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第3話:運命の再会?

「うおああ! モンスターはどこ―――あん? なんだてめえは」


 空に向かって叫んでいたアニキは突然自分に近づいてきた女性に対し、明らかな嫌悪感を表す。

 リリィは咄嗟にデクスへと近づきその肩を掴んだ。


「ちょっ。ちょっと待て、デクス! 一体どうしたというのだ!?」


 ただ事ではないデクスの雰囲気に焦りながら言葉を吐くリリィ。

 状況の理解できぬこの場ではひとまず動いているものを止めるしかなかった。


「……っ!」


 デクスは顔を上げ、ヴェールの下から真っ直ぐにアニキを見つめる。

 その瞬間突き刺すような冷気がデクスの体を走り、肩に触れていたリリィのガントレットに痛みにも似た“冷感”が走った。


「なっ!?」


 リリィは突然の感覚に驚き思わず肩を掴んでいた手を離す。

 改めてガントレットを見つめると、手の平の辺りには青く輝く霜が付着していた。


『乾燥地帯で、霜だと!? まさか、デクスが何かしたというのか!?』


 驚愕の表情を浮かべ、リリィはデクスを見つめる。

 そんなリリィの様子に構いもせず、デクスは一歩ずつアニキへと近づいていった。


「ちっ。てめえ……なんか知らねえが、俺に用があるみてえだな」

「いでででっ……ふあ? な、なに? だれ?」


 アニキは担いでいたリースを地面へと降ろし、近づいてくるデクスを真っ直ぐに睨みつける。

 デクスはそんなアニキの視線を浴びながら、やがてその目の前まで歩みを進めた。


「…………」


 あと一歩で呼吸が届きそうな距離まで近づき、デクスは無言のままアニキを見つめる。

 まるで状況のわからないアニキは方眉を上げ、いぶかしげにその姿を見返した。


「てめえ、いったいなんなんだ? 俺の顔になんか付いてんのか?」


 アニキは不機嫌そうにデクスの姿を見つめ、言葉を紡ぐ。

 女性が苦手なアニキにとってはたとえどんな理由にせよ、女性が自分の傍に来るというのは落ち着かないのかもしれない。


「ふあ……この人、アニキさんのお友達? きれーな人だねえ……」


 リースはぽかんと口を開け、立ち尽くしたままのデクスを見上げる。

 アニキはそんなリースを見つめると呆れたように声を出した。


「あん? なぁに言ってんだリース。俺が女と知り合いなわけねーだろが。……つーか、顔も見えなくねえか?」


 アニキは両腕を組みながらヴェールに隠されたデクスの顔をじっと見つめる。

 デクスはぴくりと肩を動かすと乱暴に顔を背けた。


「やっと、やっと見つけた。もう、絶対に逃がさない……っ!」


 デクスはゆっくりと顔をアニキへと向け、帽子から垂れていたヴェールを上へと持ち上げていく。

 細くしなやかな白い指は漆黒のヴェールを頭の上へと上げ、その素顔が白日の元へとさらされる。

 リースは両目を見開き、驚きの感情と共にその表情を見つめた。


「―――ほら……やっぱり、きれーな人だったよ……」


 リースの瞳に映る一人の女性。

 鋭く伸びた銀色の瞳は、赤縁の眼鏡の下にありながら、その圧倒的な存在感と力を発し、冷たくも美しく輝く。

 後頭部でまとめられ、その毛先を上に立てた銀の髪は、氷のように透き通った肌に映え、妖しく風に揺れる。

 エルフ特有の長い耳に銀の髪がかかり、まるで輝く小川のように、美しい直線を描く。

 それら全てを包み込むような女性用のスーツには、汚れはおろか、シワ一つなく、まるで権威を象徴するかのようにその姿を晒す。

 少々高めのヒールから伸びた白い足は、タイトなスカートの中に伸びる。

 細く美しいその曲線は、まるで―――


「まるで、氷の彫刻……みたい」


 リースがぽつりとこぼしたその言葉に答えるように風が吹き抜けていく。

 気付けばデクスは被っていた帽子を脱ぎ去り、その瞳で真っ直ぐにアニキを見つめている。

 その銀の瞳に射抜かれたアニキは目を放すことのないまま、言葉を紡いだ。


「ちっ。なんだかわからねえが、嫌な気分だぜ」


 アニキはデクスの瞳から一瞬も目を離すことなく、その表情を見つめ続ける。

 デクスは確かな決意と意思を宿したその冷たい瞳で、同じようにアニキから視線を外さない。

 沈黙の時が二人の間に流れ、やがて次の風が二人の間を突き抜けた時……先に口を開いたのは、デクスの方だった。


「あなたは覚えていない、でしょうね。でも私はあの日からずっと、忘れた事など無かった!」


 デクスはワイシャツの胸元のボタンを開け、首から下げたチェーンを引っ張る。

 ワイシャツの間から顔を覗かせたのは、下半分が欠けた状態の十字架を模したネックレスだった。


「!? そ、そいつは!?」


 アニキは両目を見開き、驚いた様子で十字架を見つめる。

 適度な宝石で装飾されたそれは、半分になった身体を引きずりながら、デクスと同じようにアニキを見返していた。


「や、やっぱり知ってるの、アニキさん! あの十字架は!?」


 リースはアニキのズボンを引っ張り焦った様子で言葉を紡ぐ。

