第39話:決闘の決着
カーティスは一向に倒れようとしないブレイブに苛立ち、ブレイブはそんなカーティスを睨みつけている。
「くっそおおおおお! この、雑魚がああああああああああああ!」
「っ!?」
カーティスは咆哮し、とどめの一撃を放つ。
その瞬間ブレイブの両目は見開かれ、そして―――
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ブレイブも咆哮と共に、カーティスに向かってステップインする。
その動きは、初めてリリィ達と出会ったとき、あの大樹を殴り続けていた時と、まったく同じ動きだった。
「なっ―――!?」
カーティスの横薙ぎの斬撃は空を切り、その斬撃の下から、屈みつつステップインしてくるブレイブの瞳の光が映る。
ブレイブはそのまま、右拳をカーティスの腹部に叩き込んだ。
「ごっふぁ……!?」
突然の腹部の痛みに悶絶し、一瞬完全な無防備状態となるカーティス。
ブレイブはカウンターブレイドの柄を回転させた。
するとカウンターブレイドの内部からは何かが回転する音が響き、その刀身は金色の輝きを放ち始めた。
「これまでの、四十六撃……受けた分全部、てめえに返すぜ、カーティス!」
「なっ……!?」
ブレイブは肩に担いだ金色に輝くカウンターブレイドを、無防備なカーティスに向かって思い切り振り下ろす。
カーティスはその金色の輝きに言いようの無い恐怖を感じ、そして声を張り上げた。
「う、うあああああああああああああああああ!?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ブレイブの振り下ろしたカウンターブレイドはカーティスの体に直撃し、その瞬間、これまでカーティスが放った四十六撃全ての衝撃が、カーティスを襲った。
「あががががが、あああああああああああああああああああ!?」
カーティスはその衝撃に吹き飛ばされ、闘技場の壁へと激突する。
そして「かはっ……!?」という声と共に、完全に沈黙した。
その頭はがくりと垂れ下がり、金色の鎧は見るも無残に砕け、カーティスの体には、無数とも思える斬撃の傷が現れていた。
ハルバードの刃が事前に潰されていたこともあってか、かろうじて一命は取り留めているものの、決闘の続行は不可能だろう。
その様子を見た観客達は愕然とし、会場全体が静まり返っていた。
「はっ!? し、しし、勝者、ブレイブ君! ブレイブ君です!」
司会者の声を聞いた瞬間、沈黙していた観客たちが一斉に驚愕の声を上げる。
観客達は予想だにしなかった決着に驚き、ざわざわと動揺の声が会場全体を包んでいた。
ブレイブはそんな観客の声を聞くと、無言のまま膝を折って倒れた。
「ブレ君!? ブレ君!」
いてもたってもいられなくなったサラは、ブレイブの元へと走る。
「サラ!? 危ない! ちょっと待て!」
リリィはそんなサラを止めようと声をかけるが、サラは止まることなくブレイブのすぐ傍まで近づいた。
「ブレ君! 大丈夫!? ブレ君!」
「うるせえ、な……だいじょうぶ、だよ……」
サラはブレイブの頭を抱きかかえ、懸命に声をかける。
ブレイブは荒い呼吸を吐きながらも、そんなサラの言葉にぶっきらぼうに答えた。
リースはそんな二人の姿を視界の中にとらえ、あれだけの激闘に勝利したブレイブを見てごくりと喉を鳴らした。
しかしそんなリースに、リリィの声が響く。
「まずいな……行くぞ、リース! 掴まれ!」
「えっ!? あ、う、うん!」
リースは突然のリリィの声にも反応し、ほぼ反射的にそのマントを掴む。
リリィは驚異的なスピードでブレイブに迫り、そして―――
「ふっ!」
「!?」
観客席からブレイブを狙って放たれた弓矢を、手甲によって弾き飛ばした。
そんなリリィを、黒服の男たちが取り囲む。
そして黒服たちの後ろから、カーティスの父親らしき男が現れた。
「くそっ。よくも息子をやってくれたな! 生かしてはおけん、やってしまえ!」
「はっ!」
息子の敗北に激昂したカーティスの父親は忌々しそうに吐き捨てた。
カーティスの父親はかなり怒っており、もはや観客達の視線すらも、頭の中には入っていないようだ。
カーティスの父親の命令に従い、黒服たちはブレイブに向かってそれぞれの武器を持って駆け寄ってくる。
