食事を平らげていく一行。

 特にアニキは鬼神のような勢いで、次々と皿を空にしていった。

 リースはニコニコと笑いながら、フォークを使っておいしそうに食事を食べる。


「おいふぃー! リリィさん! これすっごく美味しいよ!」

「ふふっ。それはよかった。ほらリース、口にソースが付いているぞ」


 リリィは嬉しそうにフォークを掲げるリースの口を、持っていたハンカチで拭う。

 リースはむぐぐと呻いた後、ありがとうとお礼の言葉をリリィへとのべた。


「やーでも本当に美味しいよこれ。リリィっち腕上げたねえ」


 アスカはもぐもぐと料理を咀嚼しながら、うんうんと頷いた。


「いやいや、カレンのレシピが良いおかげだろう。この甘辛のソースは本当に絶妙な調合だ」


 リリィは謙遜し、少し頬を赤く染めながらぶんぶんと両手を横に振る。

 カレンはそんなリリィの言葉を受けると、勢いよく顔を横に振った。


「……!」

「ん、お姉ちゃんもリリィっちの腕は凄いってさ。一度でこの料理をものにするのはセンスがいるからって」


 アスカはもぐもぐと料理を食べながら、カレンの言葉の通訳をする。

 リリィはポリポリと頬をかきながら、アスカへと返事を返した。


「参ったな……あまり褒めないでくれ。恥ずかしいだろう」


 周囲に人影もないこともあってフードを外しているリリィの頬が、さらに赤く染まる。

 リースはそんなリリィの横顔を見ると、ニヤニヤと笑った。


「あー! リリィさんが照れてる! めずらしー!」

「こっこらリース! 大人をからかうな!」


 リリィは恥ずかしそうに歯を食いしばりながら、ぶんと片手を上げてみせる。

 リースは「ごめんなさーい」と一応謝罪するが、どう見ても反省しているようには見えなかった。

 アスカは一度食事の手を止めると、アニキへと声をかけた。


「ねーアニキっち。アニキっちも、リリィっちが料理上手だって思うっしょ?」

「もふぁ!? ふぉふぇふぁふふぇふぁふぁんふぇふぉふぃーんふぁふぉ!」


 アニキは一瞬アスカの方を向き、口の中いっぱいに料理を詰めながら返事を返した。


「何を言ってるんだか全くわからん! まずは口の中の料理を飲み込め!」


 意味不明な音を発しているアニキに対し、言葉をぶつけるリリィ。

 やがてアニキは口の中の料理を全て飲み込むと、返事を返した。


「んぐ……俺は食えりゃなんでもいいって言ったんだよ」

「なんだそれは……作りがいのない奴だな」


 リリィは少し怒ったようにそっぽを向き、ほんの少しだけ頬を膨らませる。

 リースはそんなリリィの様子を見ると、再びニヤニヤと笑い出した。


「へー、リリィさん。作りがいが欲しかったんだ? アニキさんも気をつけなきゃね」

「なっ!? 何を言うリース! 大人をからかうなと言っているだろう!」


 リリィは再びリースへと拳を振り上げ、リースは「ごめんなさーい」と謝る。

 リリィはしばらくリースと話していたが、やがて「もう知らん!」とそっぽを向いてしまった。

 そんな二人をよそに、アニキはぽんぽんと自身の腹を撫でる。


「ふー、ごっそさん。美味かったぜ」

「もう食べたのか!? ちゃんと噛んでないだろう貴様! ちゃんと噛め!」


 リリィは怒りながらアニキの声に反応し、指差しながら言葉をぶつける。

 アニキはそんなリリィの言葉に、噛み付くように返事を返した。


「うるせーなぁ! かーちゃんかお前は!」

「かっ……!?」


 リリィはアニキからの言葉に声を詰まらせ、そのままの状態でフリーズする。

 アスカはフリーズ状態なリリィなどおかまいなしに食事を終え、同じようにぽんぽんと自身のお腹を撫でながら、言葉を紡いだ。


「ふー、あたしも食べたぁ。リリィっち、デザートないの?」


 アスカの言葉に反応し、フリーズ状態から解除されるリリィ。

 すぐに言葉の意味を理解すると、引き続き怒りながら返事を返した。


「自由かお前は! そんなものあるわけないだろう!」

「ええー!? そんな殺生な! 最高の料理には最高のデザートでしょうに!」


 アスカはリリィへと抱きつき、「お願い! お願い!」と繰り返す。

 リリィはしつこくすがってくるアスカを振りほどき、言葉をぶつけた。