 アニキは奥歯をかみ締めて十字架を見つめ、眉間にシワを寄せた。


「!? まさかあなた、覚えていますの? あの日の、あの、出来事を……」


 デクスは口元に手をかざし、胸元に手を当てて言葉を紡ぐ。

 その氷のように白い肌には微かに朱の色が走り、その鋭い瞳は、幼き日の少女のように大きく見開かれた。


「ああ…………わからん! まったくわからん!」

「へあっ!? え、ええっ!?」


 アニキは両腕を組んで空を見上げながら、一点の曇りもなくその言葉を吐く。

 リースは再び口を開けてその姿を見上げた後、両手をぶんぶんと振りながら口を動かした。


「ちょっ、ちょちょちょ、アニキさん! わかんないの!? わけわかんない……てか意味わかんないよぉ!」

「しょーがねーだろが! 本気でわかんねぇんだから! さっきはちょっと驚いてみたんだよ、なんかノリで!」

「ノリで!?」


 リースはまるでタライが上から降ってきたような顔をしながら、ぱくぱくと口を動かす。

 ようやく状況がわかりそうになったと思えば、とんだ嘘……いや、意味がないことを考えると、これは嘘ですらないのかもしれない。


「…………」

「あ、あの、お姉さ……ひっ!?」


 様子を伺うようにデクスの表情を見上げたリースの目に、一人の静かなる修羅の姿が飛び込む。

 デクスのその瞳は地面を向き、アニキを睨みつけているわけでもなんでもない。

 だがその全身からは白い冷気が立ち上り、微かに震える肩がその者の心情を何よりも明確に表す。

 デクスはゆっくりとした動作で顔を上げると、先程と変わらぬ鋭い表情で真っ直ぐにアニキを見つめた。


「へっ。なんだかわからねえが、かかってこいやぁ! どうせおめえも、ただの女ってわけじゃねえんだろ!?」


 アニキは嬉しそうに笑いながら自らの拳と拳を打ちつけ、やがて臨戦態勢を取る。

 右手を前に突き出して左手でそれを掴み、腰を深く落とす。

 両手両足からは小さな火が立ち上り始め、深い紅色の髪は鮮烈な赤へと変化していく。

 ゆっくりと確かめるように右手を握り締めると、まるで狙いを定めるようにデクスへとその照準を合わせた。


「―――ふぅ。どうやらあなたとは、何よりもまず“落ち着いた時間”が必要なようですわね。とりあえずはその動き、止めさせていただきますわ」


 デクスは盛大な溜め息を吐きながら胸の下で腕を組み、やれやれといった様子で頭を振る。

 その拍子にズレた眼鏡をその細い指先で押し上げると、またしてもためらうことなく臨戦態勢のアニキへと一歩踏み込んだ。


「あっ!? で、デクス! 今その馬鹿に近づくな! その男は本気だ!」


 あまりの急展開についていけなかったリリィは正気を取り戻し、無防備にアニキへと近づいていくデクスに対して声を荒げる。

 デクスの実力も十分未知数だが……アニキ自身の戦闘力を知っているだけに、リリィは焦っていた。


「へっ。てめえの方から俺の間合いに入るたぁ、いい度胸じゃねえか。気に入ったぜ!」


 アニキはさらに強く拳を握り締め、背中から荒々しい羽のような炎を噴き出させる。

 その後さらに腰を落とし、いよいよ一撃を繰り出そうという刹那……デクスは小さく声を落とした。


「まったく、あなたは…………本当に何も、変わってないですわね」

「あ?」


 デクスはおもむろに手の平を返して口の下へと置き、その手の指先を、アニキの方へと向ける。

 この戦闘時に異例とも思えるその姿は、アニキを困惑させるに足るものだった。


「??? なんだ、そりゃあ。てめえやる気あんの―――」

「―――ふっ」


 アニキの言葉が全て揃うその前に、デクスは勢いよく息を吐き、手の平を滑ったその息をアニキの足元へと吹きつける。

 その瞬間急激な“痛み”が走り、アニキは反射的に足元を見つめた。


「ぬっなっ、なあああ!? てめえ、何しやがった!?」

「…………」


 アニキの足と地面は青く輝く氷で固定され、数ミリですら動かす事は許されない。

 足元から上がってくる急激な寒気に、アニキは背中を震わせた。


「てめええ、味な真似しやがって。こんなもんでこの俺が、止められっかああああ!」


 アニキは低めの体勢を解除して膝を伸ばし、両手を荒々しく広げると、足元の氷を溶かそうと全身の体温を上げていく。

 次第に足元の氷は解け始め、その拘束も意味を成さなくなってきた。


「何もこんなもので止められるなんて、思ってませんわ。ですが……」


 デクスはさらに一歩前へと踏み出し、アニキまであと数センチという距離まで間合いを詰める。

 下を向いた状態で、おぼつかない手つきで眼鏡を上げ、小さくため息を落とした。


「ああん!? てめえ、なにいっ……て……」


 足元の氷を溶かし、真っ直ぐにデクスを見つめたアニキは……その表情を見て両目を見開き、言葉を失う。

 次の瞬間デクスはアニキの顎を指で乱暴に押し上げ―――


「!?」


 アニキの唇と、自らの唇を乱暴に密着させた。


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