そんな黒服達をリリィが向かえ撃とうとしたその時、今度は二つの影が黒服達を吹き飛ばした。
「おいおい……楽しい喧嘩じゃねえか。俺も混ぜろよ」
「ブレ君勝ったっしょ!? もう! 二人の愛の邪魔しちゃだめじゃんさ!」
アニキはボキボキと指の骨を鳴らし、楽しそうに笑う。
アスカは刀の柄を握った状態で、声を荒げた。
「み、皆さん……! ブレ君を、ブレ君を守ってください!」
泣きそうになりながら言葉を紡ぐサラに、リリィは安心するよう声をかけた。
「当たり前だ! サラ、リースと一緒にブレイブを連れて、私の後ろに下がっていろ!」
「は、はい!」
「うん! わかったよ!」
リースとサラは満身創痍のブレイブに肩を貸し、リリィの背後に隠れる。
それを確認したリリィは、怒りの眼をもって、カーティスの父親を射抜いた。
「神聖なる決闘を汚した罪……万死に値する。安心しろ、一瞬ですべて終わらせてやる」
「ひっ……!?」
フードの下からでも輝くリリィの目に怯え、カーティスの父親は数歩後ずさる。
そんなカーティスの父親と、反対にジリジリと距離を縮めてくる黒服を見たアニキは両拳を打ち付けると、楽しそうに咆哮した。
「うっしゃあ! こっからは大人の喧嘩だこらああああああああああ!」
このアニキの咆哮を皮切りに、黒服たちとリリィたちの戦闘が開始される。
ものの数分後には、黒服たちの体が地面に転がることになり、カーティスの父親もろとも、リリィ達の剣(拳)の餌食となったのだった。
「あの……皆さん、本当にもう行ってしまうのですか?」
サラは胸の前で手を組み、リリィ達へと言葉を紡ぐ。
闘技場の一件も終着した後、しばらくリリィたちはブレイブの家に滞在していたが……ブレイブの体に異常がないことがわかると、すぐに出発の準備をするはこびとなった。
「ザラサ坑道は魔物の巣窟だ。本気であんなとこに行く気かよ?」
ブレイブはサラの隣で、つまらなそうに言葉を紡ぐ。
リリィはそんなブレイブに対し、微笑みながら返事を返した。
「ザラサ坑道には、“ロード”があるかもしれないのだろう? ならば我々は行くしかない。そうだろう? アスカ」
「うん! リリィっち、みんな、ありがとー! お姉ちゃんの体を造るにはどうしても、ロードが必要なんだ!」
アスカは満面の笑顔で、リリィ達へとお礼の言葉を紡ぐ。
闘技場の一件が解決した後、ブレイブは「そういえば……」と父親から聞いた話を、リリィ達に話した。
その話を要約すると、“盾状のカウンターストーンを拾った場所に、ロードらしき宝物を見つけた”というもの。
ブレイブも詳しい話は聞いていなかったが、とにかく盾状のカウンターストーンを拾ったのは、ロックシューターから更に南下した場所にある旧坑道、ザラサ坑道だった。
つまりそのザラサ坑道に、ロードらしき宝物があるというのだ。
その話を聞いたリリィ達はすぐに目的地をザラサ坑道へ定め、そして出発した。
「じゃあねーブレ君! サラちゃんとお幸せに!」
「ブレ君言うな! だからそんなんじゃねーっての!」
ブレイブはアスカの言葉に反応し、顔を赤くしながら言葉をぶつける。
出合った頃に比べ、ブレイブは素直に自分を出すようになったように思える。
これも闘技場での戦いが認められ、街の皆がカウンターブレイドの性能を認めてくれた事が大きいだろう。
今ではブレイブは貴重な武器職人の跡取りとして、町では一目置かれる存在となっていた。
「ではな、ブレイブ。鍛錬も怠るなよ」
「―――っ!」
リリィはガントレットを外し、ぽん、とブレイブの頭を撫でる。
ブレイブはそんなリリィの行為に言葉を失い、ただ口を閉じた。
サラはぶんぶんと手を振り、リリィ達を見送る。
「皆さん、お元気で! どうかお気をつけて!」
「ああ、サラも達者でな」
リリィは同じようにサラの頭も撫でると、そのまま一行と共に街を後にしようと踵を返す。
しかしそんなリリィの背中に、ブレイブの声が響いた。
「また……また来いよ! 今度は絶対、ちゃんと避けてやるからな! …………師匠!」
「っ! ……ふふっ。ああ、さらばだ!」
リリィは自らを師匠と呼んでくれたブレイブに対し、微笑みながら片手を上げて答える。
リースとアスカはぶんぶんと両手を振り、アニキは片手を上げながら、ロックシューターの街を後にする。
こうして一行は伝説の材料“ロード”獲得のため、ザラサ坑道への道を歩き始めた。