「ああもう! わかった! 果物くらいなら剥いてやる!」

「わーい♪ リリィっち大好き!」


 アスカはバンザイと両手を上げ、リリィへと返事を返す。

 リリィは「はいはい……」と適当な返事を返しながら、果物を取りに席を立った。


「あ、リリィさん僕もー♪」

「もちろん俺もな」


 リースとアニキは、立ち上がったリリィに対し、ついでと言わんばかりに言葉を紡ぐ。

次々に上がってくる声にリリィは怒りながら、言葉をぶつけた。


「わかっている! 全く、少しは動かんか」


 リリィはぷりぷりと怒りながら、道具袋から果物を物色する。

 この果物も道中木になっていたものをリリィが採取したものだった。


「ほら、デザートだ。剥いただけだがな」


 手早く果物をむいたリリィは手をタオルで拭いながら、三人の前に果物を盛った皿を置き、元いた場所に座った。

 三人はその果物を食べ、食後のデザートを楽しむ。


「そういえばリリィさん。ザラサ坑道ってあとどのくらいかかるのかな?」


 リースは果物をもぐもぐと食べながら、リリィへと疑問を口にする。


「ふむ。ここまでくればあと少しだ。恐らく今日の夜には到着するだろうから、坑道の探索は明日の朝からがベストだろうな」


 リリィは地図を広げながら、リースへと返事を返す。

 リースは「そっかー」と返事を返しながら、お腹がいっぱいになってしまったのか、ふうとため息を落とした。


「リース。今度は果汁が口に付いているぞ。少しは自分で気をつけろ」

「えへへ……ごめんね、リリィさん」


 リリィはリースの口をハンカチで拭い、「まったく……」とため息を落とす。

 リースはそんなリリィに申し訳なさそうに、しかし少し笑いながら返事を返した。


「そういえばさー、リースちゃん。“ロード”って結局どんなもんなん? それがわかんないと探しようがなくね?」


 アスカはデザートは別腹と言わんばかりに果物を食べながら、リースへと声をかける。

 リースはアスカの言葉を受けると、むむむと両腕を組んだ。


「うーん、僕も本でしか見たことないんだけど……別名“神の器”って言われている古代からの遺物らしいよ。だから器状なんじゃないかな」

「そんな安直な……しかしまあ、それしかヒントはなさそうだな」


 リリィはアスカとリースの話しに割って入り、リースと同じように腕を組む。

 アスカはデザートを食べ終わると、頭の後ろで手を組んだ。


「そっかー。まあいいや。それっぽいの全部持ってくればいいっしょ」

「発想が山賊だな……とはいえ今は確かに、それしかないが」


 リリィはどうにもできない現状にため息を落としながら、アスカの言葉に同意する。

 アニキはそんなリースたちの言葉を聞くと、口を挟んだ。


「ま、結局行ってみるしかねえってこったろ。行きゃわかんだよ、行きゃあ」

「……貴様の言葉に同意するしかないとはな。しかしまあ、その通りだ。私も様々な文献を読んできたが、リース以上の知識は持ち合わせていない」


 リリィは自らの無力さを呪うように、ため息を吐きながら返事を返す。

 少し場の空気が重くなってしまったことを感じ取ったリースは、立ち上がりながら言葉を発した。


「まあとにかく、行ってみようよ! カレンさんのためだもん。僕も頑張るよ!」


 リースはぐっと両手を握り締め、言葉を紡ぐ。

 そんなリースの姿に感動したアスカは、ぎゅーっとリースを抱きしめた。


「ありがとーリースちゃん! 愛してる!」

「あ、アスカさん。苦しいよぉ」


 リースは思い切り抱きついてきたアスカに対し、少し苦しそうにしながらも楽しそうに返事を返す。

 リリィはそんなリースたちの様子を見ると微笑み、やがて立ち上がった。


「よし、では食事も済んだことだし、出発するとしよう。今日中にザラサ坑道の入り口までは到着しなければ」

「だね! 行こっか!」


 アスカはリースから手を離し、「れっつごー! やー!」と片手を上げながらいそいそと歩いていく。

 リリィ達は慌てて食事を片付けると、あさってのほうに歩き出したアスカを急いで追いかけた。


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